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3-4 命の光 [アスカケ外伝 第1部]

タケルは、暗闇の中にいた。上も下も右も左も真っ暗。宙に浮いているのか、自分の体さえも感じられない不思議な感覚の中にいた。声を発しようにも、自分自身の存在自体が曖昧で、何か周囲の空気とまじりあう様な,いや、自分自身が存在しているのかもわからない様な状態だった。これは死ぬという事なのかと思い始めた時、遥か遠くに、小さな光を見つけた。曖昧な意識の中で、その光に近づこうとする。徐々に光は。母アスカの姿だと判別できた。母は、静かな微笑を浮かべている。
タケルは、手を伸ばし、「かか様!」と叫ぼうとした時、眩しい光を感じて、目が覚めた。
「うわっ!」
タケルが急に手を伸ばし、傍にいたチハヤの腕を強く握った。チハヤは驚いて、すぐには、声も出なかった。
「目が・・目が覚めた・・のね。」
チハヤは、少しして平静を取り戻し、タケルに訊いた。
ぼんやりとした光景、まだ、視線が定まらない状態だったが、声がチハヤだと判り、タケルは小さく「ああ・・。」と答えた。
「良かった・・本当に良かった・・・。」
チハヤはそう言いながら、横たわるタケルに覆い被さるような恰好で、タケルを強く抱きしめる。何か、全身の力が抜けていくように安堵した。タケルも、チハヤの体の温もりに、現世に戻れたような感覚を覚えていた。
その様子に気付いたのか、部屋の外にいたヤスキとヤチヨが入ってきた。
「気が付いたか?」
「大丈夫なの?」
ヤスキもヤチヨも涙を流している。皆、すっかり、疲れた様子だった。
「ごめんなさい・・。」
ヤチヨが、タケルの手を握り、涙を流しながら、タケルに言う。
「私が、あの・・特別な力の事を・・言ったせいで、こんなことに・・本当にごめんなさい。」
ヤスキも、神妙な顔をしている。
「もう・・無茶するんだから・・。」
とチハヤがタケルの手を握り、笑顔を見せる。
「ヤシギ様はいかがでしたか?」
と、カケルがチハヤに訊く。
「・・すぐに目を覚まされたわ。数日は重湯でしたけど、昨日には食事もできるようになり、あと、数日で普段通りに暮らせるようになられるはずです。」
それを聞き、タケルは少し戸惑っている。
「あの・・一体、どれくらい・・」
タケルが訊きたい事はすぐにヤチヨに判った。
「あなたは、三日三晩眠ったままだったのよ・・・そのあいだ、ずっと、チハヤが傍で看病していたんだから・・。」
ヤチヨの言葉に、タケルはチハヤを見る。チハヤは、目の周りの隈ができ、やつれた様子なのが明らかだった。
「すみません。心配を掛けてしまって・・。」
タケルが目を覚ましたことは、すぐにチドリとツルにも伝えられ、二人は急ぎ、タケルの部屋に見舞いに来た。
「良かった。お元気になられたのですね。・・本当に、良かった。」
ツルは、タケルの様子を見て、なぜか、チハヤに向かって言った。
チドリもツルも、ヤシギの命を救った不思議な力を今でも信じられない様子だった。だが、確かに、ヤシギは回復した。既に起き上がれるようになり、会話もできる。
「あの光は・・一体・・。」
ツルの隣りにいた、チドリがつい訊いてしまった。
タケルは、少し考えてから答えた。
「あれは、今の皇、アスカ様の御力によるものです。皇は私の母なのです。子の首飾りを通じて、力を送って下さったのです。」
それを聞いて、チドリもツルも驚いた。
「では・・あなたは、ヤマトの皇子なのですね。」
「はい。しかし、ここへは難波津の摂津比古様の命で参りました。今は、皇子ではなく、難波津の使いという事です。・・できれば、皇子であることは伏せていただきたいのです。」
タケルの答えに、チドリもツルも戸惑っている。
「そうしてください。私たちは、大和国の春日の杜で学ぶ者。今は、修行のため、こうした役目を言い遣っているのです。どうかお願いします。」
そう言ったのは、ヤチヨだった。
「明日にも、ヤシギ様にお会いし、伺いたいことがあるのですが・・。」
タケルは、今は休んでいる場合ではないと考えているようだった。
「駄目です。もう少しお元気になられてからです。」
厳しい声で、そう言ったのは、チハヤだった。
「大丈夫だ。郷の復興は、皆が手分けして順調に進んでいる。ヤシギ様もまだ十分ではない。もうしばらく、タケルは休んでいてくれ。」
そう言ったのは、ヤスキだった。
タケルは、少し不安げな表情を浮かべてヤスキを見た。
「信用しろって・・。シルベ様が頭になって、皆で、家や船の修理も始めている。米や稗などの食べ物も、順次、難波津から届いている。ひと月もあれば、元通りになるさ。」
「そうか・・。」
タケルはそう言うと、目を閉じた。

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