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2-13 ヤマカの行方 [アスカケ外伝 第3部]

ヤマカは取り逃がしたものの、戦の火種は消えた。ヒシオ王は、皆を連れて、大丹生の郷長の館に居た。
館には広い庭があり、そこには何百人もの兵、いや、民が集まっている。大丹生の郷の者、越・角鹿の者、足羽からヤマカに徴兵された来た者、そして、淡海国や遥か難波津から来た者もいた。皆、ヤマカを追放し勝利したことを喜びあっている。
「今宵は、勝利の宴に致しましょう!戦支度で。気の利いたものは用意できませんが、海のものならすぐにも用意できます。」
大丹生の郷長ホデミが皆を歓迎する。
「海のもの・・魚や貝なら、俺たちにはご馳走だ!」
そう言ったのは淡海から来た男だった。
「米なら、あの軍船から運び出したものがある。」
越の兵だった男が応えるように言う。
「ここへ来る途中、山で狩りをしてきたぞ。猪と鹿肉ならあるぞ!これで充分だろ?」
また、誰かが言った。
「宴なら、酒は欠かせぬものであろう。酒はないのか?」
「ああ、それなら、ホデミ様にお願いしよう。」
「おお、そうじゃそうじゃ!」
男たちが騒ぎ始める。ホデミは仕方なく、蔵を開け、濁酒を持ってくるように言う。すぐさま、男たちは蔵に向かった。
ようやく、支度が整い、宴が始まる。皆、思い思いの場所で、それぞれのお国自慢を語りあい、上機嫌になっている。
タケルやヒシオ王、ホデミらは、館の広縁に座り、男たちの様子を嬉しそうに眺めている。
「これこそが、ヤマトですね。」
淡海の国からきている、イカルノミコトがタケルに言う。
「ええ・・越、若狭、淡海、そして難波津・・諸国の皆が集い、笑顔でそれぞれの故郷を自慢げに語りあう。そこには、争いはなく、互いに信じあい、たすけあう。これこそが、ヤマトが目指す国・・。」
タケルも、感慨深く答えた。
「出雲の国も・・かつては、八百万の神を敬い、北海に面した国々が助け合う善き国であったのですが・・。」
ヒシオ王が少し沈んだ声で呟く。
「出雲は何故乱れてしまったのでしょう。・・トキヒコノミコトの反乱より前にも戦があったと聞きましたが・・。」
タケルが尋ねる。
「詳しくは判りませんが・・先代の王の時、一度、伯耆の国から使者が参ったことがありました。韓人らしき軍勢が、伯耆の国を荒らしているので、援軍を送ってもらいたいとの事でした。しかし、その頃、越の国には戦を仕切るような将も、兵すら居りませんでした。」
ヒシオ王が答える。
「その後の事は?」とタケル。
「判りません。暫くすると、出雲から使者が来て、戦支度をするよう求められ、やむなく、ヤマカを受け入れたのです。それがこのありさま。」
ヒシオ王の答えを聞きながら、タケルはまだ腑に落ちないことがあった。
その時、タケルの剣が鈍い光を放った。同じ時、隣にいたミヤ姫の鏡も光を放つ。
「タケル様・。」と、ミヤ姫が、耳元でそっと囁く。
「うむ・・何か怪しげな者が近づいている。」
タケルはそう答えると、周囲を警戒する。広場にいる男達は相変わらず賑やかに騒いでいる。
ふと、館の広縁に上がる石段に、濁酒の入った甕を抱えてくる男がいた。身なりは、広場で騒ぐ男達と同じだが、何か様子がおかしい。男はゆっくりと石段を上がり、甕を置き、跪いた。それから、やにわに、胸元から短剣を取り出し、ヒシオ王に飛び掛かってきた。
「危ない!」と、タケルが剣を抜き、男の短剣を受け止める。
ガキンという音とともに、短剣は飛び、男が石段を転げ落ちた。これには、広場で騒いでいた男達も一瞬で静まった。
「おのれ!」
転がり落ちた男は、近くに置かれていた剣を手にして、構える。
「ヤマカか!」
男を見て、ヒシオ王が叫ぶ。
広場にいた男達が一斉に、ヤマカを取り巻く。すると、男たちを割るようにして、後ろから、三人程の男が現れ、剣を構え、ヤマカを守るようにして囲む。ヤマカは、側近とともに、軍船から逃れた兵たちに紛れ、宴の席に入り込んでいたのだった。一触即発の状態。死者が出るかもしれない。
タケルは、広縁から高く飛び上がり、側近の男達を剣で撥ね飛ばし、ヤマカの前に仁王立ちとなる。
「もう止めましょう。決着はついています。」
「おのれ!」
ヤマカは、まだ諦めていない。転がっている剣を素早く拾い上げ、やみくもに、周囲の者へ切りかかった。武器を持たぬ男達は、逃げ惑う。一旦取り押さえられた側近も逃げ出し,ヤマカと同じように剣を振りまわす。転がる者、踏みつけられる者、切り付けられる者まで出た。
「赦せ!」
タケルは、剣の切先を鋭く振り上げた。その場で、ヤマカの体は真っ二つに裂け、果てた。暴れていた側近たちも、ほかの男達によって切り殺された。
越の国を苦しめたヤマカは成敗された。

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