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1-39 国作り [アスカケ外伝 第2部]

翌日、フウマは知多の全ての郷へ使いを出し、イソカとイカヅチを倒した事を知らせ、新しき国作りの相談をする場を開く事にした。各地の郷の長達が続々と大高の館へ集まってくる。皆が待ち望んだ日でもあった。
「父から、頭領を引き継ぎ、全身全霊をかけて、知多国のため、尽くします。」
一同を前にフウマは宣言する。集まって皆が拍手をする。
「此度は、ヤマトの皇子タケル様のご尽力の賜物。これより、知多国はヤマトを支える国として進んでまいりたいと考えますが、いかがか?」
皆に異論はなかった。ヤマトの軍船に襲われた事は、全くの誤解であり、此度の陰謀を企てた者がいる事も皆承知していた。
「皇子タケル様より、御言葉を賜りたい。」
師崎の長が初めに口を開いた。タケルは立ち上がり、居並ぶ長にぐるりと視線を送った後、口を開いた。
「此度の事、私の力など取るに足らぬものです。心を一つにして、悪政に立ち向かった皆さまの御力。今後も、安寧な民の暮らしが続くようご尽力いただきたい。・・そこで、私から一つ提案があります。」
タケルはそう言うと、控えていたサスケから金糸に彩られた袋を受け取った。
「これは、皇アスカ様と摂政タケル様から預かったものです。これから、知多国とヤマトとの絆を確かなものにする証。」
タケルはそう言って、袋の中から黒水晶の玉を取り出した。
「おおー。」
広間にどよめきが広がった。
「これをフウマ様にお預けいたします。そして、フウマ様を、知多国の国造に任じます。良き国作りに励んでいただきたい。」
タケルはそう言って、フウマの手を取り、黒水晶の玉を手渡す。フウマは恭しく受け取ると、皆の前に掲げた。広間には歓声が響く。
「それと、私からもう一つお願いがあります。」
歓声が収まり、タケルは話を続ける。
「此度の争乱の原因を作り出した張本人をこれから探り当てたいと考えております。おそらく、穂の国に潜んでいるはず。此度、渥美国や知多国で企てが失敗となり、きっと、次なる手を打ってくるはずです。水軍が攻め込むかもしれません。あるいは、陸から大軍が来るかもしれません。いずれにしても、そうならぬよう、これから私は穂の国へ参ります。皆さまは、知多国の守りを強めていただきたい。そして、渥美国や伊勢国、尾張国とも手を携え、そうした輩が付け込む隙のないよう励んでいただきたいのです。」
タケルの言葉は、皆も充分に納得できたようだった。
「ひとつ、宜しいかな?」
長の一人が口を開く。
「私は、富貴の郷の長でございます。我が郷の者の話ですが、対岸の碧海の郷でも、争乱の中、暮らしに困っている者が多いと聞きました。三河国はまだまだ弱きところ、穂の国が悪しきものとするなら、隣国の三河国にも合力してやりたいと思うのですがいかがか?」
これには、河和の郷や、亀崎の長も同調した。
「ここ大高からは、鳴海を越え陸からも行けます。池鯉鮒の郷が要になります。そこから、南が碧海の郷へ、東へ行くと矢作川。これを越えて、額田の郷へと入ります。」
亀崎の長が言う。
「だが、矢作川を越えるのは難儀な事。毎年夏前には暴れ、郷は水に浸かります。あの川が治まれば良き地なのですが・・」
そう言ったのは、河和の郷の長だった。
この頃、三河の国を流れる矢作川は、奥深くの山に降った雨が一気に流れ、碧海台地と岩津山地の間に広がる、西尾平地を大きく蛇行し三河湾にそそいでいた。そのため、人々は、碧海台地の縁か、岩津山地の縁にある高台に集落を作っていた。そのため、稲作は難しく、大きな集落はできていなかった。
皆の話を聞きながら、タケルは、難波津の年儀の会を思い出していた。我が郷の事ばかりではなく、周囲の郷へも気を配り、助け合う心が強く感じられる。
「わかりました。ここに居られる皆様は、すでに国作りの大事な事を判っておられるようです。あとは、皆が、力を出し合うだけです。」
タケルはそう言うと、ヤスキの顔を見た。そういう視線なのか、ヤスキはすぐには理解できなかった。
「ここにいる、ヤスキ殿は、難波津や紀の国で、皆が合力するための手立てを身につけております。それに、渥美や伊勢にも行っており、知った者も多く居ります。ヤスキ殿をしばらくフウマ様の御傍におき、知多国・・いや、伊勢や渥美、三河の国作りのために働いてもらってはどうでしょう。」
タケルの提案は唐突だった。何より、ヤスキ本人の同意もない。
「それは願ってもない事・・私も頭領になったもの、何から手をつければよいか判らずにいた。ヤスキ殿が傍に居て下されば、心強い。」
フウマは呼応するように言った。
「いや・・しかし・・それでは、タケル様をお守りする役が果たせない・・」
ヤスキは躊躇する。タケルはヤスキの肩に手を置き、じっと目を見る。
「私の御守ではなく、ヤスキ殿自身の道を歩く時なのです。これまでの事を存分に生かして励んでください。」
まだ、ヤスキは決断できずにいた。
「ヤスキ殿、タケル様は、我らがお傍におります。春日の杜で鍛えられた若者です。しっかり働いてくれるはずです。」
そう言ったのは、サスケだった。サスケは、春日の杜の舎人であり、ヤスキにとっては師と言っても過言ではない。ヤスキは承諾した。そして、皆に向かって言った。
「時はそれほどないでしょう。今にも、何か仕掛けてくるかもしれません。できるところから支度を始めましょう。」

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