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2-7 追討軍 [アスカケ外伝 第3部]

すぐに、追討軍編成が始まった。
ヒシオ王は、追討軍は船一艘とし、兵は漕ぎ手も含めて僅か三十人程と命令した。クジは、集まった者の中から、弓矢や剣等の使い手を選び出した。
ハスは、近くの郷の者を集めていた。
「良いですか、皆様。ヒシオ王はヤマトの皇子タケル様とミヤ姫様の御力で病から回復され、ヤマカを討つため挙兵された事を一人でも多くの民へ伝えるのです。今こそ、越の国の民が団結する時です。」
それから、自ら、山中峠を越えて、角鹿の郷へ急いだ。追討軍が向かう事をいち早く、イザサに知らせるためだった。
キリは、館の中に潜むヤマカに通じる者を追放するとともに、后とヤシオを、王の館へ案内し、衛士長となり、ヒシオ王が追討軍として館を空けている時の代理として働くこととなった。

「軍船は三国の港主に手配させましょう。」
ヒシオ王は、集まった兵を連れて、三国の港へ行った。
「おお、これはヒシオ様・・・亡くなられたのではと聞き、もはや、越の国はこれまでかと諦めかけておりましたが・・・・。」
三国の港主は、ヒシオの姿を見て、涙を流しながら駆け寄ってくる。
「この者は、私が幼き頃から海の事を教えてくれた恩人なのです。」
ヒシオ王はそう言って、タケルたちに紹介する。
「こちらはヤマトの皇子タケル様とミヤ姫様です。病に臥せっていた私を、神のごとき御力で、このようにしていただきました。」
港主は、その場に傅き言った。
「これは有難き事。ヤマトの皇子は、越国の恩人・・いや、オホド王に並ぶ、神の様な御方・・・。」
「いえ・・私たちにできる事をしただけです。それに、これからが本当の戦いになるのです。」
タケルはそう答えた、
「あの船はどうなっておる?」と、ヒシオ王が港主に訊く。
「きっと、このような時が来ると信じ、奥の船倉に隠しておりました。常に手入れを欠かさず、すぐにも使えます。ご案内いたします。」
港主はそう言うと一行を港のはずれに案内する。
朽ち果てた桟橋の奥に大きな船蔵がある、これも朽ち果てたように見える。
「このようにすれば、まさか、ここに船があるとは思いますまい。」
港主は、その蔵の大きな板を何枚か外して中に入る。
そこには、見た事の無いような船があった。背の低い細長い形で、全て鉄製の屋根に覆われ、船尾には小さな窓が作られている。
「海の向こうの異国から荒波を越えてきた船です。昔、この先の岬に流れ着いていたのを幼いヒシオ様が見つけられ、私に、手入れを命じられたのです。船の舳先には、小さいながらも弩を備えております。それに、ここらの船とは比べ物にならぬほど、早く進みます。これなら、すぐにもヤマカに追いつけましょう。これまで、ヤマカに奪われぬよう、船倉深くに隠しておりました。どうか、お使いください。」
「これを使う時が来ぬことを願っていたのだが・・。礼を申す。」
ヒシオ王は、しげしげの船を眺めながら言った。
タケルは、その船を見て、ふと、父カケルのアスカケの話の中で出てきた、黒龍・赤龍の軍船を思い浮かべ、中津海で、父と母はどのように戦ってきたのか、思い返していた。
「さあ、参りましょう。一刻も早く、ヤマカに追いつき、他国に狼藉を働く前に止めねばなりません。」
すぐに船は出港した。
港主が話した通り、漕ぎ手はほんの十名程なのだが、波の上を滑るように進んでいく。左手には切り立った崖が続く。大きく左に向きを変えると、そこから一気に南へ向け進む。角鹿はすぐ目の前となる。
タケルたちは、船尾にある部屋に集まり、この先の事を話し合った。
「ヤマカは、もう角鹿の港に着いているころでしょう。」
と、クジが口を開機、さらに続けた。
「西へ向かうための兵糧が必要です。角鹿の先は他国。号令一つで兵糧を手に入れる事は難しいはず。角鹿では、出来るだけ多くの兵糧を積み込むはずです。」
それを聞いて、タケルが言う。
「角鹿のイザサ様は、そのことを見越して、大半の産物は郷の奥深くに隠され、民の多くも、金ケ崎の隠れ里へ隠れています。男達には、淡海国が国境を越えて攻め入ったとして、愛発へ向かうことになっていて、もはや、角鹿のもぬけの殻となっております。」
「なんと・・タケル様はこの戦の行方を見越しておられるのか?」
ヒシオ王が驚いて訊く。
「いえ、先を見越したのではなく、ヤマカを成敗する為にどのような策が有効か、淡海の方々やイザサ様と話し合った結果です。戦ほど無益なものはありません。出来れば、誰の命も失うことなく、悪の根源を断ち切る事が取るべき道と思っているのです。」
タケルの言葉に、ヒシオ王もクジも感服していた。
「ヤマカの軍船に乗っている兵たちも、皆、越国の民です。民同士が殺しあうことほど愚かなことはありません。何としても、ヤマカ一人を成敗いたしましょう。」
ヒシオ王もタケルに答えるように言った。

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