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1-14 松山刑事の情報 [同調(シンクロ)Ⅱ-恨みの色-]

それから二日ほどは特に進展もなかった。
松山たちがようやく署に戻り、皆、新たな情報を期待した。
「遅くなってすみませんでした。佐原氏の大学時代の状況を調べているうちに、少し、気になる情報が手に入ったので、ちょっと手間取りました。」
そう言って、松山と森田がたくさんのメモを広げながら、ホワイトボードにキーワードを記していく。一通り、書き終えてから、松山が皆に説明する。
「佐原氏は、高校卒業後、有名私立大学へ進学していました。しかし、90年に、実家の繊維会社が多額の負債を抱えて倒産したため、止む無く、退学。その後、アルバイトしながら、東北地方を転々としていたようです。どうやら、負債の連帯保証人になっていたようで、逃げ回っていたという方が正解かもしれませんが・・。」
「よく、足取りがつかめたな。」と鳥山が言うと、松山が言う。
「大学での暮らしぶりを調べていた時に、偶然、大学事務局に、佐原氏の親しい方がおられて、大学を辞める時に何かと相談に乗り、最初のアルバイト先も紹介したということで、恩人とでもいうことになるのでしょうか、時折、佐原氏から、近況を知らせる手紙が来ていたそうなのです。最後の手紙には、札幌の消印があったので、私たちも札幌まで足を延ばしました。」
「何か、今回の自殺と繋がるような情報はあったか?」と鳥山が尋ねる。
「それが・・・先々での評判は上々でした。一心不乱に働いていたようです。栃木、福島、青森まで工事現場や清掃業務、中には、大学病院の遺体洗浄作業なんていう派遣の仕事もやっていたようです。金になるものを選んでいたようですね。最後の、札幌では、高速道路の工事現場にいたようです。相当過酷だったようですが、まじめに働いていたと建設会社で聞きました。恨みを買うような人物ではなかったようです。」
松山は同情するかの様な口ぶりで応える。
「ただ・・ちょっと引っかかるんです。最後の仕事は札幌辺りなんですが、いくら稼いだといっても、ほんの一年くらいですから、大した金額じゃありません。なのに、突然、そこで足取りが途絶えているんです。大学の恩人への手紙も途絶えています。」
と行ったのは、同行していた森田だった。
「借金取りに追われていたらしいから、そこで、居場所がばれてしまったとは考えられないか?」
一樹が訊く。
「ええ・・借金取りかどうかは判りませんが、確かに、佐原氏を訪ねてきた人物があったようですね。建設会社の人の話では、佐原氏と同年代の若者だったようです。仕事終わりを待って、逢いに来たようです。その翌日には、会社を辞めていました。その後、橋川市に戻ってくる十五年間はまったく足取りがつかめませんでした。」
「同年代の若者?」一樹が重ねて訊く。
「借金取りというよりも、友人のような関係じゃないかと・・・。」と森田は答える。
「大学時代の友人か・・。」と一樹が言うと「いえ、佐原氏は、大学時代には殆ど友人を作らなかったようですから、おそらく、高校時代の友人ではないかと思います。」と森田が答えた。
「では・・その人物が、自殺に追い込んだ人物の可能性もあると考えられるということか・・。」
鳥山がホワイトボードを眺めながら言った。
「佐原氏の居場所はどうしてわかったんだろうな?」と鳥山が言う。
「ええ、それも謎ですね。偶然、札幌で見つけたという事もあるでしょうが・・・。あるいは、その人物にも自分の居場所を知らせておく必要があったのかも・・・。」と森田が答えた。
「確か、佐原氏の実家は倒産したと言っていたが、今はどうなっている?」と鳥山が訊く。
「父親も母親も既に他界していました。財産と言えるものは全て処分されていました。・・代々の墓は、岩川町の量円寺にあるようですね。」
答えたのは、葉山刑事だった。葉山は、以前の事件で命も危ぶまれるほどの怪我をし、長く、意識不明の状態にあったが、神林病院の事件を後、意識を回復し、現在は、藤原女史とともに内勤の仕事に就いていた。まだ、体調は万全でないが、今回の事件を聞いて、何としても神林病院へ恩返しをするためにも捜査に加わりたいと一樹に頼んでいたのだった。その事を、昨日、一樹が藤原女史に頼み、鳥山課長とも相談し、本日から捜査に加わっていたのだった。
「佐原氏について可能な限り調べておきました。高校時代、学業は優秀で、クラスのまとめ役でもあったようです。実家の繊維会社は、いわゆる家内工業程度の零細企業で、時代に乗り遅れた事が倒産の原因でしょう。佐原氏はそれを立て直すために、大学へ進学したようです。当時の友人らしき人物は、ほとんどいないんですが、高校時代の付き合いがあった、上村栄治と下川秀雄は連絡を取っていたようです。」
葉山はそう言うと、二人の写真をホワイトボードに貼りつけた。
「下川秀雄って・・神林病院の内科部長じゃ・・。」と一樹が言うと、「ああ、そうだ。下川医師だ。」と葉山が答える。
「下川医師は、それほど深い仲とは言っていなかったが・・・。」
「何か、そう言う関係にある事を隠したかった理由があるのだろう。やはり、今回の事件に関係していると見た方が良さそうだな。」と鳥山課長が言う。
「もう一人の、上村栄治氏って?」と亜美が訊く。
「旧姓は、横井栄治、ほら、あの豊城市議の、上村栄治氏のことさ。豊城市の名家、上村家に婿入りして、義父の後押しで市会議員に立候補して、清廉潔白の若手市議で随分と支持を集めているようだが・・。彼の実家は、量円寺だった。」
葉山が説明する。
「量円寺?」と一樹が呟く。
「ああ、そうさ。佐原氏の菩提寺・・これで、佐原氏と上村栄治は繋がる。おそらく、代々の墓があるということで、何とか、残せるよう相談していたんじゃないだろうか。」と葉山が言う。
「札幌に訊ねて行ったのは、上村栄治と考えて間違いないだろう。・・よし、松山と森田は、上村氏に話を聞いてきてくれ。札幌での様子をできるだけ詳しくな。矢澤と紀藤は、下川医師だ。佐原氏との関係を隠したのにはきっと何かある。一気に、犯人にたどり着けるかもしれん。」
鳥山課長の指示が飛んだ。すぐに、皆、バタバタと会議室を出て行った。

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