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1-14 再捜査の結果 [アストラルコントロール]

二日ほどして、五十嵐から零士へ連絡があり、先日待ち合わせた公園に行った。
五十嵐はすでに来ていた。
「確証はないけど、どうやら、彼女、不倫をしているみたいよ。」
「おいおい、捜査情報をそんなにあっさり話して大丈夫なのか?」
零士の言葉にちょっと五十嵐は躊躇した。確かに捜査情報を漏らしていることになる。だが、五十嵐はどうしても確かめたかった。
「あなたが見たネクタイのことを知りたくて。もしかしたら、本田幸子の不倫相手が判るかもしれなくて。」
五十嵐はそういいながら、写真の束を取り出して零士に見せた。
「不倫の噂は、片岡優香や本田幸子が所属している事務所で聞いたのよ。もちろん、社員じゃなくて、出入りしていたフォトグラファーからね。」
そう言うと取り出した写真を零士の前に広げる。
「これは、そのフォトグラファーから預かった写真。事務所の創立10周年パーティで撮ったものなんだけど。」
モデルのような人物が笑顔で写っているものばかりだったが、零士は、そこに紛れていた集合写真を手に取った。
「ああ・・このネクタイ・・おそらく、本田幸子の部屋にあったネクタイはこれだ。」
零士の答えを予測していたかのように「そう・・。」と五十嵐が言う。
「誰なんだ?」と零士が訊くと「事務所の社長、山路修。」と五十嵐が答える。
もちろん、部屋にネクタイが落ちていたというだけで、不倫の証拠とは言えないだろう。
「本田幸子や片岡優香がいたアイドルグループは、社長の肝いりで作られ、人気が出たころ、突然、本田幸子は引退。同じころ、片岡もグループから脱退して、ソロ活動に入った。グループ内のトラブルが原因じゃないかと騒がれて、グループは解散、そんな騒動もすぐに忘れ去られていったの。ただ、今回の捜査で、この騒ぎの発端は社長のセクハラじゃないかという話も出てきたわけ。」
「まるで、三流週刊誌のゴシップネタそのものだな。」と零士。
「だから、射場さんの見解を聞きたいのよ。」
と五十嵐は真面目な顔で言った。
射場は特にゴシップネタ専門のフリーライターではないと自負していた。五十嵐の「だから」という言葉にはちょっとむっとしていた。
「今回の事件とこの話、関連があるんじゃないかと思うの、どう?」
五十嵐は零士の反応などどうでも良いといった風で質問を続けた。
零士は、五十嵐の中にすでに何らかのストーリーがあって、それが正しいということに共感してもらいたいと思っているのだと見抜いた。
「ああ、おそらく。」と零士は答える。
「例えば、どんなつながりがあると思う?」と五十嵐が試すような言い方をした。
零士は困った。彼女がくみ上げたストーリーが全く思いつかない。ここで、全く違うストーリーを提示すると、彼女としては納得できないに違いない。それ以前に、この事件にこれ以上関わることに何か不安を感じていたくらいだった。それでも、真剣な顔をして零士を見つめる五十嵐に「わからない」と答えるほど冷徹にはなれなかった。
「まあ、そうだな・・社長と・・本田幸子が共謀して・・。」
零士は言葉を選びながら、ゆっくりと言うと、
「そうよね、社長と本田の共謀ということは有力よね。」
ここまでの会話は何とか彼女の仕立てたストーリー上にあるようだ。
「ただ、動機だな。なぜ、共謀して片岡優香を殺さなければならなかったか・・。」
零士が言うと「やっぱり、そこなのよね。動機が分からない。」と五十嵐が落胆した表情で言ってから、「で?どう思う?」と続けた。
五十嵐は意外にしつこい性格だった。「そこは警察が調べるべきことじゃないのか?」と言い返したくなったが、止めた。
「金銭トラブルはなかったのかな?」と零士はあえて質問で返した。
「捜査中。だけど、事務所の経営は悪かったようね。銀行からの借入金の返済は厳しかったらしいわ。今回、片岡優香の死亡で保険金が入る予定だとも聞いたから・・。」
五十嵐の口調がだんだんため口になっていくのを零士は少し気にした。

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