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2-15 戦の仕方 [アスカケ外伝 第1部]

タケルは、宮殿に着くとすぐに摂津比古に接見した。
「ちょうど良い所に来た。先ほど、大和から使者が着いた。どうやら、紀之國では、異国の者が大船で外海から入り込み、海辺の村を襲っているようだ。大和からの知らせでは、じきに、難波津へ入り込むのではないかとの事。摂政様も急ぎこちらに向かわれている。」
摂津比古は、やや動揺した表情で、タケルに言った。
「やはり・・そうでしたか・・。先ほど、シンチュウの館に将軍らしき人物が訪れたようなのです。シンチュウは、弁韓の王の代理と言って、難波津に入り込み、倭国攻めの準備をしていたに違いありません。」
「中津海は、アナトのタマソ王や吉備、明石など、悪しき者から大和を守る力は強い。外海は波も高く、潮の流れも強い。入ってくる事は容易くないため、それほどの守りはしていなかった。そのことを、シンチュウは弁韓に知らせていたに違いない・・。」
「今、ヤスキが港から船を出しています。きっと、どれほどの船や兵がいるかもわかるはずです。・・ただ、いつ戦を仕掛けられるか判りません。」
「ああ・・すぐに兵を集めよう。明石にも使いを送った。中津海にいる兵を援軍として迎えねばならぬ。・・タケル、大路の館主たちに、戦支度を始めよと、知らせてくるのだ。良いか、タケル。これは、これまで誰も経験した事の無い戦になるやもしれぬ。そして、万一、この難波津が落ちれば,ヤマトすべての国の安寧が消え去る。覚悟して掛かるのだ。」
摂津比古は、そう言うと、従者を集め、指示を出した。宮殿の中では、多くの者が慌ただしく動き始めた。
タケルは、急いで宮殿を出て、吉備の館に向かった。
吉備の館は、大路の中央部分にあり、周囲の館より一回り大きく、日ごろから館主たちが集まる場所になっていた。
吉備の館には、すでに、周囲の館主が集まり始めていた。港に向かったヤスキの話を聞いた港の長が、館主たちに知らせていたのだった。
タケルが、館主たちに摂津比古の言葉を伝えると、館主たちは急ぎ、自分たちの館へ戻って行った。
暫くすると、大路には、驚くほどの静寂が訪れた。まだ、昼を過ぎたばかり、いつもならば、人が行き交い、にぎわうはずの大路に人影がなくなった。
それとは裏腹に、大路の裏、岸辺の道には、戦支度をした男たちが列をなして宮殿に向って行く姿が見え始めた。どこにそれ程の男たちが居たのかと思うほどであった。
タケルが、ふたたび、宮殿の大広間に戻ると、摂津比古の前に、多くの者が居並んでいた。みな、緊張した面持ちであった。
摂津比古は立ち上がり、皆に言った。
「今、難波津に恐るべき事態に立ち向かおうとしている。カケル様の大和の平定以来の事態だ。皆、知恵を出し、この難局を乗り越えるのだ。」
摂津比古の太くて威圧感のある声が大広間に響く。
それを聞いて、一人、男が立ち上がった。筋骨隆々、上背もあり、見るからに兵と判るものだった。
「衛士長のオオヨドヒコでございます。すでに、宮殿広場には、数百の兵が集まっております。ヤマトを守るため、皆、命を捧げる覚悟でございます。海から来る弁韓の兵なぞ、恐るるにたりません。」
気炎を上げるように言った。
「そうか・・それは頼もしい。だが、それらの者は戦の覚えはあるのか?・・海から来る者とどのように戦うか判っておるのか?」
摂津比古が訊く。それには、オオヨドヒコは即座に答えられなかった。大和平定以来、大きな戦は無かった。皆、剣や弓の腕前は確かではあるが,実戦の経験などない。
「あの・・良いかな・・。」
と、翁が立ち上がる。
「おお、これは草香江の翁殿。何であろうか?」と摂津比古。
「前の戦から十数年。安寧な世の中になり、ここにいる者の中であの戦を知る者も少なくなりました。そこで、敢えて、この老体からの言葉を聞いて下され。」
「おお、良かろう。是非もない。」
摂津比古の言葉に、翁はかすかに微笑み、言葉を続けた。
「あの戦で、我らが勝利したのは、難波津の地を知り尽くしていた故。此度は、海から攻めて来る。ならば、海を知る者が勝者となりましょう。」
と、翁が言う。
「そうか・・海を知る者か、して、良く知る者は誰であろうか・・?」
と、摂津比古は翁に訊ねる。
「ここらで海を知るものと言えば、漁師。特に、石津のカツヒコは、若いながらも明石から紀伊の海まで、漁に出ておって、誰よりも詳しいはず。だれか、石津のカツヒコを呼んで来て下され!」
翁は、大広間の隅に控えていた衛士を見た。
戸惑う衛士に、翁が更に言った。
「きっと、外門辺りに控えておるはずじゃ。朝方、港に来て居ったからのお。」
それを聞いて、衛士は慌てて、大広間を出て行った。
まもなく、先ほどの衛士が、大男を連れてきた。
顔も体も日に焼け、真っ黒で、大きな体を揺すり乍ら、カツヒコは大広間に入り、翁の横に座った。

漁師.jpg

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