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2-12 決着 [アスカケ外伝 第3部]

「何だ、あの船は!何処の者だ!」
ヤマカは苛立ちながら叫ぶ。
船をじっと見ていた兵たちが叫ぶ。
「越の国の旗が掲げられております!」
その声と同時に、目の前の船の甲板に、男が数人立っているのが見えた。
「あれは・・ヒシオ様!ヒシオ様ではないか?」
「まさか?生きておられたのか!」
「王になられたのか?」
ヤマカの軍船に残っていた兵から動揺の声が上がる。ヒシオの着衣は、先代の王の者。それを知る者は、ヒシオが王位を継いだとすぐ理解した。
「王が戻られた。ヒシオ様が復活された!」
僅かに残っていた兵たちは叫ぶ。
「死にぞこないが!地獄から舞い戻ったか!」
ヤマカの軍船は一隻とはいえ、大きさではヒシオ王の船の倍以上ある。
「よし!あの船を蹴散らしてやろう。船を進めよ!」
ヤマカが号令する。
軍船の漕ぎ手は、足枷が付けられ逃げられなかった。船の中で、側近が剣をもって漕ぎ手を小突いて命令する。
「命が惜しければ、漕げ!」
やむを得ず、漕ぎ手が櫂を引く。軍船は、反転すると速度を上げて、ヒシオ王の軍船に向かってきた。
「ヒシオ様!このまま船を進めてください!」
舳先で叫ぶ声がする。そこにはガタイのいい男が前方を睨んでいる。脇から、弩が引き出されてきた。
「横からぶつけられると元も子もありません。あの軍船と向かいあい、船を進めてください。」
男の声に皆も従う。ヒシオ王の船は真っすぐ対面した形で、ヤマカの軍船に向かう。
「ぶつかるぞ!」
ヤマカの軍船から叫び声がする。
「よし!今です。」
舳先にいた男が合図をすると、僅かにヒシオ王の船は舳先を左へ向け、ヤマカの軍船に接触寸前ですれ違った。
目の前に見上げるようなヤマカの軍船が通り過ぎていく。
ドンという鈍い音が響いた。舳先の男がすれ違いざまに弩を放ったのだった。鉄製の矢がヤマカの軍船へ飛んでいく。そして、船尾にある舵の付け根を射抜き、砕いた。
ヤマカは何が起きたのか判らずにいたが、しばらくして事態が飲み込めた。
「舵が利きません!」
操舵手から悲鳴のような声が聞こえる。大きな船である。漕ぎ手の力だけでは、船の向きを変えられるようなものではない。潮に流されていく。
「ええい!何をしておる!船を戻せ!何とかしろ!」
ヤマカが叫ぶ。
船は潮に流され、終に、沖合にある岩礁に乗り上げた。そこへ、ヒシオ王の軍船が近づいてくる。動けぬ船ではどうしようもない。
「おい、矢を放て!敵船だ。さあ、矢を放て!」
ヤマカが叫ぶ。だが、兵たちは弓を構えようとはしない。もはや、決着がついている。
「どうした!射貫いてしまえ!」
ヤマカは、剣を抜き、兵たちを脅す。ヤマカの側近たちも、兵たちを小突き、矢を放つよう命じる。軍船の中で兵たちが逃げ回り混乱しているのが判った。中には、海に飛び込む者が出ている。
「船を横付けしてください!」
タケルが叫ぶ。
ヒシオ王の軍船がヤマカの軍船に横付けしようとゆっくりと近づくと、ヤマカの僅かな側近たちが矢を放つ。
「あの者達を射抜け!」
クジが、越軍の兵に号令すると、数名の者が立ち上がり、狙いすまして矢を放つ。腕利きの者を集めただけの事はあって、放った矢は、正確に側近たちを射抜く。次々に倒れていくのが判った。反撃されない事が判ると、船を横付けして、ヒシオ王とタケルが軍船に乗り移った。
「ヤマカ、お前は逆賊である。ここで成敗する!」
ヒシオ王が叫ぶ。
だが、ヤマカの姿が見えない。
「どこへ行った!ヤマカ!出て来い!」
ヒシオは叫ぶ。兵たちも船の中を探すが見つからない。
「繋いでいた小舟がありません!」
ヤマカはわずかに残った側近に守られ、軍船で引いていた小舟に乗り逃走していたのだった。
軍船の周囲は、海へ飛び込んだ兵たちを助け上げようとする者たちが居て、他にも小舟が出ている。大丹生の港からも、小舟が漕ぎ出してきていて、ヤマカの乗った小舟を判別できなかった。
「取り逃がしたか!」
ヒシオ王は悔しそうに言う。
「わずかな手勢で小舟で逃げたのですから、すぐに、見つかるでしょう。命は奪えずとも、戦の種は消えたのです。一応、決着がついたと考えてはいかがですか?」
タケルが提案し、ヒシオ王も納得した。
「ヤマカは敗走した。我らの勝利だ!」
ヒシオ王が宣言する。軍船や小舟から歓声が上がる。

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