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2-14 西へ向かう [アスカケ外伝 第3部]

タケルとミヤ姫は、数日、大丹生の郷で過ごした後、西へ向かう事にした。ヒシオ王は、大船の軍船を一隻、タケルに譲った。
「伯耆の国へ向かわれるのであれば、この者をお連れ下さい。以前は、出雲と越の間を行き来していた船の水先案内人をしておりました。生まれは伯耆の国と聞いております。」
大丹生の郷長ホデミが紹介してくれたのは、ひょろりとした背格好で、日に焼けた黒い顔をしている、ヒョウゴという者だった。他にも、船を操る水夫たちも用意してくれた。万一のためにと、越から率いてきた三十人程の兵も乗船した。タケルは戦をするために向かうのではないと言って、一旦は断ったのだが、難波津の者達が、タケルとミヤ姫の身の安全を考え、半ば、強引にタケルに承諾させた。
用意が整い、いよいよ出航となった。
「タケル様、お気をつけて。」
「この北海の国々にきっと安寧を・・お願いいたします。」
越、若狭、淡海、難波津、それぞれの国の皆が見送った。
タケルの乗った船は、大丹生の港を出て、西へ向って行く。
「この時期は、東風に乗って行けますから、伯耆の国もさほど遠くはありません。この先、宮津の港へ立ち寄ります。」
ヒョウゴは、船の行き先に視線を向けながら言った。
宮津とは、丹後国の中心、国主が住んでいる。湾を締め切るほどの砂州が伸びていて、外海が荒れていても、中は穏やかであるため、北海(日本海)を行き来する船にとっては、休息地となっていて大いに賑わっていた。
タケルたちの船が港に入ると、大勢の衛士たちが港に集まってきた。軍船が突然港に入り込んだのである。警戒するのは当然の事だった。
ヒョウゴは、軍船から曳航していた小舟に乗り移ると、すぐに、桟橋に向かった。遠目ではあるが、ヒョウゴが衛士長らしき男に何か必死に話しているのが見える。暫くすると、ヒョウゴは数人の衛士を小舟に乗せ、軍船に戻ってきた。縄梯子を使って、小舟から軍船に乗り込んできた衛士たちは、じろりと睨む。
「ヤマト国皇子タケル様の軍船だと申しても、信用してくれないのです。」
ヒョウゴが情けない顔でタケルたちに弁明する。衛士たちは何も言わず、船の様子を探っている。伴をしている越の兵士たちは、大人しく船室に潜んでいた。
タケルが衛士たちの前に立つ。そして、何も言わず、腰の剣を外して、衛士の前に差し出す。剣には、皇家の紋章が刺繍されている。衛士がじっとそれを見つめ、はっと顔色を変えた。そして、タケルの前に跪いた。
「御無礼をいたしました。お許しください。」
衛士の一人がそう言うとすっと立ち上がり、岸へ向かって手を振った。
「さあ、港へお入りください。」
タケルの軍船はゆっくりと桟橋に着く。衛士はすぐに陸に上がり、数人がどこかへ走り出した。
まもなく、慌てた様子で、男たちが数人、港にかけてきた。
「これは、皇子タケル様、ようお越しくださいました。・・山城国ムロヤ様から報せが届いておりましたが、なかなかお越しにならないので、もはや、この地は通り過ぎて行かれたものと思っておりました。・・申し遅れました、この地を治めております、クラキと申します。」
恰幅の良い大柄な男で、長い髭を生やし、穏やかな顔で迎えた。
館は港を見下ろす高台にあり、広くて緩やかな坂道で結ばれていた。大きな荷車が行き交うことができるほど幅広い道、その左右には幾つもの館が建っている。タケルは、どこか、難波津宮に似ているように感じていた。
「ここは、出雲と越の国を繋ぐ海路の要衝。そして、ここから山を抜け山城や難波津へも行けます。角鹿や大丹生と同じく、諸国の産物を預かっております。」
一行は、クラキの話を聞きながら、館へ向かう。
館に入ると、別棟の館を案内された。軍船の伴達も、船を降り、その館で休むことになった。
翌朝になると、クラキから、皇子来訪の報せを受けた周辺の郷長達が続々と集まってきた。
「ようこそ、我が地へお越しくださいました。」
クラキの挨拶とともに、居並ぶ郷長達も深々と頭を下げる。タケルは、歓迎への礼とともに、越国の出来事について話した。
「ヤマカが成敗されたとなれば、出雲国が動き始めるかもしれません。」
タケルの話を聞いたクラキがやや不安そうな表情を浮かべて言った。
「伯耆の国で起きた事を教えていただけませんか?」
タケルが訊くと、クラキが答える。
「五年ほど前、伯耆の久米の荘を、韓の軍が襲ったのが始まりです。伯耆の国は出雲国に従い、八百万の神々を敬う穏やかな地。兵など居りませんから、瞬く間に、韓の軍に荒らされました。ですが、その後すぐに、抗う者が現れ、次々に韓の軍を破り、終には、伯耆の国から追い出してしまったと聞いております。」
「その者がトキヒコノミコト様なのですね?」
「さあ・・そんな御名だったか・・とにかく、弓の名手で、民に弓を教え、抗うための軍を作り、次々に、韓の兵を倒したと聞いております。」
これまでに聞いてきた話とほぼ同じである。
「その後、韓の軍は?」と、タケルが尋ねる。
「実は、伯耆の国から敗走した韓の軍は出雲国へ入りました。その後、どういう経過でそうなったかは判りませんが、出雲の国主の庇護を受け、今や、出雲国の護衛軍となり、率いている一族の長が、国主に代わり国を治めている有り様です。・・ヤマカもその一人でした。」

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