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2-17 様子を知る事 [アスカケ外伝 第1部]

「摂政カケル様も、きっと同じお考えであろう。敵とて人。むやみに命を奪う事は避けたいものだ。・・それで、何か策はあるか?」
摂津比古が訊く。
タケルはすぐには考えが浮かばなかった。
そこへ、ヤスキとヤスが入ってきた。
「お知らせしたい事がございます。」
ヤスキは、大広間に入るなり、大きな声でそう言った。
「おお、ヤスキ殿、奴らの様子は判ったか?」
そう言って、摂津比古は、ヤスキを皆の前に呼んだ。
「大船が一艘、境津の沖あたりにおります。ここにおります、ヤスがその目で見て参りました。さあ、ヤス様、見てきた事をお話しください。」
ヤスキは、そういうとヤスを皆の前に引き出した。
ヤスは、居並ぶ男たちを前にして、大層緊張してしまい、声を詰まらせてしまう。
「大丈夫です。皆の命を守るため、大きな仕事をされたのです。自信をもってお話しください。」
タケルがヤスに声を掛けた。
ヤスは、深呼吸すると、ゆっくりとヤスキにした話を、順を追って話した。
一通り、ヤスの話を聞いて、大広間にいる者は皆、これまで予見していた通りの事が現実に迫っている事を再確認した。
「では、将軍の船にはシルベ様が忍んでいらっしゃるのですね。」
タケルは再度確認するようにヤスに訊いた。
「はい。でも、シルベ様は火を放つつもりだと・・それでは、シルベ様の御命も危ういはず、どうにか、ご無事に戻っていただきたい・・。」
ヤスは声を詰まらせた。
「大丈夫です。戦にならぬよう知恵を絞りましょう。」
そう言って、タケルは、ヤスキとヤスにこれまで大広間で話してきた事を伝えた。
「ヤス様、すまないが、もう少し詳しく聞かせてくれませんか。」
そう言ったのは、ウンファンだった。
ウンファンは訊く。
「その船には、大きな帆があったはずだが、どのような文様でしたか?」
「確か・・大きく赤い模様が・・異国の文字のようでもありました。」
ヤスは、その時の光景を思い出しながら答えた。
「そうですか・・。やはり、その船は弁韓の将軍の船に間違いないでしょう。」
ウンファンが言うと、摂津比古が尋ねる。
「なぜ、将軍の船だと?」
ウンファンは、少し考えてから答えた。
「私は以前、母国に居た時、一度だけ、水軍の襲来を受けました。弁韓の水軍は、大きな赤い文字・・韓国の文字で水軍の将の名を掲げております。そして、船の大きさからすると、ざっと二百人ほどの兵がいるのではないかと思います。」
「弁韓の水軍はどれほどのものか判るか?」
「弁韓の水軍は、大抵、将軍の船に伴船八艘で一つの軍となっております。兵の数はざっと五百から千と言ったところでしょう。将軍の船には、弓矢や剣で武装している兵だけでなく、大きな投石器もあり、陸にいる兵や家屋を狙って石礫を降らせます。ただ、沖に居たのが、将軍の船だけということは、伴船はまだ、こちらに向かっている途中なのでしょう。」
ウンファンがそう言うと、
「おそらく、伴船は紀之國の村を襲いながら、こちらに向かってきているのでしょう。おそらく、全てが揃うのを待って、戦を仕掛けるつもりなのでしょう。」
タケルが、続けた。
「摂津比古様、明石や吉備の援軍はいつ頃になりましょうか?」
と、タケルが問う。
摂津比古は、隣にいたオオヨドヒコを見る。
「おそらく、明石の水軍は、十隻・・いや二十隻ほどで、明日には難波津の沖には来るはずでしょう。吉備やアナトも向かっておられるはずですが、三日は掛かるでしょう。」
オオヨドヒコはやや緊張気味に答えた。
「では、三日あれば、難波津の沖合には、弁韓の倍の数の援軍の船が、並ぶことになりますね。」
「ああ、そういうことだな。」
と、摂津比古はオオヨドヒコに確認するように言った。
「弁韓の将は、シンチュウ殿に、難波津の実情を探らせていたと考えられます。これほどの兵がいるとは思っていないはず。ましてや、それほどの水軍が来ることも知らぬはず。ならば、シンチュウ殿を使って、こちらがまったく戦を予見していないように見せてはどうかと考えます。」
「敵を油断させ。攻め入る日を遅らせようという事か?だが、シンチュウは我らの言うことを聞かぬぞ。」
「良いのです。今、将軍が現れてこちらの様子をもっと詳しく知らせるよう指示したのではないかと思います。ですから、こちらの隙を見つけようと必死なはずです。私に一つ考えがあります。」
それから、タケルは、皆を前に次第を話した。
「良かろう。皆の者、判ったな。さあ、支度を始めよう。」
タケルの考えを聞いた摂津比古は、皆に号令した。.

大広間.jpg

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