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駒ヶ根の老女-5 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

「うう・・。」
レイのうめき声が漏れる。
背中に手を当てたまま、剣崎も、顔を歪めた。事件現場にシンクロしたのだろうか、二人とも苦痛な表情を続けている。
そして、その場に二人とも蹲った。
「レイさん!剣崎さん!」
亜美が駆け寄ると、剣崎がゆっくりと立ち上がり、レイを労わるようにして、立ち上がらせた。
「トレーラーに戻りましょう。少し、休ませて・・。」
すぐに、トレーラーに戻り、レイと剣崎は、横になった。1時間ほどで、二人は起き上がり、会議スペースへ顔を見せた。
「レイさん、シンクロで見た情景を、矢澤刑事や紀藤刑事に話してください。」
剣崎が言うと、レイは頷いて話し始めた。
「シンクロできたのは、女性が風呂場の浴槽に顔を沈められている場面でした。意識を失う直前の強い思念波が残っていたようです。何度も、何度も、浴槽の水に、頭を押さえられて沈められて・・」
「やはり、神戸由紀子が武田敏を殺害したのか・・。」
と、一樹が言うと、レイが首を横に振った。
「頭を押さえているのは、男だと思います。首筋からの感触では、皮手袋をした大きな手でした。顔を上げた時、一瞬だけ、鏡に映った姿が見えたんですが・・黄色い髪だったように思います。」
レイの言葉に、一樹も亜美も驚きを隠せなかった。
「じゃあ、水野裕也が殺人者?神戸由紀子じゃないの?。」
亜美が口にした言葉に、剣崎が言った。
「そういう事になるわね。神戸由紀子は、その目撃者の可能性がある。次は自分が殺される。そう考えて、名古屋へ逃げ、顔を変えた。」
「いえ、そうなると、神戸由紀子が駒ケ根の雑居ビルで、水野裕也に逢っていたことが不自然です。そもそも、二人は旧知の仲。二人が共謀して、武田敏を殺害したと考えるのが合理的でしょう。」
一樹が反論するように言った。
「じゃあ、駒ヶ根駅から水野裕也が列車に乗った時、一人だったのは?共犯なら、共に逃げるのが自然でしょう?」
と、剣崎が言う。
「ともに逃げるはずだったが、何らの事情でそうできなくなった。現に、水野裕也は、コンビニで弁当を2個買っています。神戸由紀子の分も買ったと考えるのが妥当でしょう。」
と、一樹が反論する。
「何らかの事情って言うのは何かしら?」
と、剣崎が再び一樹に迫る。
その時、「あの・・」と、レイが二人の会話を遮るように言った。
「シンクロしていた時、女性の思念波とは別に、もう一つ思念波を捕らえていました。それは、底知れぬ恐怖に包まれた感情の思念波でした。風呂場の女性とは少し離れた場所で、自分も殺されると確信したような思念波でした。どこか、身を潜めているような・・たぶん、神戸由紀子さんの思念波ではないかと感じたんです。」
レイの言葉に、二人は黙った。
「実際、神戸由紀子は名古屋で無残に殺されています。水野裕也が、神戸由紀子の居場所を突き止めて、殺害したと考えれば筋は通ります。」
と、亜美が言った。
「水野裕也は、どうやって、神戸由紀子の居場所を突き止めたのかしら?顔を変え、夜の街にいる彼女を探し当てるというのは、かなりの凄腕だわ。神戸由紀子のヒモだった男にそんな能力があるとは思えないけれど・・。」
剣崎が言うと、一樹も亜美も、首をひねった。
「では、剣崎警部補は、どう考えていらっしゃるのですか?」
と、亜美がいつもとは違う、丁寧な口調で訊く。
「水野裕也を動かしている人間がいるのではないかという事です。確かに、武田敏の家では、怪しげな事が行われていた。そして、それを憎んでいる人間が、武田敏を殺害するため、水野裕也を使った。水野裕也は、東京で神戸由紀子に捨てられて恨みを抱いていたのでしょう。それを利用したのではないかと・・。」
「怪しげな事とは何でしょう?」
と、亜美が訊く。
「私は、あの場所に立ってレイさんの背に手を当て、シンクロした映像を見ていました。そこには、日常の暮らしとは違う、異様な道具が置かれていました。鞭とか鋸とか、SMクラブか、あるいは人体実験か・・そういう怪しげな事を仕込んでいる場所ではなかったかと思います。」
「まさか、名古屋の秘密クラブの為に作られた場所と?しかし、秘密クラブは神戸由紀子が顔を変えてから始めたんじゃ?」
と一樹が言う。
「いえ、きっと、もっと以前からあったのでしょう。神戸由紀子がどこまで関わっているかは判りませんが、駒ケ根の事件のあと、整形して、エメロードで、秘密クラブの客を見つける役割を果たしていたのかもしれません。もしかすると、東京にいた頃から関与していた可能性もあります。」
剣崎が言うと、一樹が応えるように言った。
「そうなると、名古屋だけでなく、東京にも同様の秘密クラブがあり、それらを取り仕切る大きな組織があるという事になる。武田敏も神戸由紀子もその一員で、駒ケ根の事件の後、組織の人間を消そうとする存在に気付いて、名古屋に逃げ、その組織に助けを求めたという事でしょうか?」
「そう考えると、つじつまが合うでしょう?」
と、剣崎が言うと、レイも亜美も概ね納得したようだった。
「じゃあ、例のEXCUTIONER(死刑執行人)は、その組織をつぶそうとしているという事でしょうか?そのために、水野裕也を利用した。だが、それほどの組織の情報をどうやって入手したんだろう?」
一樹は少し疑問が残っていた。だが、自分たちの目の前にある事件が、単に猟奇的な女性殺害事件ではなく、連続殺人事件であることは確実だった。そして、この先も、EXCUTIONER(死刑執行人)は、この組織をつぶすために、殺人を続ける可能性があることも確実に思えた。

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