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3-2 策を練る [アスカケ外伝 第3部]

タケルは一旦、皆をここで留まらせ、これからの策を相談することにした。
それほど時はない。共に来た兵たちは、皆、うずうずしている。だが、迂闊に動けば、敵の策略に乗ってしまうことになりかねない。
タケルは、砦に残る館に、クジやヒョウゴ、そして、宮津や角鹿から来た軍船の将たちも集めた。
「すぐにも大神山へ向かい、トキヒコノミコト様に加勢いたしましょう。」
宮津の将シノギは、逸る兵の気持ちを代弁するように強い口調で言った。
「背後から攻めればきっと勝機はあります。」
角鹿の将ゴチョウも同調する。
ゴチョウの言うように、大神山へ向かった大蛇の軍の背後から、一気に攻めればトキヒコノミコトの軍と挟み討ちにできる。
「戦となれば、多くの兵が傷つき、命を落とすことになります。」
タケルが言うと、
「戦に命を賭ける事は兵の心得。出雲の国、いえ、倭国を守るための覚悟は、皆、できております。」
と、ゴチョウが平然と言ってのけた。
「その覚悟は有難い事です。しかし、無駄に命を落とす事はありません。できるだけ、戦にせぬ事、そのためにやるべきことを考えましょう。」
タケルの言葉に、シノギもゴチョウも少し憤然とした表情を見せる。
クジが言う。
「しかし、既に戦になっていたなら、いかがしますか。」
クジの云うとおりだった。大蛇の軍は容赦なく戦を仕掛けるに違いない。こちらが避けようとしても、逃れられないのが戦なのだ。そして、その時は刻一刻迫っている。タケルは、即座に答えることができず、席を立った。
館の開け放たれた戸板から、外を眺めると、赤い夕陽が見えた。
「日の落ちる先に、出雲の国の都があります。」
ヒョウゴがタケルの傍に立ち、夕日を眺めながら呟くように言った。
「都まではどれくらいですか?」
「ここから船で、中海を抜け、能代の海を通れば、ほんの一日です。」
「それほどに近いのですか・・・。」
タケルは驚き、ヒョウゴの顔を見た。
「おそらく、我らがここへ着いたことは、すでに出雲にも伝わっているはずです。出雲の兵力がどれほどかは判りませんが、もし、兵力を温存しているなら、すぐにも大軍がここへ来るかもしれません。」
「そうなれば、伯耆の国で大戦が起きることになりますね。」
もはや、戦をせずに大蛇一族を退け、出雲や伯耆の国に安寧をもたらす事は出来ないのか。大きな戦になる前に、大蛇一族を排除できぬものか、タケルの頭の中で同じ問いがぐるぐると回っていた。
「タケル様、宜しいでしょうか?」
背を向け外を眺めているタケルに、そう言ったのは、イカヤだった。
「何でしょう?」と、タケルが訊く。
「実は、トキヒコノミコト様の御言葉が、気になっているのです。」
「トキヒコノミコト様の言葉?」と、タケルが訊き返す。
「大蛇一族を殲滅せねば、出雲に安寧はない。とおっしゃったのです。・・しかし、ここは伯耆の国。トキヒコノミコト様にとっては、伯耆の国の安寧が願いのはず。なのに、何故、出雲と言われたのでしょう?」
言われてみれば不思議だった。既に追い詰められ、伯耆の国の安寧を願うのなら分かるが、なぜ、出雲の国なのか。
「聞き違いではないのか?」
そう言ったのは、クジだった。
「いえ・・確かに、出雲とおっしゃいました。何か、深い意味があるのではないでしょうか?」
イカヤが言うと、「出雲ですか・・・・」と、タケルはトキヒコノミコトの言葉の意味を考えた。
広く、北海に面した国々、出雲国から越の国までのつながりを、出雲国と呼んだのではないか。ならば、一層、この戦いを避けなければならない。このままでは、出雲に従う国同士の戦いになってしまう。出雲一国の事であるならどうか。出雲国の中で起きている事を危惧しているという事か。大蛇一族に出雲国が支配されているという事なのか。それなら、出雲に向かわねばならない。タケルは迷った。
「タケル様、我らを先遣として、大神山の麓に行かせてもらえませんか?」
申し出たのは、クジだった。
「越から率いてきた者は、皆、腕に覚えのある強者ばかりです。僅か三十名ほど。隠し砦の様子を伺って参ります。すでに戦が起きているなら、援軍の狼煙を上げます。まだ、戦が起きていないなら、どうにか、トキヒコノミコト様のもとへ辿り着き、これからの策について話を聞いて参ります。ここでいくら考えていても、良い策は出ないように思います。」
「ならば、私がご案内いたします。大蛇の軍に見つからず、大神山の隠し砦へ辿り着くには、妻木の郷から回り込んで向かう道が良いはずです。」
イカヤが申し出た。
「それでは、お願いいたします。くれぐれも戦を仕掛けぬようお願いします。」
タケルはクジの申し出を受け入れた。
「我らは、出雲の様子を探りましょう。」
そう申し出たのは、ゴチョウだった。
「奪った大蛇の船を使い、出雲へ入ります。そこで、いくつかに分かれて、出雲の国の様子を見て参ります。なに、三日もあれば、様子が判ります。」
「では、私がご案内しましょう。能代の海へ入るには狭い水路を進むことになります。周囲に兵が潜んでいるかもしれません。怪しまれずに行かねばなりません。お任せください。」
といったのは、ヒョウゴだった。
そして、飯山砦には、タケルとともにシノギの軍が控えることになった。
それぞれ、翌朝には出発して行った。

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