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file3-10 招待状 [同調(シンクロ)]

F3-10 招待状
亜美は、署の屋上にいた。普段は滅多に屋上に出たことはないが、さすがに今日の一樹の態度には腹を立てていた。いや、一樹の態度だけではなく、レイが現れて以来、事件が続いていて疲れているのもあったようだった。署の屋上からは、市役所や学校、駅前のビル群が見える。通勤や通学の時間を過ぎた街は静かに動き始めたようだった。

「おや・・めずらしいな。」
「何?パパ、居たの。・・・あ・・また、タバコ吸ってる。・・この前、禁煙するって言ってたのに。」
紀籐は罰の悪い顔をしながら、
「どうした。こんなところに来て。」
「・・ううん・・ちょっと一樹がね・・でも・・そんなことはいいの。ねえ、レイさんのことなんだけど。」
「ああ、昨日、行ったんだろ。」
「ええ、でも会えなくて。それに、ちょっとおかしいのよ。」
亜美は、昨日病院の受付で聞いた話をかいつまんで紀籐に話した。

「ふうん・・そうか。」
「ね、おかしいでしょ。偽名と言い、病院のセキュリティも異常よ。何かとんでもない秘密があるみたい。」
「そうだな・・・何か事情はありそうだな。・・」
「でしょう。」
亜美は、警察官として真相を知りたいという気持ちだけでなく、秘密めいたレイの存在と一樹の名前を言い出したことに何か不安を感じているようでもあった。

「しかし、神林を名乗ったのは、それなりに院長と関係のあるということなんじゃないか。」
「ええ、私もそう思って、お孫さんか何かかと受付で訊いてみたんだけど。」
「ああ、・・・そうだ、確か、院長には娘さんがいたはずだが・・」
「ええ、でも若い頃に亡くなったって言ってたわ。」
「そうか・・・亡くなったのか。」
紀籐は少し悲しげな表情を見せていた。
「・・でもパパ?・・何で、娘さんがいたこと、知ってるの?」
「ああ・・いや・・ちょっと・・」
「何?何か事件か何かなの?」
「いや・・昔の話だ・・昔の・・友達から聞いた事があったんだが・・」
紀籐は少し言葉を濁してあいまいに答えた。そして
「まあ、不審な気持ちを抱えてるのは、これからに影響するだろう。早めに、レイさんから真相を聞きだすほうがいいだろう。・・きっと、今は言えない事情もあるのかもしれんがな。」
「そうね・・ただ・・連絡がないのよ。」
亜美は携帯を取り出して、掛かってくるはずのない事を改めて確認した。

「ああ、そうだ。明後日なんだが、一緒にパーティに行かないか?」
「え?・パーティ?」
紀籐の口からパーティなどという言葉が出てきて、亜美は可笑しくなった。
「パパ?パーティってどういうこと?今までそんな所、嫌がって行かなかったじゃない。」
「ああ、だが、ちょっと今回は出てみようかと・・」
「どこのパーティ?」
「ああ、ほら例の・・・魁トレーディングが新社屋落成のパーティを開くようなんだ。招待状が届いてなあ。乗り気ではなかったんだが、まあ、誘拐事件のあと、どんな様子か好奇心もあってね。行かないか?」
「・・ふーん・・まあ、いいわ。パパ一人行くのもきっと辛そうだから・・だってお酒飲めないでしょ。」
「ああ、一緒に行ってくれると助かる。」
「わかったわ。・・何か面白そう。会長さんって結構恨まれてること多そうだし、どんな人が来てるのかも面白そうね。」
「じゃあ、時間は夜7時からだ・・出かける前にしたくもあるだろうから、その日は休みにしていいぞ。」
紀籐はそう言うと、灰皿にタバコを消して、階段を下りていった。

亜美は、父の姿を見送りながら、一樹の不愉快な態度の事などすっかり忘れてしまっていたようだった。
「さあ、私も仕事に戻らないと・・」
そう言って階段に向かおうとしたとき、携帯電話が鳴った。

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