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3‐42 PCXの作戦 [AC30 第3部オーシャンフロント]

キラやニコラたちはすぐに準備に入った。
ドロスのエルピスが、タワーの真下の地下空間まで皆を案内する。そこは、タワーの廃棄物が集まるところだった。そこれ、ドロスの女性たちは、廃棄物を仕分けて、使えそうなものを手に入れていた。
ダモスは、ドロスたちから、壊れたPCXの破片を譲り受けていたのだった。
「この上が、命の泉、クローンたちが育つ部屋の入口です。」
PCXフォルティアが、一人ひとり、運び上げた。
「あの部屋に入ったら、『イグニス』を強く握ってください。強い光に反応し、一気に部屋が破裂します。」
たくさん並ぶ部屋にそれぞれ分かれて入り込んだ。
キラたちも一つの部屋に入り、『イグニス』を強く握った。
予定通り、次々に部屋が破裂していく。
羊水のような水が飛び散り、ほとんど人間の形に近い状態まで育ったクローンたちがぐったりと横たわる。
広い空間に夥しい数のクローンの亡骸が並んでいく。
ダモスも、ドロスも、涙を流している。
目の前に横たわる亡骸は、自らと同類なのだ。皆、一体ずつ、丁寧に扱った。ようやく人間に近い形になっている者もいれば、まだ、何かも判らないほど小さなものもあった。クローンではあるが、それは確かに命を持っている。命の泉を破壊することは、多くの命を奪うことであったことを、改めて知らされ、心が痛んだ。

「皆、無事か?」
ニコラが確かめる。計画通り、クローンを育てている部屋はほとんど破壊できた。
キラは、横たわるクローンの亡骸を一体ずつ確認した。自分の遺伝子を持つクローンが居るはずだ、あるいは、カルディアとキラの二人の遺伝子を持つクローンかもしれない。そう思いながら、じっくりと確認していった。キラの様子に気づいたフローラも、横たわるクローンの亡骸を調べる。皆、自分と・・いや、カルディアに似ていた。
「生きてる者がいるぞ!」
ダモスの男の一人が叫んだ。
皆、そこへ駆け寄り、様子を見ようとして、人垣ができた。
「男の子のようだ。・・こいつは・・・」
人垣の真ん中で、ニコラが言った。すぐに、キラが人をかき分けて中に入る。
カルディアのクローンならば、全て女性である。男の子ということは、自分の遺伝子を持ったクローンではないか、複雑な思いで、ニコラが抱える男の子を見た。
わずかに息をしているようだが、全身が青く、もはや、命の火は消える寸前だった。
キラは、戸惑いながらも、そっと手を伸ばす。だが、触れることができない。何か存在してはいけないものがそこにあり、自分自身が何者なのかを問われているようで、ただ、目の前のクローンを見つめるしかできなかった。
やがて、息づかいが小さくなり、そのまま、眠るように息を引き取った。ニコラがそっと床に降ろす。

「人間を・・命を・・なんだと思っているんだ!」
キラは、無性に怒りが湧いてきた。
それは、ダモスやドロスたちにも伝わり、悲しみと空しさと怒りが混ざりあい、皆、嗚咽しながら涙を流した。
「さあ・・皆さんは、どこかに隠れてください。」
PCXフォルティアが抑えた声で言った。その声と同時に、上空から何かが近づいてくる音がした。
見上げると、カルディアのドーム『アルコーン』が降りてくる。上には、新たに選ばれた『カルディア』が乗っている。カルディアを乗せたアルコーンは、広い空間に横たわる夥しい数のクローンの亡骸を確かめるように、ゆっくりと巡る。
キラとフォルティアは、アルコーンの前に立った。厳しい眼差しで『カルディア』は二人を睨み付ける。
「お前たちがやったことがどういうことか判っているのか?」
カルディアの声が以前とは違い、少し若い。それに、その声には聞き覚えがあった。
「その声は・・ステラ・・、ステラじゃないのか?」
キラの言葉に一瞬、『カルディア』が戸惑いの表情を浮かべた。
「何を言っている。私はカルディア、永遠の命を持つ者であり、オーシャンフロントの支配者である。」


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