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火葬の女性-6 [デジタルクライシス(シンクロ:同調)]

一樹たちが店主や店員の話を聞いていた頃、カルロスが屋敷に潜入する支度が整い、いよいよ屋敷内へ入る段階となった。
「ご注文の品をお届けに参りました。」
店主は、正門のインターホン越しに挨拶し、たくさんの荷物を乗せたトラックが屋敷の中へ入っていく。カルロスは大きな体を狭い助手席に何とか収めて座っていた。トラックが屋敷の前に着くと、すぐに黒服の男達が出てきた。
「荷物は隣の館へ運んでくれ。」
そう指示されてトラックは、隣の館の勝手口へ着いた。
カルロスは、店主に言われるまま、荷物を抱え、館へ運び込む。勝手口を開くと、大きな厨房のようだった。冷蔵庫の脇に荷物を運ぶ。カルロスは、ちらちらと天井や照明などを観察していた。
「酒類は、さっきの屋敷の前だ。」
大半を運び終えた時、黒服の男が指示する。
一旦降ろした荷物を、トラックの荷台に戻し、再び、屋敷へ向かう。今度は、正面の玄関から荷物を運ぶように指示された。大きな体のカルロスは、洋酒類が入ったコンテナを二つほど持ち上げ、階段を登る。大きな開き戸が開くと、そこから中に入り、屋敷のはずれにある厨房まで運んだ。
「おっと、危ない!」
洋酒の箱を抱えたカルロスが、黒服の男の一人とぶつかり、男が倒れた。
「ダイジョウブデスカ」
カルロスは、洋酒の箱を置き、わざと片言の日本語を使って、黒服の男を起こしてやった。
「ダイジョウブ?イタイトコロナイ?」
片言の日本語でわざとらしく労わる姿に、黒服の男は苛立って「気をつけろ!」と言って、去って行った。
荷物を運び終えると、カルロスたちはすぐに屋敷を出てきた。
「ご苦労様。上手くいったようね。」
「軽い仕事です!」
トレーラーハウスのモニター画面には幾つもの映像が映されていた。
カルロスが荷物を運び込んだ時、高性能のカメラや盗聴器を屋敷内のあちこちに仕掛けたのだった。
離れの館内の映像もある。ドローン映像で分析した通り、10人程の女性が映っていた。皆、無表情で静かに食堂で食事をしている。十代から四十代くらいまで、年も背格好もバラバラのようだった。一様に、白い服を纏っている。
屋敷の方の映像もある。黒服の男達が、広間のあちこちに座っている。
「よく映ってるわね。合格よ!」
剣持は、カルロスを褒めたあと、モニターを睨み付けた。
そこへ、一樹たちが戻ってきた。
「これは?」と一樹が尋ねる。
「館の内部映像です。監視カメラを取り付けてきました。」
カルロスが得意げに言った。
「監視カメラ?おいおい、違法捜査じゃないのか!」
一樹は驚いて、剣崎に言う。
「あら、県警ではこういう捜査はしないの?・・公安辺りでは当たり前の捜査手法だって聞いたけど。」
剣持は、モニター画面から目を離すことなく、軽く受け流した。
映像の一つは、世話しなく室内を動いて映し出している。
カルロスがぶつかった男に取り付けたカメラの映像だった。その映像は、ドアを開け、机に向かっていく映像だった。男は、机に座りパソコンの操作を始めたようだった。
「お、これは面白い映像だ。さあ・・どうする?」
同じ画面を見ていた生方が反応する。
男は、パソコンのメールアプリを開いた。幾つかの未読メールをスクロールし、一つのメールを開いた。
『F/19/165/45/LH』
メールの件名にこれだけの記述が入っていて本文はなかった。
男はそれだけを見て、手早く別のフォルダーを開いた。そこには、何人もの女性の写真があった。
男はそこから、3人をチョイスして、さっきのメールに、データをアップロードして返信した。
しばらくすると、件名に『C』とだけ入ったメールが返ってくる。男はそれを確認すると、席を立ち、屋敷を出て行った。
映像はまだ、続いている。
男は隣の館へ入ると、そこに居た男に何やら囁くと、すぐに屋敷に戻ってきた。
そこからは、男も動きを止めたようで、静止映像の様になってしまった。
剣崎たちは、館の映像へ目を移す。
先ほどの男に何か指示された男が、2階へ上がっていく。階段を登りきると、幾つかの部屋の前を通り、一つの部屋の前に立つ。ノックをすると、白い服を着た若い女性が出てきた。何か言われて少し驚いた表情を見せ、すぐにドアを閉めた。
「これって、音声は無いんですか?」と一樹が訊く。
「幾つか、盗聴器を置いてきましたから、ちょっと待ってください。」
カルロスはそう言うと、目の前の機器を操作した。突然、ガリガリという雑音が聞こえ、続いて、こつこつと靴音が聞こえてきた。映像と音を比べてみると、盗聴器が拾っている音は、館の厨房当たりの音声だと判った。
「他の音に切り替えてみます。」
とカルロスが言うと、今度は、男たちの話声に変わった。館の広間の音声のようだった。
『注文が入った。』と、先ほどの黒服の男の声のようだった。
『どこだ?』と、別の男の声が聞こえる。
『名古屋だ・・いつものところだ。』
『もう3人目だぞ。もう少し大事にしろって、おもちゃのつもりか。』
『そう言うな。上得意様だ。これでしばらく静かになるだろう。』
『ちぇっ、また、穴掘りか。』
少し離れた場所から別の男の声が聞こえた。

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