SSブログ

2-12 アリトノミコト [アスカケ外伝 第2部]

郷長たちが、兎足の館へ集められていた頃、タケルたちが乗った軍船は大島に着いていた。島の隠し場所へ船を入れると、黒服に身を包んだ男が、崖の上から見下ろしているのが見えた。暫くすると、崖の上から、竹の筒が投げ落とされた。すぐに拾い、中を見る。そこには、細い木板に書が書かれている。
「御津浜を襲えと書かれています。」
木板に目を通したキンジが、タケルに告げる。
「ヤマトの軍が御津浜を襲う事で、我らを悪しき者に仕立てる企てか・・。」
と、サトルが言う。
「これではっきりしました。・・・このまま、我らは御津浜へ向かい、イサヒコ様に遭うのです。これは、穂の国の皆様自身が解決すべき事。我らは、イサヒコ様に従いましょう。」
タケルはそう言うと、船を出した。指示通り、軍船は御津浜へ向かう。先ほどの黒服を来た使いの男は、軍船の行方を確認するように、砂浜に立っていた。
大島から御津浜までは僅かな距離。兎足の館から戻る途中のイサヒコが、沖合を進む軍船を見つける。
「軍船が・・来たな・・。」
イサヒコは目を凝らし軍船の様子を探る。
「ヤマトの旗印が掲げられていないようだが・。そうか、タケル様に違いない。」
イサヒコは急いで、御津浜へ戻った。
浜では、多くの民が慌てた様子で、戦支度をしている。それをみて、イサヒコが皆を集め落ち着く様に言った。
暫くすると、軍船が船着き場に近づいてくる。浜の民は半信半疑、身を固くしながら軍船を見つめる。
甲板にタケルの姿が見えた。そして、隣にはミヤ姫の姿もあった。
「遅くなりました。幡豆の方々の御力をお借りして、ようやく軍船の正体を突き止めることができました。将軍リュウキは縛り上げ、船倉に閉じ込めております。兵たちは皆、罪を悔い、悪しき者の征伐のため、働くことを誓いました。」
浜に着いたタケルは取り急ぎイサヒコに経緯を伝えた。イサヒコも、兎足の館でアリトノミコトの指示があったことを話し、郷の長達が一致して、アリトノミコトとチヤギを倒し、穂の国を守るために備えている事を話した。
「此度の事は、穂の国の中の事。ヤマトの者が仕切るべきことではありません。我らは、イサヒコ様に従いましょう。」
タケルやミヤ姫、サトル、キンジ、クヌイは、イサヒコの前に跪いた。
「おやめくだされ。」
当のイサヒコは、ヤマトの皇子が自らの前に跪くなど赦されるべくもなく、驚いて、すぐにタケルの手を取り立たせる。
「アリトノミコトは穂の国を我が物とし、民の事など顧みず、さらに、渥美や知多さえも不安に陥れた張本人。郷の長達はもはや許せぬといきり立っております。例え、多少の犠牲が出たとしても、穂の国の安寧を得るための闘いは避けては通れません。これより、アリトノミコトが住まう砥鹿の館と、神官チヤギのいる社を攻めます。・・タケル様達にも、是非、御力を貸していただきたい。」
イサヒコは、タケルたちにそう誓い、すぐに使者を各郷へ送った。
知らせを受けた吉田や石巻、御油、三谷の郷長もすぐに号令し、武装した民が、砥鹿の館へ向けて進んでいった。
「アリト王、一大事でございます!」
砥鹿の館で寛いでいたアリトノミコトのもとへ、見張りが飛び込んできた。
「民が大挙してこちらへ向かっております。」
「どこの者達だ?」
「御津浜の者達のようでございます。」
「御津浜か・・・確か、あやつは元々余所者であったはず。・・やはり、ヤマトと繋がっておったか!」
そう言って、アリトノミコトが表に出た時、別の見張りが飛び込んできた。
「対岸に・・多くの民が・・あれは、石巻の者のようです。」
「なんと・・舅殿として、石巻には随分気を遣っておったのに‥恩を仇で返すというのか?」
また別の見張りが飛び込んできた。
「西から御油の者達が・・それに・・千両衆も加わっております。」
これで、南・東・西から軍勢が迫る構図となっていた。
「すぐに兵を集め、守りを固めよ!」
アリトノミコトはそう号令したものの、館に居る兵は百人にも満たない。川を挟んで東の石巻、南からは御津浜、西からは御油の者達が進み、その数は次第に膨れ上がっていた。唯一、出自の八名からは軍勢は来ないと踏んでいた。
館の周りは、棒っ切れや銛、剣などそこいらにある武器になりそうなものを携えた民が集まり、僅かな兵は手出しすらできないほどになっていた。
「社に参る!」
アリトノミコトは、館のすぐ北にある砥鹿の社へ逃れる道を選んだ。
十人程の兵に守られるようにして、社の大門に辿り着き、門番を見つけ「チヤギ様へ取次ぎを」と願った。
だが、門番は、大門を開けることなく、奥へ引きこもってしまった。
「穂の国の王、アリトノミコトである。早々に開門されよ!」
アリトノミコトは、大門を何度も何度も叩き、声を上げる。
「チヤギ様、宜しいのですか?」
神職の一人がチヤギに問う。
「あやつはもはや終わっておる。此度のことは全て、あやつが行った事。砥鹿の社には関わりのない事。放っておけば良い。」
チヤギはそう言うと、奥の部屋へ籠った。
「チヤギ様は、我を見捨てられたか!」
もはや猶予などない。アリトノミコトは僅かな兵を連れ、出自の八名の郷へ戻る道を選んだ。街道には軍勢があふれている。アリトノミコトは、砥鹿の森の獣道のようなところを転がるようにして逃れる。付き従う兵はもはや二人ほどになっていた。這う這うの体で、何とか森の抜け、豊川の畔に出た。そこを渡れば、八名の郷。郷に戻り、北の者達で兵の体制を整え、一気に押し返す策を考えながら、川の縁まで辿り着いた。

nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント