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1-5 コミュニティルーム [同調(シンクロ)Ⅱ-恨みの色-]

二人は、一旦、六階にあるコミュニティルームに行き、自動販売機のコーヒーを買ってから、椅子に座った。
「十一階以上の監視カメラの映像は残っていないって言っていたよな。」
コーヒーを啜りながら、一樹が言う。
「ええ、でも、訪問者はなかったって言ってたから、映像があっても仕方ないんじゃ・・。」
「ああ、そうだ。外からの人間が犯人ならな。もし、病院関係者ならどうだ?監視映像が残っていると、不都合もあるだろう。」
「あら、病院関係者ならどこにいたって問題ないんじゃ?」
「いや、ここは各階でナースステーションがあり、それぞれ決められた持ち場がある。もし、自分の持ち場以外に居れば不審に思われるはずだ。まして、殺そうという相手と何らかの接触するような映像があれば、決め手になる。だが、あそこの映像は六時間たてば無くなるだろ?証拠が残らないというのを知っているならどうだ?」
一樹はコーヒーカップに視線を落として、言う。
「じゃあ、ここのナースが犯人ってこと?」
「ナースだけとは限らないだろう。医師だってあり得る。」
「そんなことって・・・。」
一樹がにやりと笑って言った。
「まあ、そう早くに決めつけるなってことさ。今回は、じっくりと可能性を探るしかないんだ。それに、百パーセント犯人だって判っても、自殺に追い込んだことを立証するのは難しいんだからな。ただ、佐原氏は、余り交友関係が広かったわけじゃなさそうだし、過去を調べれば、何か出てくるだろ?・・・そっちは、松山たちが調べているから、一度、署に戻ってみるか。」
そう言って、立ちあがった時、背後から声を掛けられた。
「あの・・警察の方ですよね。」
そこには、点滴台を片手に、見るからに病人と判る風体の中年男性が立っていた。
「ええ・・。」
亜美が答える。
「あの・・飛び降り自殺された方、佐原さんですよね。」
青白い顔をした男性は、か細い声で訊いた。
「お知合いですか?」
一樹が訊く。
「いえ・・知りあいというほどじゃないんです。おととい、ここで少し話をしたくらいですが・・ああ、私、吉岡と言います。胃がんの手術をして、もうすぐ退院するんですが…それより、ちょっと気になることがあって、お話しておいた方が良いかと思いまして・・。」
すぐに席に座り、吉岡の話を聞いた。
「一昨日の午後、偶然ここでお会いして、実は、私、佐原さんとは同じ、修練館高校でして、1年後輩にはなるんです。」
「修練館って、進学校じゃないですか。」
亜美が変なところで感心した声を出した。
「まあ、進学校でも上位と下位では雲泥の差がありますからね。私は落ちこぼれでしたから・・・、佐原さんはかなり優秀だったと思います。結構、目立っていました。でも、高校時代はほとんどお付き合いもなかったんです。偶然、私が持っていたタオル・・ああ、これですけど、これを見て、佐原さんから声を掛けてもらったんです。少し、高校の頃の思い出話をしていたんですが、何だか、急に大きな溜息をつかれてね・・。」
「溜息ですか・・。」
「ええ、楽しげに話したあと、何だか、急に後悔したような、そんな感じでした。」
「高校の頃になんかあったんでしょうか?」と亜美が訊く。
「いえ、そうじゃなくて、良い高校生活だったって言ってましたよ。たぶん、その後の事じゃないかって思うんですが。」
「その後?大学に進学されたんでしょう?」
「たぶん、そう思います。・・・自殺されたって聞いて、何だか、あの時の溜息が妙に気になってしまって・・・もう少し、その・・・・佐原さんの話を聞いていれば、自殺なんてしなかったんじゃないかって思えて・・どうにも気になって・・。」
「それ以外に気になった事はありませんでしたか?」
一樹が訊く。
「初対面に近かったので、普段がどういうお方かも知りませんから・・。」
「そうですか。ありがとうございました。また、何か気になることを思いだされたら、署の方へご連絡ください。」
一樹はそう言うと、自分の名刺を渡し、席を立ち、出て行った。
亜美は、慌てて立ちあがり、吉岡に「あなたのせいじゃありませんよ。自殺の原因はきっと私たちが明らかにします。そんなに気に病まないでくださいね。」と言って、一樹の後を追った。
一樹は既に駐車場で車に乗り込むところだった。
「待ってよ、一樹。私を置いていく気?」
慌てて助手席に乗り込むと、同時に、車は発進した。
署に戻ると、鳥山たちも戻ってきたところだった。

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