SSブログ

file3-9 不機嫌な亜美 [同調(シンクロ)]

F3-9 
翌朝、一樹はいつもより早くに出勤して、資料室に新しく入ったパソコンを起動して、何かを調べていた。
9時を少し回ったところで、亜美が部屋に入ってきた。
「あら・・一樹、何?真面目に何を調べてるの?」
亜美が、パソコンを除くと、画面には、あられもない女性のバストの画像が並んでいた。
「信じられない!何やってんの?ここは署内よ。そんなの家で見てれば!」
「ち・・違うんだ・・そんなんじゃなくて・・ちょっと調べてるんだよ!」
亜美は一樹を軽蔑するような視線を送っていた。
「何言ってんのよ。見え透いた言い訳は、一樹らしくないわよ!」
亜美は、古いソファーに座って、さらに一樹を非難した。
一樹は、亜美の機嫌を取るのは用意ではない事は知っていて、これ以上誤解を解く事は無駄だとあきらめて、またパソコンにかじりついた。亜美は一樹が機嫌を取ってくれる気配も見せないことに一層苛立った。

「ねえ!一樹!いい加減に・・」
と言いかけた時、一樹が向き直って、真顔で訊いた。
「なあ、豊胸手術ってどんなものなんだい?ほら・・オッパイを大きくする手術さ。」
頓珍漢な質問をいきなり投げつけられて、亜美は絶句した。
それに、亜美自身、細身で小さいバストにコンプレックスを持っていたので、多少は興味はあったのだが、それを一樹に見透かされてるように感じて、何だか、無性に頭にきたのだった。
「もう、知らない!」
そう言って亜美はソファーから立ち上がって、ドアをばたんと閉めて外へ出て行ってしまった。

部屋を出た亜美は、廊下で鳥山課長とすれ違った。鳥山が、「矢澤は?」とのんきな顔で尋ねたのがまた癪に障って、「知りません!」と答えて、階段を登っていった。

「おい!矢澤!いるんだろ。入るぞ。」
そう言って鳥山は部屋に入った。
「どうしたんだ?紀籐のやつ、えらい剣幕で出て行ったが、喧嘩でもしたか?」
「あ、課長、おはようございます。・・いや、特に。何だか、いきなり怒って出て行ったんです。」
一樹は、自分がデリカシーのない言葉と態度を取った事に全く気がついていなかった。
鳥山は、一樹の開いているパソコンの画面を見た。
「なんだい、これは?」
「ああ・・実は昨日、飲みに行った店で怪しい情報を聞い単で、少し調べてたんです。」
画面は、美容整形外科の紹介サイトだった。
「どんな情報だい。」
鳥山が尋ねたので、昨夜の一部始終を話した。

「ほう、確かに怪しいな。何か、悪さをしてるようだな。・・だが・・」
「ええ、確かに、誰かが何かしてるんですが、具体的な中身が見えなくて。」
「だが、きっと、まともな手術じゃないだろう。それに、仕事って言っても、危ない仕事かもな。」
「ええ、ですが、大体、美容整形なんて世界、全く無縁ですから。まずは、それを知らないとと思いまして、朝からいろいろとインターネットで勉強してたんです。」
「ふむ・・それで・・紀籐に何か言ったのか?」
「え?・・・ああ、豊胸手術って知ってるかって、訊きました。」
鳥山は額に手を当てて、納得したような表情をした。

「それだ。・・お前、何てやつだ。女性に、豊胸手術って・・特に、紀籐にしてみたら・・まあ、食事でもおごって機嫌を取るんだな。・・お前ってやつは、本当に女心がわからない堅物だな。」
「え?そんなに悪い事訊いちゃったんですか?」
「まあ、良く考えてみるんだな・・それはそうと、その情報、しばらく追ってみな。ひょっとすると、大きな事件につながるかもしれん。」
「はい。また、何かわかったら報告します。」

鳥山は一樹の返事を聞きながら、ドアのほうへ向かった。
ドアに手をかけて開けかけた時、思い出したように鳥山が一樹に言った。
「そうだ・・そう言えば、例の強盗事件。被害者は、加藤美容整形外科の院長だったな。・・事件のあとの様子見も含めて、一度、話でもしてみたらどうだ?もっとよくわかるかもしれない。それに、そういう怪しい情報も案外知ってるかもな。」


nice!(5)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 5

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

Facebook コメント

トラックバック 0