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2-11 バイト店員 [アストラルコントロール]

「昨日の夢では、赤い髪の女は青いドレスだった。彼が言う通り派手な服だった。水商売なのかと思ったが、店から連れてきたというわけではなさそうだな。桧山邸の辺りに出没しているということは、この周辺に住んでいるということも考えられるな。」
桧山邸がある町は高級住宅街である。派手な服装の赤い髪の女性が住んでいるなら、聞き込みをすればすぐに身元は割れるだろう。目撃者はきっといるはずだ。
五十嵐はそう考え、この事件は案外早く解決できるとひそかに喜んでいた。
五十嵐と零士は、桧山邸のある高級住宅街へ向かった。
はじめに、桧山がハイヤーを止めたコンビニへ行き、昨夜のことを尋ねた。だが、昨夜のバイトは不在で、話は聞けなかった。
それから、住宅街を回って、「赤い髪の女性」の目撃者探しをした。
「ああ、赤い髪の女性ね。時々見かけたわ。」
いきなり、1軒目で目撃証言が出た。
「時々?」と五十嵐。
「ごめんなさい。私は一度だけ。でも、ご近所の方も見たことがあるっておっしゃったから、この辺りの方じゃないかしら。」
「顔は?」
「いえ、大きなつばの帽子で、サングラスとマスクで、顔なんてわからないわ。それに、ほら、なんだか怪しい感じだったし、じろじろ見るのもねえ。」
次のお宅に行っても、ほぼ同様の話だった。
ただ、いずれも昼間に目撃されていて、どこの誰だか全く情報が得られなかった。
三軒目では「庭掃除をしていたら、前を通って行ったわ。綺麗な人だったわ。」という答え。
「顔を見たんですか?」と五十嵐。
「いえ、帽子と洋服、それにスタイルが良かったから。顔なんて見てないわよ。あんたたち、女は顔なの?ちょっと、それって女性差別よ。」
という具合に苦言を損ねてしまう始末。
5軒目の証言に至ってはかなり想像力が高いご婦人のようだった。
「あれは、きっと詐欺師よ。ほら、結婚詐欺、いや違うわね。あそうそう、後妻業の女に違いないわ。あんな格好して、この辺りをふらふらしてるんだもの。一人暮らしの老人に近づいて・・。」
話が止まらないようだったので、「ありがとうございます」と言ってその場を離れた。
「ずいぶん目撃されているのに、だれも正体を知らない。何とも不思議な感じだな。」
零士が呟く。
五十嵐は、自分の考えが甘かったことを痛感していた。
「何か、身元につながるようなものがあればいいのに・・。」
「いや、理由はわからないが、正体を知られたくない事情があるんだろう。」
「どんな事情?そんな派手な格好をして、見てくださいってアピールしてるようなもんでしょ?」
五十嵐は少しいらだって零士に言った。
「いや、可能性の問題を言っただけなんだが・・。」
零士が言い返そうとしたとき、五十嵐のスマホが鳴った。
「はい、わかりました。すぐに伺います。」
スマホを切って、五十嵐が足早に動き始める。
「どうした?」
「昨夜のコンビニのバイトさんが来たって。赤い髪の女性を見たらしいの。」
住宅街を抜けて、コンビニまですぐに着いた。
「すみません、昨夜のバイトの方は?」
点名に入るとすぐに五十嵐が言う。
「ああ、僕です。」
学生バイトのようだった。
「すみません。前のバイトが長くなってしまって遅れました。これからシフトに入るんで、手短にお願いします。」
「昨夜、ここに赤い髪の女性は居なかった?」
いきなりの質問にバイト店員はちょっと面食らった。
「昨夜ですか?それなら・・。」
バイトの店員は、そう言うと、二人を店の外に連れて出た。

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