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2-28 難波津を知る [アスカケ外伝 第1部]

「じゃあ、次は、大路を通って、堀江の庄へ行きましょう。ここからは、私が案内しましょう。」
そう言ったのは、同行してきたヤスだった。
一行は大路から真っすぐに港を目指した。両脇に建ち並ぶ諸国の館、高く積み上げられた産物、それを忙しそうに運ぶ人々、活気がみなぎっている。
「難波津は、昔、ヤマトの都でした。葛城王様が治められていた時代にも、たいそう、にぎやかだったそうですが、カケル様が水路の開削をされ、草香江が湿地から見事な農作地に変わり、多くの人が集まりました。同時に、堀江の庄も大きくなり、今、ここには、西国から、多くの人と物が集まるようになりました。」
ヤスは我が事のように嬉しそうに話した。
「ヤス様はここでお生まれになったのですか?」
ソヌが訊く。
「いえ・・私は吉備の国、鞆の浦の生まれです。父を亡くし暮らしに困っていた時、吉備の国王から、こちらで働くよう勧められ、母と弟と三人でここへ来ました。」
ソヌが頷く。それから、ヤスは、大路の館一軒ごとに、その国の産物や様子を順に話していく。ソヌ皇子はそれを楽しそうに聞いている。
「西国の方々の本当の役目は、故郷の国に必要なものを調達する事なのです。米が足りなければ、米を。布が足りなければ布を・・自国の産物と交換するのです。時には、交換する産物が無くても、互いに事情を理解し、融通しあう事もあります。皆が、そういう約束もしているのです。」
「それは素晴らしき事。奪い合うのではなく分け合うという事ですね。」とソヌ。
「ええ・・そうです。」とヤスが答える。
「このような仕組みを考えられるとは・・さすが、カケル様ですね。」
「ええ・・でも、それは、仕組みではないのです。摂政様がアスカケの旅で作られた絆があり、皆が自然に作り上げたものなのです。」
ヤスの答えに、ソヌはほとほと感心したようだった。
「ヤス様は、随分と詳しいようで、感心しました。よく勉強されましたね。」
そう聞いて、ヤスは驚いた顔をした。
「いえ・・私は、宿主様の御用事をしているうちに、覚えた事をお話しただけです。」
「それで良いのです。ヤス様は、ただ、用事を済ませるだけでなく、一つ一つが学びだという事が身についておられる。あなたはいずれ、ヤマトに欠かせぬ御方になる。」
ソヌの言葉に、ヤスは、これまでになく高く評価されたことで、驚き、嬉しくて、思わず涙を溢していた。
一行がようやく港に着くと、何か、人夫達が騒然としていた。異変を感じたヤスキは駆け出し、人夫達の中に入っていく。人夫達の真ん中には、港主のタツヒコが仁王立ちになって、もう一群の男たちを睨んでいる。辰韓の者のようでざっと百人程いる。
「どうしたのですか?」
ヤスキがタツヒコに訊いた。
「おお、ヤスキ様。ちょうど良い所に来られた。・・いや、この者達は、どうやら辰韓から来た者のようなのだが・・言葉が通じなくて、何が言いたいのかわからなくて困っていたんですよ。・・何だか、ここで働きたいようなのだが・・。」
タツヒコは、大層、困った顔で答えた。
「私が話を聞いてみましょう。辰韓のものであれば判るはずですから。」
ソヌ皇子はそう言うと、一群の男たちの前に立ち、異国の言葉で話しかける。何度か、男たちと会話を交わしたあと、タケルの方を振り返って言った。
「この人達は、弁韓の船で奴隷として連れて来られた方々です。難波津で働きたいと言っております。ここで、働き、財をもって国へ戻りたいのだと・・。」
「やはりそうだったか‥だが、ここでの掟を覚えてもらわねばならぬが・・。」
とタツヒコが言う。
「掟とは?」とソヌ。
「ここの人夫達は、運んだ荷の一部を荷主からいただき、運んだ者達で平等に分けることになっている。だが、荷の量が潤沢にあるわけじゃない。どんなに少なくても、皆で平等に分ける。人数が多くなれば、それだけ分け前が減る。・・これだけの者が急に増えると、人夫達も困る。」
事情は至極簡単な事だった。それを聞いて、タケルは、ヤスに、ウンファンの館にいるジウを呼んできてくれるように頼んだ。ほどなく、ジウがやってきた。事情は、すでにヤスが話していた。
「ウンファン様の館で、二十人程は引き受けられる、と言い遣ってきました。」
ジウは、ほんのわずかの間に大和言葉が随分上達したようで、丁寧に、タケルたちにそういった。それを聞いて、タツヒコが言った。
「そうか・・それなら、ここではざっと三十人程は受け入れよう。」
すると、ジウは、その話を異国の言葉で一群の男たちに話した。それを聞いて、辰韓の男たちは相談し始めた。そして、二十人程がウンファンの館に、三十人は港で働く事に決めたようだった。そして、ジウに何かを告げた。
「タケル様、残りの者はこのままヤマトで暮らしたい、だから、仕事が欲しいと言っています。」
目の前には、困窮した顔をした男たちがいる。タケルは目を閉じて考えた。そして、ふっとある考えが浮かんだ。
タケルは、それをヤスキに小声で話した。ヤスキは、目を丸くしてタケルを見る。そして、ヤチヨやチハヤ達にも話す。皆、一様に驚いていたが、やがて、強く頷き賛同した。
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