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1-7 ルイの話 [同調(シンクロ)Ⅱ-恨みの色-]

紀藤署長は、レイの母親、新道ルイと逢っていた。新道ルイは、あの事件の後、一命を取り留め、一人で暮らせるほどには至っていなかったが、レイの助けも借りて、何とか日常を取り戻せるほどになっていた。
「ごめんなさいね、お忙しいのに。」
そう言って、車いすのルイが、リビングで紀藤を迎えた。
「最近はどうだい?」
「ええ・・もうずいぶん良いのよ。今日も病院でリハビリをしてきたの。なんとか自分の足で歩けるようになりたいから・・。」
「そう・・。」
ルイを見つめる紀藤の眼差しは優しかった。紀藤はソファに座ると、話を切り出した。
「僕に話しっていうと、昨日の事故の事だろう?」
「ええ・・そうなの。」
「まだ、捜査は始まったばかりだからね。それに、今回の事故は単純なものじゃないと考えている。それに、神林病院が現場だから、言わば、ルイも事件の関係者になるから、余り、話せる事もないんだけど・。」
「そうよね・・判ってるわ。だから、事件の事を教えてもらうために来てもらったわけじゃないのよ。ひとつ、聞いてもらいたいことがあるの。おそらく、事件に関係している事だと思うから・・。」
ルイははっきりと事件と言った。それは、まぎれもなく、自殺ではないという確信を持っているのが判った。
「どういうことかな?」
紀藤は出された紅茶に口をつけて、尋ねた。
「昨日、あの事故の時、病院のリハビリ室にいたのよ。だから、大体の様子はレイから聞いたわ。ただ・・あの時・・すごく強い思念波を感じたの。」
「思念波を?」
紀藤は驚いた。あの事件以降、そう言う能力は失われたと聞いていたからだった。
「ええ・・もう、あの能力はなくなっていると思っていたんだけど・・今日はすごく強く感じたの。」
「それは、あの亡くなった人の思念波だったと・・。」
「いえ・・そうじゃないの。確かに、昔は、恐怖や悲しい思念波を感じる事はあったし、それは、青い光のように見えるものだったわ。だから、もし、自殺した方のものなら、青い光で感じるはずだし・・亡くなった時に消えてしまうはず。でも、今日感じたのは違うの。」
「違うって?」
紀藤はもう一度紅茶を飲んで、自ら落ち着かせるようにした。
「黒く、怪しいもの・・怨念のような強い思念波だったの。それに、事件の後もそれは続いている。いえ、事故の前より、もっともっと強くなっていくように感じるの。」
「今でも・・か?」
「ええ・・何か深い悲しみと恨みといろんなものが混ざった思念波・・・とても怖いの。」
ルイは少し震えているようにも見えた。
「まだ、他にも自殺に追い込まれる人が現れるかもしれないと感じているんだね。」
紀藤は、ソファから立ち上がり、ルイの傍に行き、肩に手を置いて言った。
「ええ・・私の間違いなら良いんだけど・・・少し・・怖いわ・・。」
ルイは、紀藤の手を強く握った。
「今、一樹や亜美たちが、自殺教唆の疑いで捜査をしている。だが、なかなか手がかりがなくてね。君の話を伝えよう。きっと、捜査が前進するはずだ。そして、早く、終わりにするよ。」
紀藤はルイの肩を抱いた。

 紀藤署長が署に戻ったころには、すっかり日が暮れていて、刑事課には、鳥山と一樹と亜美だけが残っていた。
「三人だけか?」
紀藤署長は刑事課の部屋に入るなり訊いた。
「ええ、松山と森田は、東京での佐原氏の様子を調べに行きました。明日には戻ると思いますが・・。」
鳥山が答えると、紀藤署長は椅子に座り、三人に、ルイの話を聞かせた。
「恨みを持つ者がいる・・という事でしょうか?」
鳥山が紀藤に確認するように訊く。
「確証があるものじゃない。ルイさんの能力も絶対とも言い難い。ただ、これまでの状況から見ても、否定できるものじゃないだろう。そして、それはまだ残っている。再び、同じような被害者が出る可能性があるということだ。しっかり捜査を進めなくちゃならん。」
「やはり、病院関係者を疑ってみるしかなさそうですね。」
一樹が言う。
「じゃあ、病院関係者と佐原氏の関係を当ってみるということ?」
亜美が言う。
「ああ・・だが、医師、ナース、事務員だけとも言えないだろう。清掃や出入業者にまで広げてみる事になるかもな・・。かなりの人数だろう。・・どれくらい掛かるか・・。」
一樹が言うと、松山課長が言った。
「いや・・署長のお話から考えれば、昨日、あの病院にいた者ということになるだろう。医師やナース、事務員は勤務表から出勤者に絞ってみよう。もちろん、休みの者も可能性がないわけじゃないが、時間がない。それと、出入りの業者も昨日、あの時間帯にいた者に絞れば良い。」
すぐに、病院に連絡し、事故当日の時間帯の出勤者、出入り業者の記録を手に入れる事にした。
「この手の仕事は、藤原女史の手を借りるのが良いだろう。」と署長が判断し、翌日には、入手した名簿をもとに、それぞれの経歴を署のデータベースから引っ張り出して、佐原氏とつながりのある者の抽出作業が始まった。佐原氏は地元の小中高校の出身であり、会社も経営していた事から、何らかのつながりのある者はかなりの数になると見込まれ、慎重に作業が進められた。
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