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3-18 情報拡散 [アストラルコントロール]

そのころ、捜査本部が急に慌ただしくなっていた。
「本部長、大変です。SNSで、加茂正氏が父親を殺したという記事が拡散しています!。」
「どういうことだ?慎重に捜査をしたんじゃないのか?山崎を呼べ!」
捜査本部の片桐課長は顔を真っ赤にして怒鳴った。
すぐに山崎が来て、事情を確認した。
「私の知る限り、五十嵐たちの捜査は外部から気づかれるようなものではありませんでした。」
「じゃあ、なぜ、こんな記事が出るんだ!」
片桐課長は怒りが収まらない。こうした記事が出ないよう、事情聴取を訪問客のようにカモフラージュして行うと加茂正氏と約束を取り付けたのが片桐課長だった。自分の面目をつぶされたことに怒りが沸いているだけだった。
「判りませんね。ですが、こんな情報で我々警察を煽ったところで、捜査に影響はしませんよね。」
「もちろんだ。」
「これはきっと、何か別の意図があって・・例えば、真犯人が捜査を混乱させようとか、正氏を陥れようと狙ってやったことじゃないんでしょうか?むしろ、こうした情報の出元を探っていけば真犯人にたどり着けるのかもしれません。まあ、これで、加茂正氏が犯人ではないことが証明されたようなものですが・・。」
山崎は、片桐の怒りの矛先を別の方向に向けるように回答した。
片桐課長は返す言葉を失い、椅子にドカッと座り込んだ。
その時、捜査本部にいたほかの捜査員たちの空気が変わった。
「おい、すぐこの記事の発端になった投稿を調べるぞ。」
「ああ、おそらく、裏アカだろうから、特殊犯罪捜査室にも連絡して協力してもらおう。」
「新聞社や週刊誌あたりにも、情報提供を頼んだらどうだろうか。」
片桐課長の指示とは違う方向に動き始める。
同じころ、五十嵐は、駅前のビルの1階にある、正氏の事務所に向かっていた。
事務所に近づくと、人だかりがしている。テレビカメラを抱えたクルーも見えた。
五十嵐は、スマホを開いてみた。こういう時は必ず、速報記事が出ている。
「どういうこと?だれがこんな・・。」
表は報道陣が集まりとても近づけそうもない。
五十嵐は、正氏の事務所の隣の雑貨店に入った。表の騒ぎのせいで雑貨店には客の姿はなく、店主が呆然と通りを見ていた。
「すみません。」
五十嵐はそう言って、店主に警察バッジを見せる。
「やはり、正さんが犯人なんですか?」
正氏と同じくらいの年齢の店主が不安げに訊いた。
「捜査中なので、ハッキリしたことは言えませんが、おそらく、誰かの陰謀で犯人に仕立てられただけだと思います。それより、裏口は?」
「そこですが・・。」
「隣の事務所に行きたいんですが、通じていますか?」
「ええ、裏口から出ると、隣の裏口があります。改装の下限らしいんですが、ここと隣だけが行き来できるようになっています。」
「ご協力、ありがとうございます。・・ああ、このことは、くれぐれも内密にお願いします。正氏を逮捕に来たわけじゃなくて、彼の無実を証明するためですから・・」
「わかりました。」
五十嵐は店主に礼を言い、裏口から隣の事務所に入った。
裏口から入るとそこは倉庫になっていた。狭い通路を通り抜けると、事務所だった。外部から見られぬように、厚いカーテンで窓が塞がれ、室内は薄暗かった。
その中で、事務員らしき若い女性が席に座っていた。事務員の女性は、外の喧騒には無関心といった様子で、ぼんやりとパソコン画面を眺めていた。
「失礼します。」
五十嵐がドアを開けて入る。
がらんとした事務所に彼女一人、机は4台、田の字に並んでいた。少し離れた場所に大きな机。隣室が議員の部屋。以前に聴取に訪れたとき、すぐに議員の部屋に通されたため、事務所内をじっくり見ていなかったが、それでも、あれから数日でなんだかずいぶん変わった印象を受けた。

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