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2-21 開戦 [アスカケ外伝 第1部]

弁韓の水軍は、江口の先に姿を現した。待ち構えるように、難波津から出た小さな軍船が真っすぐに向って行く。
「何と、我らが来ることを知っておったのか!」
軍船の中で、サンポ将軍は驚きを隠せない様子だった。
「ふん!あんな小舟、すぐに沈めてやろうではないか!伴船に蹴散らせと命じよ!」
軍船の脇に居た伴船が徐々に軍船から離れていく。
敵からも船が向かってくるのが確認できたようで、船縁に兵が整列している。
「よし、回り込むぞ!」
難波津の軍船が、北と南の二手に分かれる。
それを追うように、弁韓の伴船も二手に分かれる。中央を軍船が真っすぐに江口に向かう格好となった。
「伴船との距離を保て!・・あまり、早く進まぬよう、ゆっくりで良い!」
難波津の船の中で、兵たちが漕ぎ手に号令する。弁韓の伴船は、思ったより速度が出ないようだった。何やら動きがぎこちない。左右に大きく揺れていて、船縁の兵たちも弓矢を構えるのも容易ではなさそうだった。
「あの船の漕ぎ手は、さほど、訓練されておらぬようだな。よし、浜の浅瀬に引き込んでやろう。」
難波津の船は、難波津の浜が見える辺りに向かった。三隻の伴船が後を追う。しばらく、浜へ向かって真っすぐに進む。浜の沖合には、千鳥岩と呼ばれる岩礁がある。そこより浜側は、ところどころ浅瀬になっていて、場所によっては、膝ほどの深さしかない。千鳥岩を回り込み、すぐに折り返し沖へ向かう。弁韓の伴船は旋回するのに手間取っている。そのうち、浜の浅瀬に座礁して身動き取れない状態となった。
「これから、さらに引き潮になる。あの辺りはすっかり砂浜だ。陸に上がるほかないが・・その先はまた深み。行き場を失うに違いない。」
千鳥岩の辺りに船を止め、しばらく様子を見ていると、予想通り、船から兵たちが下り始めた。だが、甲冑を付けた重い体では、まだ潮が引いたばかりの砂地に足が埋まる。そのうち、何人かが身動き取れなくなったようだった。
「よし、討ち獲れ!」
難波津の船は、弁韓の伴船を取り巻くように集まり、一気に矢を放ち、兵を捕らえた。
一方、北へ進路を取った船の後を追った弁韓の伴船は、難波津の船に追いつくほどの速度があった。
「これはまずい。このままでは追い付かれるぞ!もっと早く漕げ!」
兵は漕ぎ手に号令する。漕ぎ手も必死に漕いでいるが、徐々に距離が縮まってくる。そのうち、敵の矢が届くほどの距離になった。
「反撃せよ!」
小舟に乗っている十名ほどの兵が矢を射かける。ただ、いずれも致命傷には至らない。
必死に逃げる難波津の船は、さらに北へ向けて進む。
「よし、あと少しだ。船をつけて一気に片を付けるぞ!」
敵の伴船の兵長がそう号令した時、船の先端で前方を見ていた他の兵が叫ぶ。
「敵船です!かなりの数です。」
指さす先には、大きな軍船が数十隻、並んでいる。
弁韓の兵たちは、その姿を見て、一気に戦意を失った。
「無駄な抵抗はするな!」
オオヒコが軍船から叫ぶと、弁韓の伴船の兵たちは、弓矢や剣を海へ放り投げた。
大きな戦いもなく、ケリがついた。
サンポ将軍の軍船は、計略通り、ただ一隻で江口から水路に入ろうとしていた。だが、難波津の船団が姿を見せた事で、戦の構えがあるのでは察知したサンポ将軍は、江口の少し手前に船を止めた。
「先ほどの船・・どうも気になる。ここは少し様子を見ようではないか。」
軍船の船長室から、サンポ将軍は周囲に目を凝らした。
脇に居たヒョンテが、上目遣いに言う。
「それほど気になさらずとも・・あの船を見る限り、ヤマトの戦力など知れたもの。この軍船であれば、一気に難波津宮を落とす事も出来ましょうに・・。」
「それは無能な者の言い草。勝つためにはいかなる些細な事も逃してはならぬ。相手を見くびると、ろくなことにならぬぞ!」
サンポ将軍は、ヒョンテを叱りつけるように言う。
「だが・・これだけの水路であれば、例え、岸から矢を射ても、この船には届かぬな。よし、船を進めよ。水路の真ん中を行くのだ。良いな!」
ちょうど、三本松の辺りまで船が入った時、両岸から、一斉に矢が放たれた。
「やはり、待ち伏せされていたか!」
サンポ将軍は、予想していた通りだと考えたが、飛んでくる矢が全く軍船には届く気配がない事が判ると声を立てて笑った。
「なんだ、あの矢は!あれでは戦にならぬぞ!愚かな事を。よし、抛石を使え!あの兵たちの頭上に降らせてやるのだ!」
サンポ将軍は、余裕の笑みを浮かべて号令する。
軍船には、長い腕柱をもった抛石(投石器)が、前後に二基取り付けられていた。
船の舳先辺りにある投石器を、兵が引き出し、石を運び、号令と共に一気に打ち出した。大小様々な石が、空高く飛び出す。小さな石が岸辺にいる兵たちの頭上から降ってくる。中には、握りこぶしほどの石もあり、数人が肩や腕に当たり、悲鳴を上げる。
「皆、一時、葦の中に隠れよ!」
オオヨドヒコは、慌てて号令する。軍船からは両岸に向けて、幾度も石が浴びせられた。
弁韓の軍船は、ゆっくりと水路の中央を進んでいく。
「これでは奥深く入られてしまう。」
小舟で戦の様子を見ていたタケルはうろたえた。
兵士2.jpg
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