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2-25 後始末 [アスカケ外伝 第1部]

サンポ将軍たちを捕らえた後、逃げ出した兵や捕虜となっていた紀之國や辰韓の人達も、皆が手分けして探し出し、難波津宮へ集めた。そこには、西国の水軍の者達も顔を出し、宮殿前の広場は、多くの人々であふれ、大路にも勝利を喜ぶ人々が集った。
広場から宮殿に上がる石段の先にある、広い壇上には、摂政カケルと摂津比古、兵長のオオヨドヒコ、それにタケルとヤスキが並んだ。
そこに、荒縄で縛り上げられたサンポ将軍とヒョンテ、さらにシンチュウが、数人の衛士に引っ張られるように連れて来られた。三人は、摂政カケルの前に跪く格好にされた。
「さて、戦の始末をせねばなりません。いかがしましょう。」
摂政カケルは、三人をじっと見ながら言った。
「我は弁韓の大王の代理としてきたのだ。このような仕打ちは赦せぬ。」
サンポは、こんな状況でも、まだいきがっている。
「ならば、そなたたちの処遇は、弁韓の大王にお任せした方が良いようですね。ちょうど、こちらに、弁韓より大王の使者が参られているので、お連れしましょう。」
そう言うと、摂政カケルは、脇に控えていた明石のオオヒコに合図する。
オオヒコは、宮殿に入ると、金色の高貴な衣装を纏った若者を連れて来た。
その若者は、摂政カケルに深々と頭を下げると、キッとサンポを睨み付けた。
「サンポよ。私の事を知っておるな!」
顔を上げたサンポは、急に青ざめ震え出した。
「お前は・・。」
サンポはそこまで言うと、力なく下を向いてしまった。
この男は、新しい大王であるヒョンシクの第一皇子、ソヌであった。
キスル大王の時代、弟のヒョンシクは、兄から嫌われ都を追われ、辺境の地を彷徨った。ソヌも、父と共に辛い暮らしに耐えてきたのだった。
だが、キスル大王の悪政に耐え兼ねた民衆は、武力で蜂起し、ヒョンシクを次の大王に担ぎ上げ、各地で反乱を起こした。
そして、若き皇子ソヌは、その戦の先頭に立ち、民と伴に戦ったのであった。したがって、ヒョンシク大王の、次なる大王として民衆からの信望を集めていた。
サンポ将軍は、キスル大王の側近であり、ヒョンシク一族を追放した張本人だったのだ。
「そなたには、随分と痛い目に遭わされた。だが、先代の王が危うくなったとみるや、いち早く逃げ抜けたであろう。そして、海を越え、このヤマト国で悪行をはたらくとは、まったく、弁韓国の恥である。祖国でも多くの民を殺めたのは判っている。すぐにも、祖国へ連れ帰り、民の怒りを鎮めるためにも、厳重な罰を課さねばならぬ。」
ソヌ皇子の言葉に、サンポは返す言葉も無くうなだれている。横にいるヒョンテも顔を伏せたまま、縮み上がっていた。
「判りました。それでは、サンポ、ヒョンテの両名は、ソヌ皇子に引き渡しましょう。ですが、シンチュウはいかがいたしましょう。」
摂政カケルが問う。
「シンチュウは、商人。祖国で多少の悪さはしているでしょうが、それよりも、難波津宮での悪行の方が重い。そもそも、ヤマトへ戦を仕掛ける手引きをしたのもシンチュウ。あやつは、カケル様にお預けいたします。」
ソヌ皇子はシンチュウを睨み付けて答えた。
「判りました。では、難波津で相応の償いをさせましょう。摂津比古様、お願い申す。」
カケルが言うと、摂津比古は頷き、衛士に命じて、三人を地下牢に連れて行かせた。
「兵たちはどういたしましょう?」とカケル。
「彼らは、将軍に命令されただけの事。だが、紀之國での仕儀は盗賊と同じ。やはり、何らかの罰を与えねばならぬでしょう。」
それを聞いて、カケルが言った。
「あの中には、祖国に家族のある者もいるでしょう。もはや、祖国には戻れぬ者もいるかもしれません。兵たちに選ばせては如何でしょう。」
ソヌ皇子は少し考えてから答える。
「良いでしょう。人は国の宝。生きて尽くす事こそ尊いと父から教えられました。」
カケルはその言葉を聞き、衛士たちに、捕らえた兵たちに自らの道を選ばせるように、と下知した。広場の一角に集められていた捕虜兵たちは、涙を流しているのが判った。
「カケル様は、タマソ王からお聞きしていた通りの御方でした。そして、ヤマトの安寧の理由がよく解りました。」
ソヌ皇子が言うと、カケルは少し微笑んで答える。
「いえ・・私も昔は多くの命を奪う戦をしてきました。後悔ばかりです。今のヤマトの安寧は、戦で作ったものではなく、民の力の賜物なのです。私一人にできる事など僅かです。弁韓国も、そうではありませんか?」
ソヌ皇子は、カケルの答えを聞き、笑顔で返した。
「弁韓の未来は明るいですな。」
二人の会話を聞き、摂津比古は、満足して、そう言った。そして、広場に向かって響き渡る声で言った。
「よし、これから、弁韓国とヤマトの未来のために、祝いの宴を始めよう!」
その声を聞いて、厨房から大皿に盛られた料理や酒が運び込まれる。
厨房では、ヤチヨが活き活きと働いていた。
諸国が献上した、珍しい食材に囲まれ、思うように料理ができる。願いがかなった。
ヤチヨは、これまで学んできた知識と技を総動員して奮闘していた。
広場にひしめくほどの人が、料理を見て、歓声を上げる。
難波津の者だけではない。囚われていた辰韓の人間も、軍船の漕ぎ手にされていた紀之國の者も、男も女も、みな、喜びに満ちた表情で、目の前の料理や酒を食べ、飲んだ。中には、力比べをする者や、それぞれの国の言葉を教えあう者、歌い踊り、宴は過ぎていく。
宴.jpg
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