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49.本当の事 [AC30第1部グランドジオ]

「クライブント様!」
キラが声を響かせて、皆の前に出た。
「クライブント様、お尋ねしたいことがあります。」
父アルスは困惑した表情でキラを見た。
「なんだ、いきなり!無礼であろう!」
キラはアルスの制止を聞かず続けた。
「あなたは、ジオフロント最後の統治者だった方でしょう。そしてあなたはもうこの世にはいないのでしょう!」
キラの声がコムブロックに響いた。
「キラ!黙れ!下がれ!」
アルスが車椅子を勢いよく動かし、キラの許へ来た。
「父さん。父さんだって、判ってるはずだ!導師は、実在していない。遠い昔の亡霊に過ぎないんだ!」
キラが叫ぶ。
「黙れ!黙るんだ!」
アルスがキラを殴りつける。
車椅子の体になったとはいえ、昔はエリア一番の怪力の持ち主だった。太い腕で、殴られたキラは数メートルも飛ばされ、アランの足元まで転がった。
若者たちや子どもは、何のことか判らない様子で大人たちを見た。だが、大人たちはじっと静寂を保ったままだった。
アランが手を貸して、キラはゆっくりと立ち上がった。そして、居並ぶ住人達に向かって、キラが言った。
「僕は、禁断のエリアに入りました。」
それを聞いて住人達からざわめきが上がる。
「これを見てください。」
差し出したのはユービックだった。
「これは、禁断のエリアから持ち帰ったものです。・・さあ、見てください。」
ユービックから、禁断のエリアの様子がぼんやりと浮かんでいる。
映像は、クライブント導師が映っているビジョンに転送される。ぼんやりと浮かぶ映像、エリックのカメラが映し出したものだった。
「死に至る病が蔓延し、閉鎖されたと教えられ、立ち入ることを禁じられた場所。でもそれは嘘でした。ジオフロント全体を支えていたエナジーシステムが壊れ、機能が低下し、住めなくなったんです。その時、一部の人間を選び出し、ライフエリアで暮らすことが許された。大半の人間は、ジオフロントの中で亡くなったんです。・・そうですよね、クライブント様!」
ビジョンのクライブントは答えなかった。キラは構わず続ける。
「その時、決断したのが、ジオフロント最後の統治者であったクライブント様です。人類の滅亡を避けるためとはいえ、何万人もの人が、絶望の中で、自ら命を絶った。おそらく、想像を絶する世界だったはずです。そして、一番最後に命を絶ったのがクライブント様でしょう。」
「もう良い。止めろ。止めてくれ!」
キラを制止するように、父アルスが言った。そして、続ける。
「もう、はるか昔の先人類の時代の事だ。・・それに・・われわれの命は、その尊い犠牲の上に繋がっているんだ。」
アルスは全て知っているようだった。
「お前には・・私の命が尽きるときに伝えるつもりだった。・・ここに居る大人たちはみなそうやっていつか真実を伝えられることになっていたんだ。・・だが・お前は、禁断のエリアに立ち入った。・お前はこのライフエリアの秩序を壊した。・・・もはやここで生きる資格はない。」
アルスはそう言うと、キラの手からグラディウスを奪い切りつけた。しかし、不自由な体では長いグラディウスを思うように扱えず、剣先は空を切り、足元に転がった。
ビジョンのクライブントの声が響く。
『もう良かろう。その若者は扉を開けたのだ。それは、勇者の証。彼こそ、ジオフロントを復活させる使命を負ったものである。』
「勇者?」
誰かが呟く。

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