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1-4 病院で聞き取り [同調(シンクロ)Ⅱ-恨みの色-]

翌朝、一樹と亜美は署の自分のデスクに居た。
「どこから手を付ければいいのかしら・・」
亜美が椅子に座り天井を見上げ、独り言のように呟いた。
「悩んだときは、現場百遍っていうんだよ。もう一度、病院へ行こう。」
一樹は立ち上がり、署を飛び出した。亜美も一樹の後を追った。病院に到着すると、すぐに屋上へ向かった。
「亜美、守衛室に行ってくれ。監視カメラを確認したいんだ。」
亜美は言われたとおり守衛室に行き、監視カメラの映像を確認できるようにした。そして、一樹は、屋上に出ると、監視カメラの真下に立ち、カメラのアングルでどう見えるかを検証した。
「亜美、良いか?」
一樹と亜美は、携帯電話で連絡を取りながら、監視カメラの死角を再度確認した。そして、一樹は守衛室に入ってきた。
「佐原氏は、カメラで写る範囲をはっきりわかっていたみたいだな。それに、カメラの左右の下は完全に死角だった。人ひとり、立っていられるスペースもある。佐原さんが自殺するのを見ていた人間がいてもおかしくない。」
守衛室にはいくつものモニター画面があり、数秒単位で映像が切り替わるタイプのものが設置されていた。
「ここの前の画像はどうなっていますか?」
慌てて若い守衛が手許の操作盤を使って、画像を探し出す。もう一人の年配の守衛が言い訳がましく応える。
「何しろ、病院内には百基以上のカメラがありますから・・我々は、院内の安全確保が最優先でして・・・出入口や階段の映像はしっかりチェックするんですが・・屋上への通路や屋上は滅多に人が入る事がないんであまり見ていません。それに、前院長の指示で十四階はモニターしないように指示されていましたから、さらに、その上の屋上は意識にないんです。」
真面目そうな若い守衛は、必死に、事故の時間帯の映像を検索した。
「あれ・・おかしいなあ・・・ああ、そうか。そうだった・・・。すみません。保存データの中には、屋上への通路画像はありません。膨大なデータになるんで、玄関など外からの人の出入りが多いところのデータは三ヶ月保存しているんですが、十一階以上のエリアのデータは六時間経過すると消去されるようになっているんです。屋上のデータは、事故が発生したのですぐに、消去処理を停止したんですが・・・」
若い守衛が、申し訳なさそうに答えた。
「目撃者を探すしかないということだな。」
一樹が呟く。
「レイさんに協力してもらった方が良いんじゃない?」
「いや、やめておこう。彼女はこの病院の責任者だ。彼女が部下に指示すれば、情報が一気に拡散して、正しい情報が見分けられなくなる。」
「そんな・・。」
「いや、仮に犯人が病院関係者なら、すぐに証拠を隠すだろう。もっと難しくなる。」
一樹はそう言うと席を立ち、亜美を連れて、廊下に出た。
「どうせ、手間のかかる事件なんだ。じっくりやるしかないだろう。」
一樹は覚悟を決めたように言い放つと、病院の案内受付に向かった。
「すみません。昨日、転落事故で亡くなった、佐原さんの病室はどこでしょうか?」
ふいに尋ねられた受付の女性は少し驚いた表情を見せたが、すぐに十四階だと答え、ナースステーションを教えてくれた。
佐原健一が入院していたのは十四階の特Cという部屋だった。十四階は、以前の名残で、引き続き、特別室として使用されていて、一つのフロアに四部屋しかない。
「こちらの部屋でした。」
案内してくれたのは、今年、入ったばかりの岩月という若いナースだった。
「両隣は空いていたんですか?」
一樹が尋ねると「はい」と小さく答える。やはり担当していた患者が亡くなったのはショックだったのだろう。何とか気持ちを保っているように見える。
「誰か、訪ねてきた人は見ませんでしたか?」
「いえ、このフロアは特別な方を受け入れる事になっていて、エレベーターを出て、すぐにナースステーションで受付されないと部屋には入れないようになっています。お見舞いの方があれば必ず判るはずですが、特に、そういう方はいらっしゃいませんでした。」
やや気持ちを持ち直したのか、岩月ナースがしっかりと答えた。
「じゃあ、入院患者の方同士で行き来はあったのかしら?」
亜美が尋ねる。
「下のエリアの方たちは、六階のコミュニティルームでお話されたりするのは見ますが、このエリアはそういうのはありませんね。大きな会社の方で、社員の方がお見えになる事はありますが、最近はそういうのも見かけませんでした。」
「そう・・。」
亜美は少しがっかりした表情を浮かべている。一樹は病室の中に入ってみた。
「佐原さんの私物は片付けさせていただき、奥様にお渡ししました。着替えと本くらいでしたが・・。」
「そう。」
一樹は、がらんとした部屋の中を一通り見た後で、「ありがとう。」と言って部屋を出た。
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