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2-11 追撃の準備 [アスカケ外伝 第3部]

タケルたちは、男達とともに港へ向かった。
そして、幾つもあった桟橋を取り外していく。そして、浜のあちこちに、流木を積み上げ始めた。夕暮れが近づき、皆、港にある蔵の中で休んだ。
翌朝も、同じように、浜辺に流木を積み上げていく。
「軍船が見えたようです!」
見張を置いていた高台から狼煙が上がっている。数人を残して、男たちは身を隠した。
「ヤマカ様、港が見えて参りました。」
軍船の舳先に立って、ヤマカが岸を見る。
「人影はないようだな・・・。」
ヤマカはじっと目を凝らして様子を見ている。
「よし!船を着けろ!」
ヤマカの号令で、港深くに船を進める。浜に潜んだ者達は、息を潜めて、成り行きを見ていた。
「桟橋が見当たりません。これでは船が着きません。」
水先案内人の男が叫ぶ。
「なんだと!」
ヤマカは身を乗り出して港を見る。幾つもあった桟橋がことごとく外されている。船を着ける場所はない。
「若狭の奴らは、儂に逆らうつもりか!」
ヤマカの軍船が港に入り、止まったのを見計らって、浜に積み上げた流木に火を放つ。あちこちに積み上げた流木が燃え始めると、煙が広がる。
「一旦、沖へ行け!」
ヤマカが危険を察知して、そう叫ぶと、軍船は岸から離れて行く。積み上がった流木の燃える煙が港や浜に広がり、視界を遮る。
ヤマカは苦々しい顔で浜の方を睨んでいる。
「いかがしましょう。」と側近の一人が訊く。
「やけに用意が良いな。大丹生の郷長はそれほどの人物とは思わなかったが・・・まあ、しばらく様子を見よう。」
ヤマカは港の様子を見ながら策を練った。
このまま、大丹生から退散すれば、その話を聞き、他の郷も、次々に反旗を翻すに違いない。だが、ここで、勝利すれば、ほかの郷も恐れ、素直に従うだろう。何としても、この若狭との戦に勝利せねばならないと、ヤマカは考えた。しかし、陸に上がれぬのでは戦にならない。近くの小さな港から攻め入るしかない。
「近くで船を着けられる港はないか!」
船縁から兵たちが周囲を探る。
このころ、小浜の海は、現在よりずっと海岸が奥まで入り込んでいて、大丹生の郷の前を流れる北川も川幅が広い。
「ヤマカ様、前方の山の麓辺りであれば、何とか船が着けられるかと・。」
側近が提案する。
そこは、大丹生の郷長の館から、川を隔てた対岸で小高い山があった。
ヤマカはすぐに船を進め、川岸と呼ぶべき場所に船を着けると、辺りにあった小舟をことごとく手に入れた。大丹生の郷を攻めるには、間を隔てる川を越えるため、やはり船が必要となる。
「よし!これで大丹生の郷を攻める!皆、乗り込め!」
ヤマカは、兵たちを小舟に分乗させて、対岸の大丹生の郷へ向かわせた。川の中ほどまで小舟が進んだ時、小舟の兵たちが騒ぎ始めた。
「いったいどうしたのだ!」
ヤマカが少し苛立って叫ぶ。
「ヤマカ様、東の方から兵が来ている様子です。」
船から周囲を見張っていた者から報告が届く。
「兵だと?何処の兵だ?」
「判りません。ですが、川沿いにこちらへ迫ってきております。淡海の兵かもしれません。」
「どれほどの兵だ?」
「五百ほど。このままでは、背後を取られます。」
「ええい!船を戻せ!」
このままでは、背後を取られ、挟み撃ちになる。数の上でも到底勝てる見込みはない。川の中ほどまで進んだ兵たちは引き返すように命令された。だが、戻ってこようとはしない。
「どうした!何故戻って来ぬ!裏切ったか!」
「ヤマカ様、急がねばなりません。」
「判った、すぐに船を出せ!」
ヤマカの船は沖へ出て行こうとするが、終に軍船一隻だけしか動かせなくなっていた。
ヤマカは、沖へ出たものの僅かな兵となっている有り様を見て愕然とした。何としても軍勢を立て直さねばならない。このままでは、伯耆の国で戦うどころか、そこへ着けるかもわからぬ始末であった。
「ヤマカ様!沖に怪しい軍船が居ります。」
船の見張台から報告を受け、ヤマカは舳先から身を乗り出して、その船を確かめようとした。だが、波間にはそのような船は見えない。
「どこに居る?見えぬようだが・・。」
ヤマカが訊く。
「いや・・確かに・・船が・・」
見張台にいた男はしどろもどろになりながら、船が見えた辺りを見返す。
軍船と聞き、皆、大きな船を想像していた。だが、その船は背が低く細長い形をしていて、真っすぐ向かってくると、波に隠れてしまって視界にとらえる事はできなかったのだった。
「やはり・・船です!」
見張台の男が叫んだ時、すでに船は目の前まで迫っていた。

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