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4-20 大和へ(エピローグ) [アスカケ外伝 第3部]

「名をつけねばならぬぞ。」
二日ほどが経った時、父カケルが、タケルに言った。タケルも、その事はずっと頭の中にあったが、どのような名が相応しいのか悩んでいた。
「姫の名というのはどうしたものでしょう?」
素直にタケルは、父カケルに訊く。
「そうだな・・私は戦で不在であったため、お前の名は、アスカの父である、葛城王に付けていただいたのだが・・。」
「ならば、父上に名をつけていただきたい。如何です?」
「いや・・それは・・それなら、アスカに頼んでみてはどうか?皇はヤマトの母。全ての民の母であるわけだからな。」
男二人は、こうした時、意外と情けないものである。二人は、御子を守りするための部屋にいた、ミヤ姫とアスカの許へ行き、名づけの話をした。
皇アスカは、二人の話を聞き、あっさりと引き受けた。
「フク姫といたしましょう。」
「フク姫?」と、カケルが訊きなおす。
「ええ、この地は、福部の郷というのでしょう。福とは、幸せを授かるという事。この地で生まれたのはこの子の定め。そして、戦が収まり、ようやく皆にも幸せが訪れる時となりました。きっと、フク姫は、幸せを呼ぶ存在となるはずです。」
皇アスカは、随分前から名を決めていたようだった。
「ミヤ姫も、きっと気に入ってくれるでしょう。」
ミヤ姫は、アスカを見て微笑んだ。
「フク姫か・・良い名です。・・おお、フク姫、フク姫!」
摂政カケルは、はじけるような笑顔を浮かべて、フク姫を抱き上げ、喜んでいる。

出産からふた月ほどは、アスカとカケルも、福部の地に留まり、御子をあやす我が子の姿を見ながら幸せな時を過ごした。
そして、雪解けが始まり、春の兆しを感じるころ、皇アスカと摂政タケルは都に戻ることにした。
「せっかくここまで来たのです。是非、淡海の国へも立ち寄りたい。たしか、淡海にはヤチヨがいるのでしょう。」
皇アスカの希望で、一行は、福部から角鹿を経由して、淡海へ入り、琵琶湖を船で渡ってから都へ入る道を行くことにした。
すぐに、皇と摂政がお通りになるという話しが伝わり、北海沿岸の郷は、俄かに活気づいた。船が立ち寄る先では、大勢の民が出迎え、その地の産物でもてなした。そして、琵琶湖には大船が用意され、ゆっくりと大津へ向かった。そこから、瀬田川を下り、巨椋池、難波津へと向かった。
一方、タケルとミヤ姫は、福部から再び出雲へ向かい、女王ヤガミとトキヒコノミコトとの対面を済ませ、長門国から中津海を経由して、難波津へ一旦戻った。
難波津では、多くの民が盛大に迎えた。
難波津で、皇アスカと摂政カケルと合流し、大和川を上り都を目指した。
初夏を感じる頃に、ようやく、タケルとミヤ姫は大和の都に帰還したのだった。

都に戻ると、皇アスカは譲位を宣言した。
周囲に反対する声はあったが、皇アスカは、タケルが東国へ向かった頃から、時折体調を悪くすることがあり、今回、出雲までの行幸にも、実のところ、摂政タケルは二の足を踏んでいた。そういう経緯を知っている者は、譲位について強くは反対せず、それよりも、東国や出雲との縁を結んだ皇子タケルが、皇になる事で、ヤマトを支える諸国がさらに強い結束を持つ事になると歓迎する声が徐々に大きくなっていった。
それからすぐに、皇タケルが誕生することになる。

皇位を退いたアスカのために、カケルは、畝傍の砦を改修して、飛鳥宮とした。
二人は、平城の宮を出て、飛鳥宮へ入ると、しばらく静かに暮らした。
カケルが還暦を迎えた年の始め、アスカが切り出した。
「カケル様・・・九重へ行ってみませんか。」
「九重か・・・遥か遠くなったが・・・もはや、戻ることもなかろうと思っていたのだが。」
「ヤマトは安泰。タケルもしっかり皇君の勤めを果たしております。懐かしき御方にもお会いになられたら如何でしょう。・・邪馬台国もきっと素晴らしき国となっておりましょう。」
「そうだな・・・この先、これまでお世話になった方々へお礼をせねばなるまい。行ってみるとするか。」
「ええ・・是非にも・・・。」
冬の夜空に、煌々と月明かりが降り注いでいる。
カケルは、遠く西の空を見上げ呟いた。
「まだまだアスカケの道は続くようだな・・・。」

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