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1-35 鬼崎沖 [アスカケ外伝 第2部]

 鬼崎の近くに、イソカたちの軍船は、なかなか現れなかった。フウマ達の二隻の船は、沖の大きな岩礁に隠すように控えている。野間から来た者達も、点在する岩礁に隠れている。
タケルとヤスキは、沖に浮かぶ小島に上陸して、木陰に身を潜めていた。シノとサトルもその近くにいた。
小島の高台に居た見張り役から「船が来たぞ!」と合図が飛ぶ。
大きな軍船の前を中型の船が二隻、ゆっくりとこちらに向かってくる。二隻の船が岩礁地帯に入り、ゆっくり、フウマ達の前を過ぎる。甲板に座り、暢気な顔をしている兵の姿が見えた。それほどの数ではない。
フウマは立ち上がり、「今だ!」と号令を発する。
岩礁に身を隠していた者達が、一斉に火矢を放つ。四方から飛んでくる矢に驚き、船の兵たちも慌てて反撃する。しかし、揺れる船の上から、岩礁のあちこちに身を隠している者を正確に射貫ける者などいない。火矢は、船に当たりはするものの、燃やすほどの火力はない。フウマ達の船も岩礁から姿を現し、敵船に近づき、矢を放つ。だが、これもなかなか効き目がなかった。
小島の木陰から戦況を見つめていた、ヤスキが弓を取り出す。そして、小島の高みに登り、力を込めて火矢を放った。他の者が放つ矢とは勢いが違う。空気を切り裂いて飛び、敵船の甲板に突き刺さる。そこには、荒縄が置かれており、火が燃え移る。兵たちは、岩礁から飛んでくる矢を払いながら、火を消そうと慌て始めた。しかし、思った以上に火の勢いは強く、多くの兵たちは諦め、海へ飛び込む。
その様子を船の中から見ていたカツヒコが、負けじと甲板に出て矢を放つ。もう一隻の船にも火が付いた。もはや、二隻は戦うことなどできないのは明白だった。
「逃れた兵は討つのではない。みな、知多の者なのだ。救い上げるのだ。良いな!」
フウマは、皆に、号令する。
フウマ達の船が、敵の船に横付けし、火を消し止める。そして、海へ飛び込んだ者達を引き上げる。岩礁に辿り着いた者達も、郷の者が助ける。
「まだ戦える者は、船に乗れ!」
フウマが叫ぶ。イソカの兵だった者も、もともとは大高の郷の民。頭領の後継者、フウマの声を聞き、すぐに味方に加わる。
それぞれの船に分かれて乗りこみ、都合四隻の船をフウマ達は手にした。タケルやヤスキたちも、それぞれ船に分かれて乗りこんだ。そして、少し沖合に留まっている、イソカの軍船に向かう。
少し後ろを走っていた軍船は、岩礁の手前に留まったまま、戦況を見ていた。
「ふむ・・やはり、ここで待っていたか。」
イソカが軍船の甲板の上から、鬼崎の岩礁での戦いを見ていた。
「さて、どうしたものか。」
イソカが呟くと、隣にいたイカヅチが答える。
「あのような小舟など大したことはない。一気に蹴散らし、野間へ向えばよい。あれだけの者達がここにいるのだ、きっと、野間はもぬけの殻。おそらく、その先の港も同様であろう。我らの勝利は確かじゃ。」
イカヅチの言葉を聞き、イソカも不敵な笑みを浮かべる。
「よし、そのまま、前進じゃ!」
イソカが号令を掛けると、軍船が動き始めた。軍船の兵たちも弓を構える。
フウマ達の船と軍船の距離が徐々に詰まり始めた。
近づくほどに軍船の大きさが際立っている。フウマ達の細工を施した船が、まずは火矢を射かける。小さな船から放った矢は、軍船の船体にあえなく弾き返される。すると、軍船の高い甲板の上から、兵たちが矢を放つ。銅板を施したフウマ達の船は、矢を跳ね返す。二隻の船が、軍船の横や前後に回り込み、火矢を放つ。だが、大した損害を与える事は出来ない。そのまま、軍船は鬼崎の岩礁地帯を悠々と通り過ぎていこうとしていた。
「駄目だ!このままでは、野間の港に入られてしまう。」
フウマは悔しそうに軍船を睨み付けた。
軍船が、岩礁地帯の中ほどまで入った時だった。突然、漕ぎ手のいる下層の窓から黒煙が噴き出してくる。
「サスケ様達に違いありません。」
サトルが言う。
軍船は動かなくなった。そして、燃え盛る炎から逃れようと、乗り組んでいた者達は我先にと海へ飛び込んでいる。そこに、サスケ達の姿が見えた。
フウマは軍船に横づけすると、するすると甲板に上っていく。火は船体を燃やし尽くすほどの勢いはなく、すでに燻ぶっている程度だった。タケルたちも、フウマの後を追って甲板に上がる。そこには、イソカとイカヅチの姿があった。
「兵たちは皆逃げ出した!もはや決着はついている。大人しくされよ!」
フウマが厳しい声で迫る。
「フン・・其方、生きていたか。・・ヤマトの皇子を味方に付けるとは・・」
イカヅチが怒りをあらわに答える。
「あやつがヤマトの皇子か!やはり、ヤマトは我らを侵しに参ったというわけだな。皆の者、よく見よ。儂の言ったとおりであろう。さア、ヤマトの皇子を捕らえよ!」
イソカは、誰もいない甲板で叫ぶ。まるで、錯乱しているようだった。
「諦めよ!もう、味方する兵など居りません。あなた方の負けです。」
フウマがさらに詰め寄る。
すると、イソカがいきなり船室へ戻って行き、一人の娘の手を掴み、引き摺るようにして連れて来た。
「これを見よ!熱田の姫である。姫の命は我が手にある。さあ、どうする?」
熱田の姫は、人質として囚われ、惨い扱いを受けていたに違いない。薄汚れた身なりで、虚ろな表情をしている。立っているのもやっとの状態に見えた。


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