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2-9 鬼退治 [アスカケ外伝 第2部]

タケルたちは幡豆の漁師とともに、西浦へ向かった。
先端に近い場所に、山に深く切り込んだ崖に囲まれた入り江があり、船を隠すには好都合だった。ただ、その前の海は流れが複雑になっていて、小舟では簡単には近づけない場所でもあった。
タケル達は、その場所から少し離れた所から陸に上がり、山側から近づくことにした。
「大丈夫か?」
タケルは、ミヤ姫に気遣うように言う。
「平気です。」
ミヤ姫はそう言うと、着衣の裾を捲りあげる。足には紺色の麻布を包帯の様に巻き付けていて、タケルよりも身軽に林の中を駆けて行く。
低い木々の林を抜け、先端に辿り着く。沖合には幡豆の漁師たちの船が見えた。山から沖合に手を振ると、イカヤがそれを合図に、入江の前まで小舟を近づける。何度か続けているうちに、入り江の中にいた兵が気付き、バラバラと出てくる。皆、沖合に向いている隙をついて、タケルたちは崖を下り、すぐ傍の岩場に取りつく。
「やはり、あの軍船だな。」
タケルが囁く。船には、古い大和の旗印が掲げられている。甲板には、派手な服を着た将らしき男が、椅子に座っているのが見える。ずいぶんの大男のようで、背丈ほどの太い金棒を握っている。その周りにも数人、同様の格好をした男も見える。
そこに、軽装の兵らしき男がやってきて、何か言っている。将らしき男は立ち上がり、手を上げ何か叫んだ。すると、出航する準備が始まった。
「船が出る。」
タケルはそう言うと、岩場から船に近づき、見つからぬように入り込む。サトルたちも、タケルの後を同様に船に入り込んだ。
ゆっくりと軍船が入り江を出て、幡豆の漁師たちの船に向って行く。潮の流れが複雑で、入江の周りには岩礁地帯もあり、軍船は慎重に岩場を抜けていく。漁師たちはそれを見てさらに沖合に逃げていく。
将軍らしき男は立ち上がり、漁師たちの船の行方を見ながら言った。
「なんだ?ただの漁師ではないか。…まあ、良い。近頃、暇だったから・・あいつらを敵に見立てて、戦の真似事でもやってやるか!」
将軍らしき男はそう言うと、部下の男達に命じる。
「おい!リュウキ様のご命令だ。さっさとやれ!」
部下の男達は、軽装の兵たちに剣を向けて命令する。すると、軽装の兵たちが、緊張した様子で、甲板に出て、弓を構える。
「ひとりでも射抜いた奴がいたら、褒美をやるぞ!」
その様子を甲板の陰に潜んでタケルたちは見ている。
命じられ、弓を構えているのは、明らかに兵ではないようだった。衣服は、幡豆の漁師たち同様の麻布で、頭にも布を巻いていて、見るからに漁師と判る。弓を構えた格好もぎこちない。
「あれはきっと西浦の漁師たちでしょう。」
ミヤ姫がタケルの耳元で囁く。タケルも頷く。
「さあ、やれ!」
号令が響くが、兵たちが放つ矢は、沖合の幡豆の漁師たちの船には届かない。
「なんだ、その腕は!」
部下の男の一人が、傍に居た兵を嘲り、兵を蹴り上げる。そして、兵から弓を奪い取ると、沖の船を目掛けて矢を放った。
ぶんと音を立てて、幡豆の漁師の船に向かって矢が飛ぶ。だが、届くことはなく波に消える。
「おい!船をもっと近づけろ!」
将軍リュウキが号令すると、一気に軍船は速度を上げて、幡豆の漁師の船に近づいて行く。それを見て、幡豆の漁師も慌てて逃げようとするが、徐々に追いつかれてしまう。
「見ておれ、こうやるのだ!」
そう言って、将軍が立ち上がり、大きな弓を構える。そして、ゆっくりと狙いを定め、矢を放った。
さっきよりもさらに大きな音を立てて矢が飛ぶ。先ほどよりも距離が近く、放たれた矢は、ドンという音を上げ、イカヤの乗っている船の胴体に突き刺さった。
「どうだ!」
将軍は自慢げに言う。
「さあ、気合を入れて矢を放て!」
部下たちも調子に乗って号令し、自らも矢を放ち始めた。
イカヤ達は反撃するような武器は持っていない。とにかく、右へ左へ放たれた矢を避けるように船を動かすほかなかった。
「いかん、このままでは・・・。」
タケルは立ち上がる。サトルたちもタケルに続く。タケルは剣を抜くと、矢を放つ将軍と部下に向って行く。将軍たちは、背後からいきなりタケルたちが現れた事に狼狽え、甲板を転がる。
「私はヤマトのタケル。悪しき者を退治する!」
タケルはそう叫び、剣を構える。リュウキ将軍も傍にあった太い金棒をかかえ仁王立ちとなる。他の男達も、剣や鉾を構える。
「戦う意思の無いものは、武器を置け。さもないと命を落とすぞ!」
タケルはわざと強い口調で叫ぶ。
それを聞き、兵たちは、皆、弓を放り投げる。
結局、将軍と数人の部下だけがタケルたちに対峙する格好となった。
「何を生意気に、我が兵に号令するか!」
将軍はそう言うと、金棒を振り回し、タケルに襲い掛かる。
タケルはヒラリと身をかわす。力はあるようだが、武器の使い方は雑だった。他の部下は、サトルたちと闘う。剣と剣、剣と鉾がぶつかる音があちこちに響く。
将軍は、態勢を立て直し再び金棒を振った。ドーンという音とともに甲板に穴が開く。そこらにあった物が飛び散る。その勢いで、荷物の陰に隠れていたミヤ姫が、将軍の前に出てしまった。
「ほう・・女か・・。面白い。」
将軍リュウキは、太い腕でミヤ姫を捕まえ、首元を押さえつける。
「さあ、どうする?・・この女、お前たちの仲間であろう。さあ、どうする?」

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