SSブログ

51.悲哀 [AC30第1部グランドジオ]

『それは間違いない事なのか?』
住民たちのざわめきの中に、クライブントの声が響く。
「ええ、残念ながら・・まちがいありません・・。出力の低下は明らかでした。今後、どれほど維持できるのか、はっきりとはわかりません。ですが、少なくとも10年後には完全に停止するでしょう。・・」
『それは想定されていなかったことだ。』
クライブントはそう言うと、沈黙した。
住民たちのざわめきは収まらなかった。いや、クライブントの言葉に、一層、不安が広がり、女たちの中には、泣き崩れる者が出た。
「キラ、修復できないのか?」
アルスが問う。
「ジオフロントのエナジーシステムが停止した時と同じです。代わりになる、カルディアストーンを手に入れる以外ありません。」
「しかし・・そんなことができるのか?」
アルスの問いに、キラは即答しなかった。
『キラよ!お前は禁断のエリアに立ち入り、秘密をすべて暴いただけでなく、ライフエリアの危機さえも、皆に明らかにしてしまった。もはや、ここに住む者たちには、未来はないと宣言したのだ。この罪は重いぞ。・・・』
未来はないというクライブントの言葉が、コムブロックに響くと、皆、声を上げて泣いた。
今でさえも、絶えず、食糧の不安を抱えている。命をかけて虫たちと闘わねばならず、これまでにも多くの男たちが傷つき命を落としてきた。じっと息を殺して生きているような過酷な暮らしを強いられている。この先、ライフエリアのエナジーシステムが故障すれば、どのような暮らしになるのか。おそらく、一年も暮らせはしない。そんな未来を想像して皆悲しんでいる。

クライブントの言葉をじっと聞いていたアランが叫ぶ。
「キラは真実を明らかにしただけでしょう。このまま、何も知らずにただ死に向かうしかない運命よりもずっとましじゃないですか!それのどこが罪なのでしょう。」
『お前は誰だ?』
クライブントが訊く。
「おれはアラン。俺も一度、通路に入り、禁断のエリアの入り口まで行きました。そして、その扉に貼られた紙を読みました。そこには、勇者よ、扉を開け未来を拓けとありました。あれは、あなたが貼った物でしょう。・・いつか、禁断を破る者をずっと待っていたんでしょう。・・俺はあの貼り紙を剥がしました。だから、キラは何も知らず禁断のエリアに入ってしまったのです。罪というなら、俺の方が重いはずです。」
アランは、顔を紅潮させて言い放つと、剥がしてしまった貼り紙を掲げた。セピア色に変色している紙には、黒く変色した血文字が見えた。
『では、キラとアラン、お前たちが力を合わせ、この危機を救わねばならない。』
「はい。」
キラとアランは揃って返事をした。
『さて、ではどうするつもりだ?』
クライブントが問うと、キラが躊躇なく答えた。
「カルディアストーンを探しに行きます。」
それを聞いて、アルスが言う。
「クライブント様は、探しに出た若者たちが居たが全て命を落としたと言われたではないか!無理だ!いくら、狩猟の腕前が良くても、どれほど遠くまで行けるというんだ?灼熱と極寒の季節が訪れればそこで死ぬほかないだろう。到底、できるわけはない。」
「確かに、僕とアランだけではきっと無理でしょう。しかし、方法はあります。」
キラは落ち着いて答える。ホスピタルブロックの前で車椅子に座ったプリムの傍に、居たハンクが心配げに呟いた。
「キラのやつ、一体どうするつもりかな?カルディアストーンはそんな簡単には手に入らないって言ってたよな。」
「キラにはきっと考えがあるに違いないわよ。」と、ガウラが言う。

nice!(2)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0