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file3-8 怪情報 [同調(シンクロ)]

「何だよ!この店は!」
平手打ちされた客が、怒りをあらわにしてグラスを床に投げつけて立ち上がった。
その音に驚き、二人の女の子はその場に座り込んで泣き出してしまった。
一樹は思わず立ち上がり、客と女の子の間に割って入った。
「どうしたんだよ!」
女の子達は、泣いてばかりで要領を得なかった。ソフィアが女の子達をなだめた。

「ふん!ちょっと触っただけじゃねえかい!」
捨て台詞のように平手打ちされた客が言う。その言葉に、一緒に来て傷もう一人の客が続けた。
「日系人だって言うからさ。・・最近、美容整形っていうやつで、オッパイを膨らませるってなあ。」
他のもう一人も、
「ああ、何でも相当流行ってるんじゃねえのか?それで、お前のもそうだろって・・へへ。」
一樹は呆れてものが言えなかった。
「いい加減にしなよ。そういう楽しみが欲しいなら、駅裏の店にでも行けば良いだろ。」
そう言いながら、一樹が、ポケットから警察バッジを取り出して、ちらっと見せた。
「なんなら、格子の入った店にでも入るか?」
そういうと、男たちはそそくさと帰り支度を始めた。
「ちゃんと金払ってけよ。」
そう言いながら、一樹は席に戻った。ソフィアと女の子達は、床に散らばったグラス等を片付けた。
一通り片づけが終わり、女の子達は、流しのほうに入って洗物や片付けを手伝った。ソフィアは、女の子達に任せて、一樹の脇の席に座った。

「ゴメンネ。何だか嫌な思いさせちゃって。」
ソフィアはそう言いながら、ビールをコップに注いだ。一樹は一口飲むと、
「美容整形なんて高額なんだろ?いい加減な話をしやがって・・」
何の気なしに一言言ったのだが、ソフィアは、
「イイエ。そうでもないのよ。・・私の知り合いでも、少し前に手術を受けたらしいの。」
「何の為に?・・そんなに景気は良くないだろ。」
「そうなの。変だと思ったんだけどね。」
「ふーん・・」
一樹は何だか怪しい事件のにおいを感じたらしく、女の子達に質問をした。
「知ってる事があったら、教えてくれないか?」
女の子二人は顔を見合わせたまま、返事をしなかった。
「大丈夫。この人、刑事さんだから、ちゃんと守ってくれるから。それに、そんな怪しい手術受けないほうが良いわ。ひょっとしたら、実験に使われてるかもしれないじゃない。」

ソフィアの言葉に安心したのか、女の子の一人が、
「うん。私も・・誘われたわ。無料(ただ)でやってくれて、仕事もお世話してくれるって。でも、その代わり、手術のことは、誰にも言わないって約束らしいわ。」
もう一人の女の子は、
「私・・・しつこく誘われて・・断りきれなくて・・」
「え?受けたの?」
「イイエ、本当なら、昨日、受ける予定だったけど、・・何だか、急に先生の都合が悪くなったって・・」
「どこの病院なの?」
ソフィアが女の子に訊いた。
「知らない。・・夕方、迎えにきてくれるっていってただけで何も聞いてないし・・」
「なあ、それは誰が勧誘してるんだ?」
「誰って・・・・・勤めてた工場の前で声を掛けられたの。・・ちょうど工場を辞めさせられた所で・・・仕事があるけどどうだって・・・名前は・・ジョージって言ってたと思う。」
「日本人かい?」
「良くわからない・・。でも、多分、そう。」
「連絡先とかは?」
「何もわからないわ。・・電話で連絡があるだけで・・・それに、他人にしゃべるなって言ってた。」
「電話番号は?」
ソフィアが携帯を見せるしぐさをして訊いた。
「番号は非通知だから・・」
「やっぱり怪しいな。ソフィアが言うように、ただ綺麗に整形してくれるだけじゃなさそうだな。・・すこし調べてみたほうが良さそうだな。」
一樹はそう呟くと、ビールを飲んだ。
「仕事を失くして困ってるところに、仕事の世話をする・・それも工場の前で・・余りにも都合よく動いてる。・・なあ、首になった工場ってどこだい?」
女の子が口にした工場は、橋川市から西の県境にある工場だった。

「工場も何か関係してるかもしれないなあ。」
一樹の目つきはいつしか刑事の鋭さを放っていた。ソフィアは隣の席に座って、一樹の横顔をじっと見詰めていた。


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