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2-29 再会の約束 [アスカケ外伝 第1部]

「こちらに居られるぞ!」
いきなり、数人の衛士がタケルたちを取り囲むように現れた。
「ソヌ皇子、そろそろ、出航の時です。お急ぎください。」
タケルたちが話し合っている港の先に、大船が留まっていて、船着き場の辺りには、摂政カケルや摂津比古、多くの人が、見送りのために集まっていた。衛士たちは、ソヌ皇子を探していたようだった。
「皆様、お別れの時です。楽しい時を過ごせました。私も、このヤマトに負けぬ良き国造りに励みます。いつかまた、お会いしましょう。」
「はい、必ず、お会いしましょう。」
タケルはソヌの手を取り、誓うように言った。
ソヌは、皆に笑顔を残して、衛士たちとともに大船に向かった。
暫くすると、大船の舳先に、黄金色の服を身に纏った、ソヌ皇子が現れ、皆に挨拶をした。ゆっくりと大船が岸から離れて行く。
徐々に遠ざかる船影を見ながら、タケルは、決意した。
タケルは、摂政カケルと摂津比古の前に走っていき、跪いて言った。
「一つお願いがあります。」
その様子に、カケルも摂津比古も、タケルが大きな決意をしたことはすぐに判った。
「ここ難波津で多くの事を学びました。まだまだやらねばならぬことがある事は承知しております。ですが、どうしてもやりたいことが見つかったのです。」
タケルは、跪いたまま、視線を上げ、摂政カケルを見た。
「ふむ・・やりたい事とは?」と、カケルが訊く。
「諸国を知りたいのです。その第一歩に、紀之國へ行かせていただきたいのです。弁韓の軍に捕らえられ、連れて来られた方々は、故郷へ戻りたいはず。そして、荒らされた故郷を立て直す大仕事が待っているはずです。その手伝いをしたいのです。」
「ふむ・・確かに、紀之國へ戻るために、近々、船を出す予定ですが・・・。タケル、お前ひとりで行くというのですか?」とカケル。
「いえ・・難波津に共に来たヤスキ様達も一緒に。そして、辰韓と弁韓の人たちにも手伝って貰うつもりです。ヤマトに残る決意をされた方々とともに行きたいのです。」
それを聞いていた、ヤスキたちは慌てて、タケルの隣りに並び、同じように跪いた。
タケルの決意を聞き、カケルは摂津比古を見た。
「まあ、難波津で学ぶべきことはおおかた終わっておる。そろそろ、もっと広い世界を見るのも良いだろう。」
摂津比古は、笑顔で言った。
「確かに、そろそろ、アスカケに出る歳ではあるのだが・・。」
カケルはまだ少し躊躇っているようだった。
目の前のタケルはまだ、あの「特別な力」を知ったばかりであり、どこまで上手く使えるか、まったくわからない。誤って人を殺める事もあるかもしれない。自らを振り返り、その危うさは充分に解っていた。だからこそ、もう少し、心を鍛えるべきではないか・・そう考えていた。
摂津比古は、カケルが躊躇う理由が十分に解った。そして、言った。
「タケル様の決意はよくわかった。此度は、儂の名代として、紀之國へ行ってもらおう。故郷へ送り届け、復興のために、力を注ぐが良かろう。ただし、一年ほどで必ず戻ってくるのだ。」
それを聞いていた、ヤスキ、ヤチヨ、チハヤもタケルと同じように、摂津比古の前に跪き、首を垂れた。
「いかがでしょう、カケル様。今度、ここへ戻ってきた時こそ、アスカケへ出すという事で。きっと、この者達であれば、大きく成長して戻ってくるに違いありません。」
摂津比古はそう言うと、カケルを見る。
「いいでしょう。それほどの人数となれば、大船が必要でしょう。・・弁韓の船を皆で修理し使うと良いでしょう。すぐに取り掛かりなさい。お前たちだけでは難しい事もあるはずです。よく相談し、皆に頼むのです。お前たちの思いを伝え、助けてくれる者を自分たちで見つけなさい。良いですね。」
カケルの言葉に、皆、大きく「はい」と返事をした。
「私は、明日、大和へ戻ります。お前たちの見送りはできませんが、無事、やり遂げるのですよ。」
カケルは、そう言うと、摂津比古たちとともに、難波津宮へ戻って行った。
大船が出港して、見送りに来ていた人たちも皆仕事に戻り、船着き場にはタケルたちだけが残っていた。
「やったな!」と、ヤスキは第一声を上げた。
「これから、忙しくなる。大船を使うのなら、誰か、手慣れた御方に頼まなくてはならない。漕ぎ手も必要だし、水先案内人も・・・・」
カケルが言うと、ヤスキが「大丈夫、俺に任せろ!」と言って、走り出した。
ヤチヨもチハヤも、顔を紅潮させている。
「どれだけお役に立てるか、試されているのよね。」とチハヤが言うと、ヤチヨがチハヤの手を握り、「頑張りましょう」と言った。
「あの・・私も、連れて行って下さい。」
そう言ったのは、ジウだった。
「辰韓の人、言葉が通じないと困る。私がいれば大丈夫。だから、私も。」
「是非、お願いします。ジウ様がいれば、私も安心です。」
カケルが笑顔で答えた。
その日から、二週間ほどかけて、船を修理し、必要な人材と物資を集め、ようやく出航の段取りが整った。
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