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1-37 凱旋 [アスカケ外伝 第2部]

「フウマ様、お久しゅうございます。」
軍船の上で、ようやく、シノはフウマに挨拶することができた。
「これは・・シノ殿・・シノ殿ではないか・・・。」
フウマは驚きを隠せなかった。館の騒ぎで、皆、散り散りとなり、フウマも再び会うことはないと思っていた。フウマはシノに駆け寄る。
「今まで、どこでどうしていた?」
「大高の郷で隠れるように暮らしておりました。きっといつかフウマ様が戻って来られるに違いないと信じておりました。・・・サトル様にお会いし、ヤマトの方々が味方となって下さることが判り、きっと、フウマ様が戻って来られると・・。」
シノはそこまで言って、大粒の涙を溢し始めた。
「心配かけた。済まぬ。」
フウマは、そっと、シノの肩を抱いた。その様子を見て、カツヒコが言う。
「シノ様は、フウマ様と夫婦になる約束をしておられたのです。シノ様は阿久比の郷の姫。二人が夫婦になれば、大高と阿久比の絆が強まり、知多の国も治まります。皆の願いでもありました。」
事情を知っている者は、皆、二人の様子を見て、泣いている。
船は大高の港に着いた。大勢の人が船を迎え、フウマが降り立つと、歓声が沸く。
「ここからだな・・シノ、手伝ってくれるな?」
「はい。」
大高の館へ着くと、港には大勢の民が集まり、喝采を浴びた。
「フウマ様がお戻りになられた!」
「これで、大高は安泰じゃ!」
皆、口々にそう言い、軍船から降りる者に歓声を上げる。
「ヤマトより、皇子タケル様が参られておる。」
フウマが叫ぶと、集まった者が、皆、しんと静まり返った。
「此度の勝利は、皇子の御力によるもの。神の御力を持ちなのだ。良いか、我らは、これよりヤマトの国と手を取り合うこととする!」
フウマは、港中に響くほどの声で、そう言った。まだ、皆、静まり返ったままだった。
その後ろから、ヒナ姫が姿を見せる。
「姫様・・御無事でしたか・・・。」
ひとりの老女が、熱田の姫の傍に駆け寄る。
「タケル様の御力で、イカヅチの許からお救いいただいたのです。」
ヒナ姫の言葉で、ようやく、皆納得したようだった。そして、再び、港は歓声に包まれていった。
館へ向かうと、すぐに、フウマは、捕らえたイカヅチを地下牢へ入れるよう、カツヒコに申し付けて、頭領である父の姿を探した。広間にも、居室にも姿はない。
「フウマ様!大変です。」
カツヒコが血相を変えてやってきた。
「どうした?」
「頭領様が・・・。」
カツヒコは無念そうな表情を浮かべている。
嫌な予感がした。フウマは、急いで、地下牢へ向かう。タケルたちも後を追った。
薄暗い地下牢の奥、まさにイカヅチを放り込もうとした時、カツヒコが、牢の奥に横たわる人影に気付いた。近づいてみると,全身、痩せ細り骨と皮ばかりになっている、頭領の姿があった。
「父上!」
フウマが体を抱え込むようにして耳元で叫ぶ。僅かに目を開くが言葉はない。まだ、息はあるようだった。隣には荒縄で縛られたイカヅチが転がっていて、その顔には、ふてぶてしい笑みを浮かんでいた。
「おのれ!父に何という仕打ちを・・」
フウマは怒りに任せ、剣を抜く。
「おやめください。その者の命を奪ったところで何にもなりません。」
タケルが止めた。
「頭領様は、奥方の命を奪ったと聞きましたが・・。」
ヤスキが、フウマに訊く。
「いや・・母は、イカヅチやイソカの陰謀を見抜き、父に進言しておりました。そして、私の命をも奪おうとしていることに気付き、私を逃がした後、イカヅチに切り殺されました。ヒナは、逃げることができず、イカヅチに囚われたのです。」
それを聞いて、タケルは、そっと頭領の傍に行き、跪く。
「私はヤマトの皇より遣わされたタケルと申します。」
タケルは、頭領の耳元で優しく囁き、そっと手を取る。そして、首飾りを強く握り締め「母上、御力をお貸しください」と念を込める。首飾りが少しずつ光を発し始める。徐々に光は強くなり、頭領やタケルだけでなく、地下牢に居た者たちすべてを包み込む。そこに、熱田の姫の姿もあった。不思議なことに、姫の懐の鏡も呼応するように光り始めた。そこにいる者皆不思議な温かさの中に身を置いたような感覚になった。暫くして、徐々に光が弱まると、皆、我に返った。
「何と有難い事か・・・。」
意識もはっきりしなかった頭領が口を開いた。
「父上!」と叫び、フウマが駆け寄る。
「もう大丈夫でしょう。」
タケルがフウマに笑顔を見せて言った。
「父を早く館へお連れせよ!」
フウマが叫ぶ。すぐに、侍女たちが現れて、頭領を上に運ぶ。皆、喜び、フウマ達は館の広間へ戻って行った。

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