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1-10 名簿 [同調(シンクロ)Ⅱ-恨みの色-]

「佐原氏は、地元の小中高を出ていましたから、案外、多かったです。」
藤原女史がそう言って、何枚かの書類を持って刑事課の部屋に入ってきた。鳥山課長はそれを受け取り、ひとつひとつ読み込んでいる。
「小学校の同級生、中学、高校の同級生もいるのか。」
鳥山は藤原女史の書類を見ながら、頭を抱えた。
「進学校だったから、医師の中にも同級生がいました。佐原氏の人材派遣会社は看護師の派遣も手掛けていたようで、そことの繋がりでも、かなりの看護師が該当しました。ただ、恨みを買うような酷い派遣会社ではなかったようですね。ほとんど、派遣期間が終わると正規採用されるように佐原氏は働きかけていたようですから。」
「だが、この中に今回の事件の鍵になる人物はいるということだろ?」
「ええ、きっといます。関係が深いだろうと考えられる人には、色が付けてあります。まず、この人たちから優先的に当ってみてはどうでしょう。」
「そうか・・ありがとう。」
そこへ、一樹と亜美が戻ってきた。すぐに、書類を二人に渡した。
「どうだ?そっちの情報と繋がるような名前はあるか?」
鳥山が訊いた。
「いえ・・こっちは殆ど目新しい情報はありませんでしたから・・。」
一樹が悔しそうに答える。
「そうか・・・あとは、松山たちが東京でどんな情報を仕入れてくるか、だが。・・戻りは明後日になりそうだ。どうも、大学中退後の足取りを調べ始めたようで、少し時間が欲しいと連絡があった。東北の方まで足を延ばしたようだぞ。」
「東北?」
「ああ、何でも、中退後に、東北から北海道辺りを転々としながら、仕事をしていたようなんだ。」
「フリーター・・ってことですか?」
「そこらの事を調べているようだ。」
「そうですか・。」
一樹は、藤原女史の名簿を手にして、一つ一つ検証するように、見入った。
「あのう・・藤原さんへお願いがあるんですけど・・。」
書類に見入っている一樹の横で、亜美が言った。
藤原女史は、「何かしら?」という表情で亜美を見た。
「これ、あの日の病院内の監視カメラの映像データです。佐原氏が、朝食後の時間に、部屋からいなくなった事は判ったんですが、さっき確認した範囲では、どこにも写っていないんです。映像のどこかに移っているのか、もう少しじっくり見ていただきたいんです。」
「事故の直前の姿を探すという事ね?だれかと一緒だったとか・・」
藤原女史の目が輝いている。横で鳥山課長が少し不安そうな表情を浮かべている。
「ただ、十一階から十四階までの映像はないんです。ですから、写っていないかもしれないんですが・・。」
亜美が言うと、少し残念そうな表情を藤原女史は浮かべた。
「まあ、いいわ。本人が写っていなくても、何かおかしな動きをしている人がいるかもしれないわ。」
「ええ、そうなんです。何でもいいので、事件に繋がりそうな怪しい動きとか見ていただければ・・。」
「判ったわ。」
藤原女史はそう言うと、亜美の手から、手のひらほどの外部記憶機器を受け取ると、さっさと自分の部屋に戻って行った。
「朝食後から部屋に居なかったというのは?」
鳥山が訊いた。
「ええ、佐原氏の入院していた十四階の有田という主任看護師から聞きました。それで、全員で探していたのだと・・。結局、見つからず、事故は起きてしまったわけです。」
「その時間に、自殺教唆の犯人と接触していた可能があるというわけか・・。」
鳥山が頭を掻きながら言った。
「ざっと三時間以上という事になりますからね。十階以下のカメラに映っていないわけですから、十一階以上のどこかに居たはずなんですが・・。」
一樹の話を聞いて、ホワイトボードに貼り出されている病院案内図を鳥山は見た。
「十一階は医師の研究室、十二階は会議室、十三階は院長室か・・居たとすれば十二階の会議室が怪しいが・・」
「守衛室で確認したのですが、会議室は普段は電子錠が掛かっていて、使用申請があれば守衛室で開錠する事になるそうなんです。その日は開錠していない事を確認しました。」
「ならば、研究室か、院長室ということになるが・・・。」
鳥山が言う。
「医師ということか・・・。」
そう言って、一樹は先ほどの名簿を見た。
医師は、院長のレイを入れて六名いた。藤原女史の表では、下川という内科医に色付けされていた。高校の同級生ということだった。
「とりあえず、この下川という医師に話を聞いてきます。」
一樹が出ていったのを見て、慌てて亜美も出て行った。

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