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9-11 総帥 [マニピュレーター(シンクロ:同調)]

ルイが、マリアを抱きしめて「大丈夫よ。」と慰める。
その時、ルイは、マリアの中にある思念波に異変を感じた。
ルイは、暫く抱き締めたまま、マリアの思念波とシンクロした。
「うう・・。」
ルイが、マリアを抱きしめたまま、その場にうずくまる。
「どうしたんですか?」
驚いて、剣崎が駆け寄る。
剣崎が、ルイに触れた瞬間、今度は剣崎も苦しみ始めた。
同じころ、病院で、伊尾木の容態を診ていたレイの身にも異変が起きていた。
「レイ先生!大丈夫ですか!」
看護師がレイの異変に気付き、すぐに、ベッドに寝かせる。
ルイや剣崎も、病院へ担ぎ込まれ、一樹たちも病院へ入った。
不思議なことに、院内には、患者の姿がない。外来に居るはずの医師や看護師の姿も、受付に居る職員の姿もない。がらんとした空間だけが広がっている。
「いったい、どういうことなんだ?何が起きてる?」
一樹は、診察室に置かれたストレッチャーに横たわる伊尾木に詰め寄る。
伊尾木がうっすらと目を開いて、囁くほどの声で言った。
「総帥が・・近くに・・来ている・・」
それを聞いて、一樹は外を見た。
外の駐車場には、剣崎のトレーラーが停まっている。
カルロスとアントニオは、剣崎の異変を聞きつけて、車外に出て病院へ向かおうとしていた。
その向こうに、黒塗りの大型バンが停まっているのが見えた。如何にも怪しい。
カルロスたちが玄関へ向かうのを見計らったように、バンから数人の男が姿を見せた。そして、ゆっくりと、カルロスたちの後を追うように、病院へ向かってくる。その後ろに、高齢の男がゆっくりと歩いている。
「あれが・・総帥か?」
一樹は、じっとその男を睨みつける。
「署長、応援を!」
一樹が署長に言う。
紀藤署長が、署に応援を要請しようと電話を掛けるが繋がらない。
病院の玄関に入る直前で、追ってきた男達に気づいたカルロスとアントニオが、身を挺して病院内に入るのを阻止しようとした。だが、体が思うように動かず、呆気なく、その場で倒されてしまった。
数人の男達は、玄関を入るとまっすぐに伊尾木のいる診察室へ向かう。
一樹と署長がそれを食い止めようとするが、カルロスたち同様、体の自由を奪われてその場に倒れてしまった。
「イオキ!」
一番後に診察室に入って来た高齢の男が、伊尾木の傍に立ち、強い口調で呼んだ。
その声には、強い憎しみが感じられた。
伊尾木はうっすらと目を開け、「総帥・・。」と口にする。
伊尾木の体から、光が飛び出す。
思念波の塊が体から遊離したのだ。同時に、総帥の体からも光の塊が飛び出し、恐ろしい速度で部屋の中を飛び回る。
伊尾木の光は、取り巻いていた男たちの体を貫く様に飛び、数人の男達は見る間に倒れた。
そして、伊尾木の光は総帥へ向かう。すると、総帥の体から光が飛び出し、伊尾木の光と衝突する。周囲に光の粒が飛び散る。
ルイ、レイ、剣崎がようやく身を起こせるほどに回復した。
一樹と署長も何とか起き上がり、ルイたちの傍まで移動した。
「大丈夫か?」
紀藤署長が、ルイの肩を抱き抱えるようにして訊く。
「ええ・・もう大丈夫・・でも、凄いエネルギー・・。」
目の前で、衝突を繰り返す二つの光の塊を目で追いながら、ルイが答える。
「伊尾木さんが・・。」
レイは、伊尾木の体に付けられていた心電図モニターの画面を見て叫ぶ。心電図はフラット。伊尾木の体の心拍が停止していた。
もはや、伊尾木の光の塊は戻るべき体を失ってしまった。
それでも、衝突を繰り返す二つの光の塊。その一つが徐々に小さくなっていく。
「伊尾木の光か?」
一樹が誰にともなく訊く。
おそらく、そうだと皆思っていた。
光は徐々に消え入るほどになってきていた。
「レイ!剣崎さん!・・彼にエネルギーを!」
ルイが叫ぶ。
レイと剣崎は目を閉じ、光に向けて自分の思念波を届ける。少しだけ光が大きくなったようだった。
ルイ、レイ、剣崎は伊尾木の思念波と繋がっている。弱り切っている伊尾木を三人の思念波が取り囲み、バリアとなっている。
『伊尾木さん、これ以上は無理。』
と剣崎の思念波が伊尾木に言う。
レイやルイの思念波も同じように伊尾木に言う。
『駄目だ!ここで総帥を倒さなければ、マリアを奪われる。』
伊尾木は強い意志で答える。
『駄目よ!』
レイの思念波が叫ぶ様に言う。
だが、伊尾木は受け入れようとしない。そして、再び、総帥の光へ衝突する。
『ほう、4人の力を集めるとはな・・やはり、お前の力は侮れないな。だが、そこまでだ!私と戦うなど、しょせん無駄なことだ。』
そう言うと、周囲で倒れている男たちの体から光の束が、総帥の光に集まっていき、巨大な光の塊となっていく。もはや、伊尾木の光とは比べ物にならないほど大きくなり、天井いっぱいにまで肥大化している。
巨大な光の塊となった総帥は、次第に渦を巻き、同時に、青白い光へと変わっていく。
そして、一度、天井を突き破り、宙高く登ると、凄まじいスピードで伊尾木の光へ向かっていく。
一度目は、伊尾木の光が何とかかわした。総帥の光は床に大きな穴を開けた。
再び、総帥の光の塊が中高く舞い上がり、伊尾木の光に衝突する。
衝突の力は、大きな爆発を生んだ。
周囲に大きな衝撃波が広がり、机や椅子、ストレッチャー、薬品庫などが無残に押しつぶされ、壁にも大きなひび割れが入った。
ルイ、レイ、剣崎、一樹や紀藤署長たちも、その衝撃で吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
周囲が少し静まると、総帥の光は、自らの体へ戻って行った。
伊尾木の光の塊はもはや存在していないようだった。
そして、彼を守るように取り囲んでいたルイ、レイ、剣崎の思念波も完全に吹き飛ばされてしまっていた。
そこへ、マリアが姿を見せた。
亜美とリサが、ようやく泣き止んだマリアを病院へ連れて来たのだった。
「これは一体・・どういうこと?!」
目の前の惨劇に三人は立ちすくんだ。
皆、倒れている。生きているのか、死んでいるのか判らない。
ただ一人、総帥と思しき男が立っていた。
「マリア!」
総帥がマリアを呼ぶ。その声にマリアが身震いする。
その声は、あの収容所のような施設で何度も聞いた悍ましい声だった。
マリアは、その瞬間、ここで起きた事を全て理解した。本能的に、この男を抹殺しなければならないと感じた。

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