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1-21 新道レイ [同調(シンクロ)Ⅱ-恨みの色-]

翌朝、森田と松山は、再び札幌へ向かった。
鳥山課長は、豊城署の上村氏捜索本部へ向かい、二つの事故の合同捜査の段取りを始めた。
一樹と亜美は、神林病院へ向かうと、事務局へ行き、下川医師の出張先を確認した。東京で、内科医の学会が3日間の日程で開催されており、そこへ出席している事が判った。戻るのは、翌日の夕方になるだろうとの事だった。
「すみませんが、下川先生がその学会に出席されているのは間違いないでしょうか?一度、確認してもらえませんか?」
一樹は事務局の職員に頼んだ。
席に着いたままの初老の職員は、迷惑そうな顔をしながら「間違いないと思いますがねえ・・一度確認しておきましょう。」と答えて、席を立ちあがり、コーヒーを取りに行こうとした。
「捜査の一環なんです。必ず確認を取って下さい。」
亜美が、ややヒステリックに声を上げると、その職員は軽く手を挙げて答えた。
「何?あの態度!・・」
亜美は憤慨している。
「まあ、いいさ。さあ、他を当たろう。」
一樹は、医務事務局を出て、玄関ロビーに戻った。ちょうど、そこに院長のレイが姿を見せた。
「あの・・矢沢さん、亜美さん、少し、お話しできないかしら?」
レイは、懇願するような表情を見せていた。
亜美が一樹の顔を見る。以前、一樹が亜美に釘を刺した事を思い出していた。

「母が・・思念波を感じたって聞いて・・・実は、私も・・。」
レイは、少し涙を浮かべているように見えた。
「わかりました。こちらもそろそろお話を伺いたいと思っていたんです。」
一樹はレイの表情から、事件の核心に近い情報が得られる予感がしていた。

レイは二人を連れて、院長室へ向かった。
「さあ、すわりになって。」
レイが神林病院の院長になってから、忙しさを気遣って、少し疎遠になっていたせいで、院長室へ入るのは一樹も亜美も初めてだった。院長室は意外に質素で、院長のネームプレートが乗った机とパソコン、壁に設えられた書棚には数多くの書籍が並んでいるが、部屋の中央にあるソファは小さく質素なものだった。
「実は、私も思念波を受け取ったんです。母が話した通り、これまで感じた事のない独特な・・悲しい色をしたものでした。」
レイは、あの事件以降、思念波を感じることはなくなっていたはずだった。
「あの力は無くなったんじゃ?」
亜美が訊く。
「ええ・・・母の体が回復して、あの力は無くなったはずでした。・・それにあんな力は必要なかった。あの力のせいで、多くの人の命が奪われたんですから・・。母も同様のはずです。・・ですから、あの思念波を感じた時、何かの間違いだろうと思ったんです。でも、また・・感じたの・・だから、怖くなって・・。」
ルイは再び悲しげな表情になる。
「それは、ルイさんが感じたのと同じなのか?」
一樹が訊く。
「ええ・・きっとそう。佐原さんが亡くなった時と昨日。病院内に、恨みを抱え復讐を望んでいる人がいる。深い悲しみを抱えているの。」
レイは思い出すように言った。
「誰か・・までは・・判らないわね?」
亜美が遠慮がちに訊く。
「ええ・・そこまでは・・ただ、母の感じた思念波と同じはずなのに、私は、それが何か・・小さな女の子の様な・・そんなふうに感じて・・間違いかもしれないけれど・・・。」
「女の子?・・まさか・・。」
亜美は驚いた表情で確認した。
一樹は二人のやり取りを聞きながら、眉間に皺を寄せて、考えていた。
「女の子・・深い悲しみ・・・恨み・・・。」
そう呟きながら、何度か頭を横に振った。
「前に、誘拐事件が起きた時、被害者の思念波を感じただろ?今回、佐原さんの思念波は感じなかったのか?」
「ええ・・全く。おそらく、強い悲しみや恐怖を感じていなかったんじゃないでしょうか?」
「という事は、佐原氏はやっぱり自殺という事か。」
「自殺かどうかは判らないけれど、死の間際まで、恐怖や悲しみを感じない状態・・例えば、諦めとか・・納得とか・・そういう感情を抱いていれば、強い思念波は出ないのよ。だからといって、自殺とは言えないかもしれないけれど・・。」
レイは言葉を選ぶように言った。
「そうね。ほら、あの遺書。『死を選ぶ』というのは決意したという事でしょ?諦めの境地だったんじゃないかしら。」
亜美が続けた。
「自殺教唆・・自殺を強要されたという、お前の筋読みはどうなるんだ?」
一樹が慌てて訊く。
「そうね・・やっぱり変ね。」と亜美。
「ごめんなさい。何だか混乱させてしまったみたいね。」とレイ。
「いや・・・もう少し、思念波について気付いたことがあったら連絡してくれ。きっと、佐原さんの自殺は、単純なものじゃない。もっと何か重要なことが隠されているような気がする。」
一樹はそう言うと席を立ち、院長室を出た。
亜美も慌てて立ちあがり、「じゃあ・・また連絡してね」とレイに耳打ちして部屋を出た。

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