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1-15 上村栄治 [同調(シンクロ)Ⅱ-恨みの色-]

松山と森田は、豊城市の上村氏の自宅へ向かった。
高い塀に囲まれ、周囲にはいくつもの監視カメラが設置された豪邸であった。和風の大きな門には、上村と書かれた大きな表札が掲げられている。インターホンを押すと、すぐに家政婦らしき女性が門扉越しに挨拶をした。

「橋川署の松山です。上村栄治さんにお伺いしたいことがありまして・・。」と警察手帳を見せながら挨拶すると、「ご不在でございます。」と家政婦らしき女性が答えた。
「どちらに行かれていますか?お帰りは?」と今度は森田が訊くと、「お答えできません。」と素っ気なく、女性は答えた。
「事件の捜査なんですよ、どこに居るのか、答えなさい。」と森田は少し口調を荒げて言うが、当の女性は全く意に介さず、「お答えできません。」と答えるばかりだった。

松山と森田は、これ以上時間の無駄だと判断し、豊城市役所にある議会事務局へ向かった。
事務局では、議員の同行はある程度把握しておく必要があり、年配の事務局員が、記録簿を開きながら、「昨日から2週間はお休みとなっていますね。」と答えた。
「休み?で、どこに居るのかはわかりませんか?」と森田が訊いた。
事務局員は、少し戸惑った表情を浮かべ、「通常、どこに居るかまでは把握していませんね。秘書にでも確認されたらどうですか?」と言って、秘書の連絡先をメモして渡した。
すぐに連絡を取ったが、秘書の電話は留守電になっていた。しばらくすると、秘書から森田の携帯へ連絡が入った。
「秘書の安永と申します。」
秘書の口調は穏やかながら、どこか、冷ややかだった。
「ある事件の件で、上村さんにお話を聞きたいのですが、どちらにいらっしゃいますか?」
「お急ぎですか?できれば、1週間ほど待っていただきたいのですが。」
「お手間は取らせません。とにかく、お話を・・。」
森田が少し苛立って言った。
「内密に願いたいのですが、今、議員は入院されているのです。大した病気ではありませんが、念のため。それと、体調不安が世間に知れれば、次の選挙に影響します。くれぐれも内密に。」
「では、入院先でお話を伺いたいのですが・・。」
「判りました。」
秘書はしぶしぶ承諾したようだった。
入院先を訊くと、驚いた事に、神林病院だった。すぐに、松山が一樹に連絡をした。

「判りました。今、病院に居ますから、下川医師に話しを聞いた後で、行ってみます。松山さんたちは、上村氏の実家の方へ行ってください。」
松山と森田は、上村の実家である量円寺へ向かった。
「神林病院に、上村氏が入院しているようだ。」
一樹は、亜美に松山からの話を伝えた。

一樹と亜美は、一階ロビーで、下川医師が外来診療を終えるのを待っていたのだが、午前の診療はかなり混んでいて、終わる時間が判らない状態だったため、先に、上村氏の話を聞く事にした。
「十四階の特別室だろう。」
二人が、ロビーの奥にあるエレベーターに向かおうとしたところで、見覚えのある看護師がバタバタと院内を走る姿が見えた。岩月看護師だった。
「何かあったんですか?」
一樹が声をかけると、岩月看護師は「いえ・・」と小さく口走った後、内科診察室へ入った後、すぐに出て来て、表玄関まで走っていき、再びエレベーターホールのところへ戻ってきた。そして、誰かを探しているようにきょろきょろとしている。だが、目当ての人は見つからないようで、すぐにエレベーターのボタンを押し、上階へ上がって行った。
一樹たちも、岩月看護師の後を追うように、エレベーターで14階へ上がった。

エレベーターのドアが開くと、ナースステーションの前で、男が大きな声で怒鳴っていた。
「こんなところにいられるか!すぐに帰るぞ!さあ!」
「いえ・・せっかくですから、きちんと検査をお受けください。」
それをもう一人の男が引き留めているようだった。
「うるさい!安永!すぐに車を回せ!」
男の憤りはかなりのものだった。
その男は、引き留める手をほどいて、さっさとエレベーターに乗り込んで、ドアを閉めてしまった。ゆっくりとエレベーターが下がっていく。
慌てて、もう一人の男が後を追って降りて行った。
一樹と亜美は、いきなりの騒ぎに状況がつかめず、騒ぎの様子を静観せざるを得なかった。
ナースステーションの前には、有田主任看護師が居た。眉間に皺をよせ、エレベーターの方を睨み付けていた。
「どうしたんですか?」
一樹は改めて、有田に訊いた。
「いえ・・検査入院されていたのですが、急に気分を害されたようで、お帰りになったところです。」
有田は淡々と答えた。脇に居る岩月看護士はおろおろした様子だった。
「今の方は、上村議員ですよね。こちらに入院されたと聞いて話を伺う予定でしたが・・。」
一樹が言うと、「そうですか」とだけ有田は答える。
「気分を害されたとは・・?」
「判りません。特に、トラブルがあったわけではないんですが。」
有田は引き続き、淡々と答える。
脇に居た岩月が「どうしましょう。」とだけ言った。有田は何かその言葉を咎めるように、厳しい目で岩月を睨みつけ、「事実を記録しておいてください。総師長には私から報告しておきますから。」と言って、ナースステーションへ入っていった。何かこれ以上訊かれたくないという雰囲気がありありと伝わってきて、一樹たちはそれ以上追及することは止めた。

ふと窓の外を見ると、大型高級乗用車が1台、病院の出入口から大通りへ出て行くところだった。
「仕方ない、上村氏にはまた、あとで話を聞こう。まずは、下川医師からだ。」
亜美は、14階で起きた事が気がかりだったが、看護師の態度から、すぐに話を聞くのは無理だと判り一樹とともにエレベーターに乗った。
一樹は、亜美とともに1階ロビーへ向かった。
外来はまだ午前の診療が終わっていなかった。内科の待合室には10名ほどの患者が座っていた。
仕方なく、内科診察室前のソファに腰かけて待つことにした。

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