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2-6 皇子復活 [アスカケ外伝 第3部]

「どうしても戦いたいようですね。」
タケルは、そう言うと、ぐっと力を込めて剣を握り締める。ぼんやりとしていた剣の光が、怒りを匂わせる、青白い光に変わる。
「子供だましの妖術か?逃げ場ないぞ!」
トラジはそう言い放つと、剣を振り上げる。タケルはトラジの剣を自らの剣で受けた。ガキンという鈍い音がして、トラジは剣を持ったまま、後ろへ飛ばされた。剣と剣がぶつかった衝撃をそのままトラジの体が受けた格好となったのだ。トラジは慌てて起き上がり、体勢を立て直す。そして、また、剣を構えようとすると、剣は根元から折れて、トラジ自身の足を串刺した。
吹き出る血と痛みに狼狽え、トラジがそこらを転げまわる。その様子を見て、あたりに居た兵は一気に剣を放り投げ、その場から消えた。
「命を奪われた民の痛みは、それとは比べ物にならぬほど大きいのです。」
トラジは痛みと出血で意識が朦朧としていた。
そこへ、小屋の奥からヒシオ皇子が現れた。
つい先ほどまで、命が尽きる寸前だった皇子が、見事に回復しているのを見て、クジやハスは、夢ではないかと我が目を疑う。
「楽にしてやりなさい。」
ヒシオ皇子の言葉で、クジが留目を刺した。トラジはその場で息絶えた。
「ヒシオ様・・。」
クジもハスもそれ以上言葉にならなかった。タケルとミヤ姫の奇跡の力の話は聞いていたが、これほどのものとは思っていなかった。
奥から、ミヤ姫が后に支えられるようにして顔を見せる。
「ヒシオ様には、生きたいと思う強い御心があったのです。」
ミヤ姫はそう言うと、その場に崩れた。タケルはミヤ姫を抱え上げる。
「ミヤ姫、頑張りましたね・・。」
「ええ・・。」
ミヤ姫はそう言うと、静かに目を閉じ、眠った。
「ヒシオがこれほどに回復するとは・・。まこと、神の御力とはこう云うものなのでしょう。ありがとうございました。」
后はミヤ姫を見つめ、涙を流しながら礼を言った。
ミヤ姫を横にした後、タケルはヒシオ皇子と対面し、クジたちも交えて、今後の事を話した。
「私は、すぐにも、越の国の民を救わねばなりません。」
ヒシオ皇子は強い眼差しでタケルに言う。
「しかし、今は、ヤマカを倒す事が先決です。このままでは、越の国だけでなく、近隣諸国の民にも害が及びます。何とか止めねばなりません。」
クジがそう言って、角鹿や若狭で起きようとしている事を皇子に話した。
「父を殺し、わが命まで奪おうとしたヤマカは逆賊。すぐに追討軍を作り、後を追いましょう。」
ハスも提案する。
「淡海国や難波津の者達が、手筈を整えているはずです。」
タケルは、淡海国のイカルノミコトたちと相談した中身を皇子に伝える。
一通り話を聞き、ヒシオ皇子が決断する。
「すぐに王家の館へ向かい、弟ヤシオから王の座を引き継ぎ、次なる王として宣言します。そして、ヤマカ追討の号令を発します。クジ、ハス、キリ、其方たちは将となって、討伐軍を率いて下さい。」
翌朝、ヒシオ皇子は、足羽山の王の館へ向かった。
王の館に近づくと、ヤマカが残していた兵たちが外門に集まっていた。トラジが死んだことを聞いた兵たちは戸惑い、これからどうするべきかを相談していた。そこへ、館へ近づく者たちの姿を発見し、わらわらと戦構えをし始めた。だが、やってくるのがヒシオ皇子と判ると、皆、一様に驚き、武器を捨てる。残っていた兵のほとんどは、元々、越国の郷から集められた者であり、郷の者達を守るために、やむなくヤマカに従ったのだった。
「ヒシオ様!」
皆、病に倒れたと聞いていた皇子が元気な姿で現れたのを喜んだ。
皇子復活の報せはすぐに周囲の郷に広がり、民が足羽山の館の周囲に集まってきた。
外門は開かれ、多くの民を中に入れた。ヒシオ皇子は、先代の王の煌びやかな衣服を身につけ、民の前に姿を見せた。
隣には、タケルが居た。
「此度、ヤマトの皇子タケル様とミヤ姫様の御力によって、わが命を取り戻すことができました。これより、私は越の国王となり、民のために働く覚悟です。」
ヒシオ皇子は高らかに王位継承を宣言する。
集まった民は歓喜に沸く。
「先代の王の命を奪い、私の命を奪おうとした、ヤマカは逆賊。すぐに、追討の軍を送る。」
集まった民が、『おお!』と声を上げる。
ヤマカに対して、どの郷でも命を奪われたり、追放されたりして、深い恨みを持つ者は多い。
「追討軍の将は、クジとする。我こそはというものは集まるが良い!」
それを聞いた者達が、我こそはと集まってきた。
「ヒシオ様、深い恨みを晴らすためでは、大きな戦となってしまいます。戦うことなく、ヤマカを討ち取る策を考えねばなりません。」
タケルは、歓声響く館の隅で、ヒシオ王に囁いた。
ヒシオ王は、タケルを見て、頷いて言った。
「これは、民の心を纏めるため。集まった者達には、日々の仕事があります。特に、春は田畑の仕事に追われる時です。クジは十分承知しています。追討軍は、クジの目利きで、精鋭を揃え、僅かな人数に絞ります。」

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