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8-9 末路 [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

マリアとレイを追って、青木ヶ原樹海に入ったチェイサーたちは、富士風穴まで追っていった。
「急げ!」
チェイサーは部下に強い口調で命じる。部下たちは、生い茂る木々の間を走り抜けてついに、風穴へ続く道路に辿り着く。
チェイサーたちが着いた時、富士風穴は既に門を閉ざし、誰ひとり居なかった。
チェイサーは、周囲にマリアたちが潜んでいるのではないかと思念波を使って探ってみた。だが、周囲には居なかった。
部下たちも周囲を探してみたが、これといった手掛かりは得られなかった。次の日に、キャンプ場へ戻ることにした。
先に戻っていた部下の一人から連絡が入った。
「レヴェナントの首謀、ケヴィンが死にました。」
ケヴィンの死は予想していなかった事だった。
「ケヴィンが?どういう死に様だった?」
チェイサーが部下に訊いた。
「湖のほとりの駐車場の車中で死んだという報道でした。薬物中毒ではないかと・・」
「そんな馬鹿な・・おそらく、薬物中毒に見せかけて殺したか、警察も原因を特定できずにいるかだな・・。」
チェイサーはそう言うと、考え込んだ。もしかして、マリアたちか?・・いや、マリアとレイは確かに森へ逃れた。他にも、サイキックがいるというのか?ケヴィンを殺す事ができるとは、かなりハイレベルなサイキックのはず。そんな存在は本部からの情報にはなかった。やはり、マリアとレイが関与しているというのか。だが、彼女たちが青木ヶ原を抜けて逃れたのは間違いない。
「それと、キャンプ場周に多数の警察車両が集まっています。」
ケヴィンの部下たちの遺体は、剣崎たちが通報していたため、すぐに警察が現場に集まってきていたのだった。
「判った。だが心配は要らない。」
チェイサーはそう言って、部下たちに森の中に身を潜ませた。
キャンプ場を見下ろせる場所に来ると、眼下に予想以上に多くの警察車両が集まっているのが見えた。警官の数も多い。
「心配ない。」
チェイサーはそう言って目を閉じる。
そして、警官たちに思念波の矢を放った。ケヴィンの手下たちを殺害した強い殺傷力を持った思念波であった。チェイサーは警官も殺害するつもりだった。
だが、一人の警官も変化はない。
「いったい、どういうことだ?」
再びチェイサーが、思念波の矢を放つ。
先ほどよりもさらに強い思念波だった。だが、警官たちに、到達しているようには見えなかった。
「なぜだ・・・まさか・・」
チェイサーはそう呟くと、今度は、弱い思念波の波を周囲に送り始め様子を探った。チェイサーの脳裏には、キャンプ場を取り巻く思念波のバリアが見えた。
「・・誰かがバリアを作っている!・・一体・・誰だ!」
キャンプ場一体に大きな思念波の壁でできたドームが覆っている。それは、チェイサーの強い思念波の矢をいとも簡単に弾き返すものだった。ドームの中心に不審な人影はない。中心から発せられた思念波のバリアではなく、外から覆いのように掛けられたものだった。
「ケヴィンは死んだ。一体、だれが・・まさか、マリアか?」
チェイサーは周囲に思念波の波を更に広い範囲に送り、探った。
近くに、サイキックがいるのなら反応が返ってくるはずだった。
だが、放った思念波は何かに吸い取られていくように消えていく。そして、それと同時に、恐ろしく強い思念波の矢が向かってきているのが判った。
「いかん!」
チェイサーは咄嗟にバリアを作った。
そして、対峙するサイキックがこれまで出会った事もない最強の能力を持っていることを悟った。このままでは、自らの命が危うい。
普通の人間の眼には見えない、棘のように強い思念波の矢が向かっている。それは、一方向から真っ直ぐに飛んでくるのではなく、まるで、チェイサーを取り囲むようにして、生き物が獲物を捕らえるかの如く、向かってきている。
周囲に居たチェイサーの部下は、全くその存在に気付かず、ただ、為す術なく、次々に、頭部を射抜かれて倒れていく。
チェイサーは、自らの身を守るのが精いっぱいだった。とにかく、強く分厚い思念波のバリアを張り、身を守っている。
チェイサーは、しばらく、思念波の矢に耐えて過ごした。これだけ強力な思念波の矢を放ち続けるには膨大なエネルギーが必要なはず。暫くすると、矢はパタリと止まった。
周囲には、部下たちが倒れている。おそらく、みな頭部を射抜かれ、脳はぐちゃぐちゃになっているに違いなかった。
矢が止まった隙をみて、チェイサーが反撃に出た。
今まで以上に強いエネルギーを使って、周囲に向けて、思念波の矢を放った。相手がどこにいるのか判らず、無差別に矢を放つ。
だが、放った思念波の矢は吸い取られているように感じられた。
あれだけ強力な思念波を発した相手が誰なのか、見当もつかない。だが、相手を探るよりも我が身を守ることが優先だと判断し、チェイサーは、青木ヶ原の樹海深くに身を隠すことにした。

一連の様子を、一樹が目撃していた。
一樹は、キャンプ場の遺体発見者として、警察の臨場に同行し、警察車両の中に居たのだ。
一樹は高台に人影があるのを偶然に見つけ、高精度スコープで様子を見た。
数人の男達、中央の男がこちらを睨みつけている。暫くすると、その男は驚いた表情を浮かべ、再度、こちらを睨み付けた。その後、男は、蹲り身構える。と同時に、周囲に居た男たちが次々に倒れていく。
一樹はその一部始終を見ながら、サイキック同士の戦いが起きているのだと直感した。
高台に居る男が戦っている相手は誰なのか、一樹も周囲の様子を、スコープを使って探った。だが、それらしき人物は見当たらない。
警官の中に紛れているのかと考え、キャンプ場にいる警官の様子も探った。
相変わらず、警官たちが手分けをして、現場検証を行っている。発見した遺体を一つ一つ検分して、写真に納め、遺体袋に入れ運び出していく作業が粛々と進められていた。だが、それらしき人物は見つからない。
「いったい、どこにいる!」
再び、高台に目を向けると、残った男が樹海の中に入っていくのが見えた。おそらく、あの男は、剣崎が話していたチェイサーに違いない。マリアとレイの安全を確保するためには、チェイサーを捉えなければならない。
「おい、あそこの高台にも遺体があるぞ。」
一樹は、車から降りると、近くにいた警官に声をかけ、自ら、高台を目指して走り出した。
一樹のあとを数人の警官が追ってくる。
一樹が言った通り、高台の周囲には十人程の男が倒れている。一樹はそっと駆け寄り、首筋に手を当てる。脈はない。
「皆、死んでいるな・・。」
追って来た警官は、すぐにキャンプ場に居る指揮官に連絡を入れる。現場で何かどよめきのような声が聞こえ、大勢の警官が高台にやってくる。
一樹は、その様子を確認すると、そっとその場を離れて、男の後を追って樹海に入って行った。

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