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1-23 秘書 安永 [同調(シンクロ)Ⅱ-恨みの色-]

「奥さん、これは?」といって一樹が手に取った。
「あっ・・それは・・主人のお守りです。」
「お守り?」
一見、そんなものとは思えなかった。
「ええ、そう話してくれたことがありました。お守りというか、戒めのようなものだとも言っていました。」
「戒め?」
一樹はそう言うと、袋をゆっくり開け、中を覗いた。袋の中には、透明の小袋に入った黄色い飴玉があった。
「これは何でしょう?少し、お借りしていいでしょうか?」
奥さんは同意した。

「お守りが飴玉ってどういう事だろう?」
一樹は車に戻ると、預かったお守り袋を眺めながら、呟いた。
「良く見せて。」といって、亜美は一樹から『お守り袋』を取り上げると、丹念に調べる。
「かなり古いものみたいね。それに、こんな飴玉見たことないもの。」
そう言って一樹に返した。
「鑑識の川越に調べてもらおう。何かわかるかもしれない。」
一樹はそう言うと、車を急発進させた。
橋川署へ一旦戻った一樹は、鑑識の川越に、『お守り袋』を渡しながら言った。
「川越君、済まないが、これを調べてくれないか?佐原氏のお守り袋らしいんだが・・」
川越は袋を大事そうに受け取る。
「中に、飴玉が一つ入っている。・・見たところ、随分古い物のようなんだが・・何か引っかかるんだ。」
「わかりました。どこで作られたものか調べてみます。佐原氏の過去につながるヒントがあるかもしれませんね。」
「ああ・・頼む。」

そこへ、鳥山課長から、秘書への事情聴取をもう一度行うよう指示が出た。上村氏の遺体がなかなか発見されない状況から、鳥山課長は本当に自殺だったか疑問を抱いているようだった。
すぐに、一樹と亜美は豊城市の上村氏の自宅へ向かった。
上村氏の捜索は続いていた。現地には、鳥山課長は赴き、状況を逐一、橋川署へ知らせていた。
水量が多い時期のため、捜索範囲を広げ、豊城市から橋川市の境に当たる下流にまで及んでいる。
鳥山課長から事情聴取の要請は届いているようで、一樹と亜美は上村氏の自宅に着くとすぐに中に案内された。
広いリビングルームの真ん中には大きなソファが置かれていて、秘書の安永は、疲れ切った様子で座っていた。
「すみません。お疲れのところ。もう一度、お話を伺いに参りました。」
一樹は丁寧な口調で切り出した。
「もう何度もお話しています・・いい加減にしてもらえませんか。・・疲れているんですよ。先生が亡くなったと聞きつけた支持者からひっきりなしに問い合わせがあって大変なんです。ついさっきも後援会長からも今後の事を相談しようと・・ですが、まだ、先生のご遺体も見つかっていないんです。それどころじゃあない。皆、自分の事しか考えていない。」
安永は、一樹と亜美に話すというより、愚痴のように呟いている。
「本当に申し訳ありません。もう一度、朝からの行動をお願いします。」
安永は、豊城署でまとめた経過と寸分たがわぬ説明をした。
「病院から自宅までは、安永さんの運転ですね。」
「ええ・・運転手兼秘書のようなものですから。」
「ご自宅に戻られた時、奥様や家政婦の方はいらっしゃらなかったんでしょうか。」
「ええ・・奥様は確か、お花の教室だったと思います。家政婦は買い物に出ていたと聞きました。」
「その後、あなたは、私用で1時間ほどいらっしゃらなかったという事ですが・・どこに?」
「あの・・何か私は疑われるような立場なのでしょうか?」
安永は少し不満そうな表情だった。
「そういうわけではありません。一応、豊城署の調書の再確認のためです。気分を害されたのなら謝ります。」
「実は、以前から胃の具合が悪く、薬局へ薬を取りに行ったんです。ただ、ちょうど昼休みの時間らしく、待たされてしまったんです。すぐに戻る予定だったんですが。」
安永はそう言って、カバンの中から薬袋を取り出して見せた。
「戻ってくると上村氏が不在だったという事ですね。」
「ええ・・お車がなかったので・・ただ、先生は何の連絡もなく、外出されることは、これまで一度もありませんでしたから、少し心配になりまして・・・携帯に連絡してもお出になりませんし・・ちょうどそこへ、に家政婦が戻って来ましたので、一緒に、周辺を探すことにしたんです。」
「大の大人が外出くらい・・普通にあるんじゃないんですか?」
亜美が少し不思議に感じて尋ねた。
「ええ、散歩なら別に構わないんですが・・お車がなかったので。」
「立派な外車をお持ちなんですから、ドライブをされても不思議じゃないでしょう?」
今度は一樹が訊く。
「いえ、先生は、ほとんど運転なさいません。・・若い頃、交通事故に遭われたようで・・たいていは、私が運転手をしておりました。」
「事故?加害事故ですか?」
「詳しくは存じません。先生はその事故についてお話になりたくないようでしたから。」
「その事故が、自殺と関係があるという事は?」
「いえ、それはどうでしょう。少なくとも、私が秘書になってから、交通事故の事は、全く話題にもなっていませんでしたし、何かトラブルになるようなことはなかったと思います。」
「そうですか・・。では、あなたが、豊城公園で上村氏の車を発見したのは何か気になることがあったからでしょうか?自宅からは離れていますし、何か特別な理由でも・・・。」
一樹が訊いた。
「ああ・・それは・・・先生は、あの公園の展望台がお好きだったからです。豊城川の流れと眼下に広がる街並み、あの場所に立つと、議員としてもっと働かなければいけないと思わせてくれるとお話されたことがあって、議会の前や大事な仕事の前には立ち寄られていました。もしかしたら、何か、考え事でもされているのではないかと思ったんです。」
安永の説明は、ある程度、納得できるものだった。3/30

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