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3-3 淡島一族のヤシギ [アスカケ外伝 第1部]

タケルたちが、館に着くと、数人の女性が、慌てた様子で、門のところに現れた。
「なんと・・これは・・姫様、よく御無事で・・」
皆、涙を流し、ツルの帰還を喜んでいる。
「父は?」
と、ツルが訊くと、その女性たちは顔を伏せる。
そこに、少し年配の身綺麗な女性が現れた。
「ツル?無事だったのね。さあ、急ぎなさい。頭領がお待ちです。」
その女性は、ツルの母親だった。名は、チドリといった。ツルは、館に入り父の横たわる部屋に行く途中で、端的にタケルたちの素性を話した。
館の一番奥の部屋に、頭領ヤシギが横たえられていて、数人の侍女たちが、傍でじっと見守っていた。
「頭領は、大怪我をして目を覚まさないのです。血止めをするのが精いっぱいで・・今にも、命の灯が消え入りそうなのです・・さあ、御側に急ぎなさい。」
ツルは、父ヤシギの床の傍に行き、そっと手を握った。
「お父様、戻りました。ツルです。判りますか?」
ツルの呼びかけに、ヤシギはまったく反応しない。体も冷たく、呼吸も弱々しく、今にも途切れそうだった。
チハヤは、持っていた袋から、気付けになる薬草を探し、傍にいた侍女に見せる。すぐに侍女は、薬草を受け取り、厨房へ向かい、煎じた薬を持ってきた。
「さあ、これを」と、チハヤが、ツルに差し出す。
匙を使って、僅かに開いた口元へ流しこむ。しかし、ヤシギは呑み込むことができず、口元からだらだらとこぼれるだけだった。
部屋の隅で、その様子を見ていたタケルの首元が突然光りはじめる。
母からもらった勾玉の首飾りが光を発し始めたのだった。それをみて、ヤチヨが言う。
「タケル、それは・・きっと、皇アスカ様の御導きよ。」
「ああ、きっとそうだ。」とヨシキも言う。
春日の杜で学ぶ子どもたちは、幼い頃から、カケルとアスカの「アスカケの旅」の話を幾度も聞いていて、アスカの奇跡の力は、特に、女の子たちには憧れの場面でもあった。
タケルは、そっと首飾りを引き出し、掌に載せてみた。ぼんやりとした光は徐々に大きくなっているように感じられた。だが、自分にそんな力があるとは思ってもいなかった。
タケルは、首飾りをぐっと握りしめる。そして、心の中で、母アスカを思い浮かべた。
ちょうどその時、大和の国、飛鳥宮にいたアスカの首飾りも光りはじめていた。
「タケルが助けを求めているのでしょうか?」
アスカは、隣にいたカケルに問いかける。
「ああ・・おそらく、そうだろう。」
カケルの答えに、アスカは目を閉じ、ぐっと首飾りを握り締め、タケルへ想いを馳せる。
同時に、和歌の浦にいるタケルの首飾りが更に光を増してきた。
「すみません。チドリ様、すこし、私に時間をいただけませんか。」
「どうしようというのです?」とチドリ。
「どこまでできるか判りませんが・・傷を癒すことができるかもしれません。」
タケルは遠慮がちに言う。それを聞いて、ヤチヨが、チドリとツルに言う。
「ヤマトの皇、アスカ様は、特別なお力で傷を癒し、命を救う事がお出来になります。タケル様にも、その御力があるはずなのです。首飾りが光っているのがその証拠。是非、おねがいいたします。」
チドリはそれを聞いて、半信半疑ながら受け入れた。
タケルは、ツルの隣りに座り、左手に首飾りを握り締める。そして、右手をそっと、ヤシギの傷の辺りに置いて、ゆっくりと目を閉じる。そして、再び、母アスカを思い浮かべた。
すると、首飾りが、一層強い、黄色い光を発し始めた。
その光は、部屋の中を満たしただけでなく、館中に広がり、やがて、郷をも覆いつくすほどになっていく。
郷を立て直す仕事で、浜にいた人達も、その光に気付き手を止める。その者達にも光は届いていて、皆、目を閉じその場に座り込んだ。皆、その光の中にいると、心の中から穏やかで解されるような、温かい力を感じられた。
しばらくすると、光は徐々に小さくなっていった。
最初に異変に気付いたのはツルだった。目の前の父ヤシギの、土色だった顔色が、ほんのり紅を指したように赤く見えた。そして、ヤシギがうっすらと瞳を開いたのだった。
「お父様!気づかれましたか!」
ツルの問いかけに、ヤシギは握っていた手を強く握り返して見せた。
そのころ、怪我をして、館の広い土間に横たわっていた男たちも、ふいに起き上がり、自ら声を上げた。
「タケル!凄いぞ!」
ヤシギが目を覚ましたのを見て、ヤスキが声を上げ、タケルの肩を叩く。
すると、タケルは、そのままドサッと倒れ込んでしまった。タケルの異変に、チハヤが反応した。すぐに傍に駆け寄り、タケルの顔を覗き込む。
「タケル!タケル!」
何度も何度も呼び掛けるが、タケルは反応しない。さらに、体がどんどん冷たくなっていくのが判った。手を取ると、力なく、だらりとしている。
「すぐに、床を用意してください!」
チハヤが叫ぶ。すぐに、タケルは隣りの部屋に移された。
「体を温めなければ・・・。」
チハヤが、持っていた袋を開き、いくつかの薬草を取り出し、侍女に頼んで熱い湯で煎じてもらった。それを、タケルに飲ませようとするが、意識のないタケルは、飲み込む事ができない。チハヤは、口移しで、なんとかタケルに飲み込ませる。
「部屋を暖めてください。それと湯を沸かしてください。」
チハヤは、その日からタケルの傍で、つきっきりで看病した。
黄色い光2.jpg
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