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2-27 事故の真相 [アストラルコントロール]

「どうしてそう思うんですか?」
と、零士が訊く。
雄一郎は零士を睨みつけた。
「登山サークルで起きた痛ましい事故が関係しているんですよね。」
零士が少し試すように訊く。
雄一郎は「あれは事故じゃない。」と吐き捨てるように言った。
「ええ、事故じゃない。だが、真実は、君と遠山俊さんしか知らない。話してくれませんか?」
雄一郎は口を噤んだ。
それを見て零士が続けた。
「わかりました。では、私が、何が起こったかを話しましょう。ほとんど想像の範囲なので、間違っていたら言ってください。」
零士はそう言うと、登山中の事故について話し始めた。
「20年前、あなたはまだ学生だった。入学後、あなたは登山サークルに入った。ほとんど未経験だったが、友人たちに勧められ、そこには、伊部彰吾さんと遠山俊さん、そして、事故にあった有栖川レミさんがいた。事故のあった日、20人ほどのパーティで登山をした。途中で、濃霧に遭い、動けなくなった。有栖川レミさんは登山経験があり、その山も何度も登っていた。皆のために、有栖川さんは救助を呼ぶために下山することにした。」
雄一郎はじっと零士の話を聞いている。
ここまでのところで特に表情は変わらない。
「それを知って、伊部彰吾さんと遠山俊さん、そしてあなたも一緒に行くことにした。下山を始めてすぐに、濃霧から豪雨へと変わり、あなたたちも動けなくなってしまった。そのため、尾根筋にあった岩陰に一時避難することにした。岩陰は狭く、二人が入れる程度。道案内できる有栖川さんと伊部彰吾さんがそこに入った。そして、少し離れたところにあった岩陰に、遠山俊さんとあなたが入った。・・そこで事件が起きたんですよね。」
零士の話は、まるでそこに居合わせたような内容だった。
沈黙していた雄一郎が、零士に言う。
「どうして、そんなことを・・俊が話したのか?」
「いえ、違います。実は、あの事故を知り合いの記者が取材をしていたんです。警察や山岳救助隊は、滑落事故という結論を出したんですが、その記者は、偶然にも遺体発見者の一人でした。彼は登山経験が豊富で、山の事故は幾度も取材していたんです。彼は、遺体の状態に不自然さを感じて、時間をかけて取材をしました。今まで話したのは、彼の取材の断片をつなげたものです。」
零士が足りないものがあると言ったのは、あの事故が今回の事件の根底にあると確信し、その事故の詳細を知るためだった。
「いかがです?当時の状況にあっていますか?」
レジは雄一郎に訊く。雄一郎は小さく頷いた。
「問題は、その後ですね。もう、この先は、雄一郎さん、あなたの口から聞きたい。」
零士が言うと、雄一郎は観念した様子で少しずつ話し始めた。
「雨が止むまで二人ずつに分かれて岩陰に避難した。30分ほどが経った頃、悲鳴が聞こえた。レミの声だった。僕と俊は雨の中、二人が身を隠していた岩陰に行った。そこには、レミが・・血を流して・・倒れていた。」
「伊部彰吾が有栖川さんを殺した?」と五十嵐が訊く。
「ええ・・あいつは以前から女にだらしなかった。岩陰に避難している間に、彼女に迫った。彼女が抵抗したんで、殴りつけた。倒れた彼女は岩に頭を打ち付けて・・。」
雄一郎はそう言いながら涙を流している。
「どうして、伊部と彼女を二人にしたんですか。」
五十嵐は腹立たしく詰め寄った。
「あいつの親父は、当時、市会議員で町の有力者だった。俊の親父さんは、伊部の事務所で働いていたし、僕の親父も、仕事上逆らえない関係だった。あいつは親たちの力関係を知っていて、大学に入った時から、あいつの手下のように扱われていた。あの時も、彰吾が・・。」
雄一郎の答えのおおよそはわかっていたが、聞いた五十嵐はがっかりしてそれ以上は聞かない。

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