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6-1 新道家にて [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

亜美とリサは、神林教授とF&F財団のつながりを調べるため、橋川市へ戻り、新道家を訪れる前に、一度、署に戻ることにした。
今、レイは何者かに拉致されている。無事だと剣崎は言ったが、確証はない。そのことを、レイの母、ルイにどう話せば良いのか。神林教授とF&F財団のつながりを調べるには、母ルイに話を聞かなければならない。そのためには、洗いざらい話さなければならないだろう。だが、どう伝えればよいか悩んでいた。
「お父さん・・いや、署長は?」
署に戻ると、受付にいる警官に尋ねた。
「先ほど、帰られましたよ。」
警官はあっさりと答えた。亜美はリサとともに、仕方なく、新道家へ向かった。
玄関先で、レイの母、ルイが温かく迎えてくれた。
リビングに入ると、亜美の父、紀藤署長の姿があった。
父はここが我が家と言わんばかりに寛いでいた。あの事件以降、父がレイの母ルイと親しくしているのは知っていたが、目の当たりにすると余りいい気はしない。
「紀藤さんから聞いています。」
ルイはしっかりした口調で言った。
どういうこと?という表情を浮かべて、亜美は父を見る。
「ああ、さきほど、矢澤から連絡があった。レイさんが拉致されたこと、そして、矢澤も一時意識不明になったこと・・随分難儀をしているようだな。」
父の口調が余りに他人事のように聞こえて、更に亜美は苛立つ。
「レイは大丈夫よ。」
ルイが亜美に言う。しかし・・と亜美は心の中で思った。
「拉致したということは、今回の事件で、レイさんはかなり重要な役割を担うに違いない。邪魔な存在なら、その場で殺されていたはず。そして、きっと、相手はレイさんの特別な力を知っている。そう考えれば、ぞんざいに扱うことはないはずだ。」
紀藤は急に真面目な顔になり、亜美が納得するように話した。
「大よそのことは、聞きました。あなた方に見せたいものがあるの。ついてきて。」
ルイはそう言うとリビングを出て、長い廊下を進んで突き当たりまで来た。何処へ向かうのか判らぬまま、亜美とリサが続く。
壁の柱に小さな細工があり、そこを開くと、レバーがあった。ルイはそれをゆっくりと引く。儀いという音とともに、壁が徐々に下がり、その先に地下へ続く階段が現れた。
「さあ、行きましょう。」
一歩足を踏み入れると、壁のライトが自動で点灯した。地下に階段が伸びている。ルイが先に降りて、地下室の灯りをつける。
20畳ほどの広い地下室。四方の壁には、難しい書物が積み上がっている。中央に大きな机がある。
「最近、見つけたのよ。神林の研究室だったようなの。」
ルイはそう言うと、脇机の引き出しを開ける。そこにはノートがびっしりと入っていた。数冊取り出し、ルイが広げて見せた。
「すべて、神林の研究記録。私の能力の発見過程や、実験記録、レイの研究記録など、とにかく、五十年近くの記録があるのよ。」
これだけの記録があれば、恐らく、F&F財団とのつながりも書かれているかもしれない。
「あの・・ルイさん、F&F財団という名前をお聞きになったことはありませんか?」
「いえ・・知らないわ。でも、もしかしたら、この中に何かそういうことが書かれているかもしれないわね・・。」
だが、膨大な量のノートである。一つ一つ開いて読み込んでいく時間はない。
「そのF&F財団というのは、いつごろからあるのかしら?」
ルイが訊いた。
「いえ、それが・・。」
亜美が答える。
「私がアメリカにいた頃には、そういう名前を聞いたことはなかったわ。」
ルイも、特殊能力の研究者として、アメリカの研究所に居たのだった。
リサが、咄嗟に思いついた。
「あの・・この方たちをご存じありませんか?」
リサが、カバンからIFF研究所の理事名簿を取り出して、ルイに見せる。
「これは?」
「今回の捜査で、マリアさんが両親を失った後、保護した養護施設の本体、IFF研究所というところの役員名簿です。名前だけですが、思い当たる人はありませんか?」
ルイは名簿を順に見ていく。そして、一番下にあった名前を指さして言った。
「同一人物かどうか判らないけれど、この・・磯村という人、もしかしたら、父の研究の助手をしていた人かもしれません。・・ちょっと待ってください。」
ルイはそう言うと、机の大きな引き出しを開いて、何かを探している。
「ああ、ありました。父が昔、大学で研究をしていた頃の写真です。」
そこには、若々しい神林教授が映っていて、周囲には難しい顔をした学生の様な若者が何人も映っていた。誰も、何故か、険しい表情をしている。悲壮さすら感じられる。
写真を裏返すと、「夢半ば」という、神林教授が書いたと思しき文字があった。
「これは?」
と、亜美が訊ねる。
「おそらく研究室を閉じることになった日に記念に撮ったんじゃないでしょうか?父の研究は、大学でも非科学的だと評価されていましたし、娘を実験台にしているということも社会的に非難されてもいました。研究室が閉められるのも時間の問題だったようです。・・そのあたりのことは、このノートに書かれています。」
ルイは、まるで他人事のように言うと、1冊のノートを机の上に広げた。
そこには、そうなった経緯と大学当局への批判が綴られていて、最後に、研究室にいた助手たちの名前が書かれていた。
そこに、磯村の名もあった。
「ルイさん、ここにあるノートを全てお読みになったんですか?」
リサが驚いて訊いた。
「そうねえ・・この部屋を見つけてから、父が私を実験台にして行った研究をどう考えていたのか、知りたくて・・一通り、目を通しました。・・しかし、父は、娘である私への謝罪など、一切書いていませんでした。研究対象、あるいは、実験台としか見ていなかった。」
ルイの言葉には悔しさがにじみ出ていた。
「随分古い写真だから、磯村という名前だけで、同一人物というのは少し無理があるかもね。」
ルイは、少し気を取り直して、亜美たちに言った。
だが、亜美は、なんとなく、写真の人物があの磯村勝だと直感的に思った。
「ここに写っている皆さんは研究室が閉鎖された後、どうされたんでしょうか?」
亜美がルイに訊く。
「さあ、研究室が閉鎖された後、このノートには何も記録されていないから・・。ただ、父は、その後、ここに籠って研究を続けていたんじゃないかしら。」
「ルイさんは?」
「まだ、十代でしたから、実験台になる苦痛から逃れるために父の元を離れました。自分のこの能力は一種の病気ではないかと考え、大学へ進み、脳科学の研究者になり、、アメリカの研究機関へ行ったんです。・・おそらく、その頃、父は、異常な世界にまで足を踏み入れていたと思います。」
「どうして、そう思うんですか?」と、リサ。
「これを見てください。」
そういって、ルイは、積み上がった書籍の中に埋もれるように置かれていた、段ボール箱を引っ張り出してきた。そして、その中から1枚の書類を取り出した。
その書類には、意味不明な数字とアルファベットが細かい文字できれいに並んでいた。どう読み取ろうとしても、意味が判らなかった。
「異常としかおもえないでしょう?何かの暗号のような・・。」
ルイが呆れた顔でそう言って、亜美の顔を見る。亜美が驚いた表情で固まっていた。

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