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1-40 再会の約束 [アスカケ外伝 第2部]

タケルは、穂の国へ向かう事を決めた。知多国や渥美国の事は、ヤスキが残ることで決着がついた。
「ミヤ姫を熱田へ送り届けてもらいたい。」
旅支度の最中に、タケルは、ヤスキに頼んだ。
「ああ、尾張国ともこれから親しくせねばならぬからな。」
ヤスキは快く引き受けた。それを聞いていたミヤ姫が、キッとタケルを睨んで、
「私はタケル様とともに参ります。熱田へは、そうお伝え願います。」
そう言って、タケルの腕を掴んだ。
「いや、遊びに行くわけではない。きっと、戦になる。そんな危ない場所に連れて行くわけにはいかない。きっと戻るから、熱田で待っていてくれないか。」
「いえ・・そんなところに向かわれるのなら、なおさら、ともに参ります。私も、剣や弓は使えます。」
タケルは、ミヤ姫の真意が判らなかった。
「いや・・だが・・。」
タケルは困り果てた。思い返してみると、幼い頃も、大人たちが止めるのも聞かず、乗馬訓練でタケルの後ろに乗ったり、山野を駆けまわるからと、衣服の丈を切り詰め、男のような恰好をしたり、言い出したらきかない性格だった。
困った顔をしているタケルを見て、ヤスキがふと思い出したように口にする。
「タケル様、アスカケの話を覚えていますか?確か、カケル様は九重の地からアスカ様とともに参られた。幾つもの苦難を、ともに越えて来られたと聞きました。」
「ああ・・何度も聞いている。だが、あの時とは違う。」とタケル。
「何が違うのです!」とミヤ姫が言う。
「カケル様は、アスカ様と御力を合わせる事で、自らの御力をさらに強いものとされ多とも聞きました。・・・先日、フウマ様の父上をお救いになった時、いつもなら意識を失うほどであるはずが、あの時はむしろ御力がみなぎっていたのではないですか?」
ヤスキに問われて、タケルは考えた。確かにあの時、母アスカではなく、ミヤ姫の意識を強く感じていた。そして、ミヤ姫の持っている鏡が力をより強くしているとも感じていた。
「この先、これまでとは違う、更に強大な敵に出会うに違いありません。お二人が共に居られることできっと乗り越える事が出来るはずです。」
ヤスキに確信があったわけではない。ただ、なぜか、言葉が口をついて出てくる。まるで、摂政カケルが乗り移ったような、そんな感じさえした。
「タケル様、伴にお連れ下さい。」
ミヤ姫は傅いて、タケルに懇願する。
「判りました。共に参りましょう。ただし、無理はしないでください。あなたを失うのは耐えられない。良いですか。」
タケルの許しを得て、ミヤ姫は喜びのあまり、タケルに抱きついた。

いよいよ、出発の日を迎えた。大勢の人々が、見送りに集まってきた。
「御無事で。敵が定まれば、我らもきっと加勢に参ります。」
フウマが、館の前でタケルに告げる。
タケルたちは、サスケ達に守られるようにして、大高の郷を出て、陸路で、一旦南へ下り、富貴の郷へ向かった。そこから、船に乗り、渥美国・吉胡の郷へ向かった。
吉胡の郷では、シルベとチハヤに会い、二人には、伊勢へ戻るように言った。そして、頭領ハルキに、知多国や伊勢国と親交を深め、決戦に備えるよう伝えた。
「穂の国へ向かうとなれば、陸路で入る道もあります。」
ハルキは、そう言い、館の窓から東を見て、
「この先、山続きに東へ向かうと、大岩という郷まで行けます。そこからさらに東は、遠江の国へ向かいます。そこから西、山沿いを進むと、吉田の郷まで行けます。穂の国の本拠は、その先、宝飯の郷辺りではないかと思います。」
ハルキの説明を聞きながら、視線を右から左へと進めていく。そのはるか先には山が聳えている。
「あの山は?」とタケル。
「あれは、本宮山です。あの麓には社があり、穂の国を守っております。」
高い山、麓に広がる森林と川、海岸に沿うように、集落のようなものも見える。豊かな地だとタケルは感じた。あのような穏やかで豊かな地に、此度の企てをするような悪しき者がいるのだろうか。自分の見立ては正しいのか、不安が過る。
「あの地は、渥美と違い、何もかもが豊かです。だが、それが過ちを生むのでしょう。」
「どういうことですか?」とタケル。
「遥か昔の事、真偽のほどは判りませんが、穂の国は、近隣の地へ作物を分けるほどの財力を持ちました。そして、剣や弓を大量に手に入れた。それをもって、奥地へと兵を進めたと聞きます。そして、山を越え、伊那谷までも領地としたと聞きました。その時、山の神々を犯し、あらゆる社を焼き払ったと・・それゆえ、穂の国の王族は、神の罰を受けたと。」
「神の罰とは?」とタケル。
「一族の男は、歳を取ると、皆、蛇に化身するのです。そして、蛇に化身したものは、石巻山の麓の蛇穴へ自ら身を投げるというのです。」
「それが事実なら、何という悲しき定め。」
「ええ・・ですが、身を投げて命を落とさなかった者がいるとも聞きました。此度の事は、そういう者が関与しているのかもしれません。」
余りに荒唐無稽な話だった。だが、タケルには自らが持つ特別な力の事を思うと、あながち、そうとも言えなかった。
「蛇・・ですか。」
タケルの胸中に、言い表せない様な不安が広がっていく。

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