SSブログ

1-31 愛発からの報せ [アスカケ外伝 第3部]

イカルノミコトの使者から、凡その話を聞いたタケルは、すぐにナミヒコを呼んだ。
「ナミヒコ様、すぐに山城の国へ向かってください。そして、ムロヤ様に次第をお話し下さい。このままでは、伯耆の国で大きな戦が起きます。何としても、越の兵を少しでも遅らせねばなりません。御力をお貸しいただきたいとお伝え下さい。そして、その足で、難波津へもお伝えいただきたい。」
「判りました。・・ところで、タケル様はいかがされるおつもりですか?」
ナミヒコはタケルの体を案じて訊いた。
「もうすっかり体は回復しています。戦を止めるために、私がやるべきことがあります。心配は要りません。」
「しかし・・」
「そのために、ヤマトの力が必要なのです。さあ、急いでください。」
タケルにそう言われ、ナミヒコは山城国のムロヤのもとへ向かった。
タケルは、淡海国の主だった者たちに集まってもらった。
イカルノミコトは、クジを伴い大嶋の館を訪れた。クジは、タケルの姿を見るなり、その場にひれ伏した。
「ヤマトの皇子に刃を向けるなど、到底赦されぬこと。本当に・・申し訳ございませんでした。」
それを見てタケルが言う。
「もう済んだ事です。体もすっかり戻りました。それより、貴方は、厳しい冬の間、雪に埋もれながら、越の国の動きを探り、此度は、とても重要な事をいち早く知らせてくださいました。これは、淡海国のみならず、倭国の全ての民にとって大きな救いとなりましょう。これからもどうか、民のために働いて下さい。」
クジは、涙を流し、タケルの言葉に聞いた。
「さあ、クジ様、詳しくお聞かせください。」
タケルはそう言うと、ひれ伏したままのクジの手を取って、立たせた。クジは涙を拭き、皆の前で、自分の知っている事の全てを話した。
「越の国では、先代の王が亡くなり、まだ幼き皇子が跡を継がれました。政など判らぬ年のため、先代の王に仕えていたヤマカという者が、後見となりました。ヤマカは、出雲国のモロ一族の男で、軍を率いる将として、出雲から参った者でした。今、越の国は、ヤマカが王同然に振舞っております。淡海国で騒ぎを起こすよう、私たちに、命じたのも、ヤマカでした。」
「どうにも、邪な者のようだな。」とイカルノミコトが言う。
「何故、出雲の者がその様な要職になれたのでしょう?」
とタダヒコが訊く。
「越の国と出雲国は、古より縁が深く、先代の王の母君は、出雲国から輿入れされたのです。その頃、ヤマトで争乱が起きており、越の国も争乱に巻き込まれぬために、兵力を高めておかねばならないと考えられたのでしょう。山々に囲まれた越の国は、他国と戦をした事はなく、兵と呼べる者など居りません。ですから、出雲に頼ったのだと思います。」
クジが答える。
「此度の挙兵の目的は?」とナオリが訊く。
「それが、出雲を侵す、伯耆の国の、アキヒコノミコトなる者を征伐する為との事です。」
と、クジが言う。
「伯耆といえば、出雲の隣国。その様な遠きところまで越国の軍が行くという道理はなかろう?伯耆の国の征伐と言いつつ、この淡海国を侵そうという目論見ではあるまいな。」
重ねて、ナオリが訊く。
それを聞き、クジは答えに窮した。
ナオリが言う事も一理ある。西へ軍を進めるという事は、手薄になった本国を、淡海から山越えで攻められれば、ひとたまりもない。その様な危険を冒して、伯耆の国へ行くとは考えづらい。
「先般、大丹生の郷から、高嶋の郡に逃れてきた者がございました。その者によると、大丹生の郷長は、越国の徴兵の命令には逆らえず、民へ徴兵の御触れを出しつつも、若い者達には郷を捨て、外へ逃れるよう命じられているとの事です。」
高嶋の郡の新しき長となった、モリが話す。
「郷を守ることより、民を守ることを選ばれたということか。天晴な心掛けじゃ。」
ナオリは感心するように言った。そして、さらに言葉を続けた。
「角鹿の郡はいかがであろうか?越から多くの兵が動くとすれば、船。ぐるりと回り、必ず、笥飯(けひ)の港へ立ち寄るはず。そこで、おそらく、兵のための食糧を調達するに違いない。春を迎えたばかりでは、蓄えも心細い時期。角鹿の長も苦難されておるのではなかろうか。」
それを聞き、皆、静まった。
淡海国の郷も、充分な蓄えがあるわけではない。今、この戦に巻き込まれれば、いずれの郷も、大きな痛手となるのは明白だった。戦をする事ほど無益なことはない。皆、充分に解っている。
「しかし、このままでは、越の国も、若狭も、いや、我ら淡海も大きな戦に巻き込まれてしまうでしょう。何としても、戦を止めねばなりません。」
タケルは、まだ、明白な手立てがあるわけではなかった。だからこそ、皆に意見を求めた。その日は、夜遅くまで、皆で知恵を出し合った。
喧々諤々、戦を止める手立てを話しあい、一応の決着がついた。
タケルは、数日後に、角鹿の郡へ向けて旅立つことになった。

nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント