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50.導師の決断 [AC30第1部グランドジオ]

『すべてを伝えるべき時が来たようだ。』
クライブント導師の声は落ち着いていた。
『巨大な彗星の衝突が予見され、人類は世界各地に人類を守る為のシェルターを建設した。ここもその一つであった。今から700年ほど昔の話だ。ついにその日が来た。地表にあった人類のすべての都市は破壊され、地球規模の地殻変動が起き、気候も一変した。もはや、人類は・・いや多くの生命が、地表では暮らせないほどの過酷な環境だった。』
クライブント導師の話に合わせて、ビジョンに映像が映し出される。
『ここはグランドジオ73と呼ばれ、各地に作られたシェルターの中でも最も規模の大きなものだった。巨大な地下都市、人類が数百年・・いや1000年以上暮らせるだった。あの日から200年は、豊かな暮らしを続けていたのだ。』
ビジョンには、正常に機能していた頃のジオフロントの映像が次々に映し出される。
大人も子どもも、その映像を食い入るように見ている。そこには幸せそうな笑顔が溢れている。見たこともない生物・・牛や豚、犬や猫、空を飛びまわる鳥なども映し出されれている。
『しかし・・ジオフロントを支えるエナジーシステムが、突然不具合を起こしてしまったのだ。・・決断を迫られた。当時10万人もの人々が暮らしていたが、エナジーシステムの停止は、滅亡を意味する事は明らかだった。だから、人類の滅亡は避けなければならなかった。そのために、人々の選別を始めた。優秀なDNAを持つものを残す道を選んだのだ。そして、“選ばれし者”だけがライフエリアで暮らすことを許された。ここに居る者は、その末裔なのだ。』
最初の選ばれし者たちが、ライフエリアに入っていく様子が映し出される。皆、悲痛な表情を浮かべている。
『そして、私自らが、ライフエリアの隔壁のスイッチを押したのだ。・・残された者は、絶望し、自ら命を絶った。私は、統治者としてすべてを見届け、そして最後に命を絶った。』
ビジョンは真っ暗になった。そして再び、クライブントの顔が映し出された。
「エナジーシステム修復はできなかったのですか?」
キラが訊く。
『お前には判っているのだろう?エナジーシステムは、中心にあるカルディアストーンが全てだ。不具合が見つかったのはストーンの亀裂が判ったからだった。・・ここにある技術では修復できない事はすぐにわかった。それゆえ、他のジオフロントを頼るほか道がなかった。・・そして、勇気ある、多くの若者たちが、地表に出て、ジオフロントの探索に旅立っていった。だが、誰ひとり戻ってはこなかったのだ。』
「ジオフロントには、優れた武器がたくさんありました。グロケンやウルシンたちなど恐れる事はなかったはずです。」
キラが再び問う。
『確かに、ここには優れた武器はたくさんある。だが、200年間、ジオフロントで過ごしてきた者には、地表の世界は想像を絶するものだった。武器を満足に使える者は居なかった。過酷な自然の中を生き抜ける力を持っていなかったのだ。・・おそらく、皆、途中で息絶えたに違いない。』
皆、沈黙している。
今でも、地表の世界は容易く生きられるようなところではない。油断すれば、虫たちの餌食になる。酷暑と極寒の季節には、ほんの1時間でも耐えられない。実際、毎年、命を落とす男たちは絶えなかった。
『勇者、キラよ。お前は、禁断を犯し、全てを暴いた。すべてが明らかになった以上、人類の未来はお前の手に委ねられたのと同じなのだ。その事が、判っておるのか?』
強い意志を持つ言葉だった。
キラは、じっとビジョンを睨んでいる。
集まった人々の中に、キラの母ネキは居た。ネキは、クライブント導師に問い続けるキラを見て、驚きと恐れと悲しみに襲われ、立っていられないほど動揺していた。傍で、キラの妹さらがそっと母を支えていた。
「クライブント様、もう一つお聞きしたいことがあります。」
キラは覚悟を決めたようだった。
「このライフエリアのエナジーシステムにも不具合が生じ始めている事はご存知でしょうか?」
『なに?・・ライフエリアのエナジーシステム?・・・』
「ユービックが教えてくれました。今のままでは、ここもそう長くはありません。」
これを聞いた住民たちはざわめいた。
「どういう事だ、キラ。」
アルスが訊く。
「ジオフロントのエナジーシステムが故障した事を調べていた時、ライフエリアのエナジーシステムも見てみたんです。もともと緊急用のシステムでした。ユービックの計算では、あと10年ほどで完全停止するのです。

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