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file3-12 告白 [同調(シンクロ)]

F3-12 告白
レイはテーブルの上のコーヒーを一口飲んで話し始めた。
「私は、父も母も小さい頃に亡くしました。その後、養母に育てられました。」
「え・・一樹と一緒じゃない・・」
「しかし、その養母も私が15歳のとき病気になり、ずっとお世話をしていました。そして、18歳の時に、ママの病気治療で日本に来ました。ママはとても重い病気で、神林先生がアメリカにいらした時に診察を受け、そのまま神林先生のお世話になることになったんです。」
「それで、神林病院にいるのね。その人が特別室にいらっしゃるのね。でも、医者になったのは?」
「・・・医者になったのは、神林先生に勧めていただいて・・・お世話をする為だけにいるのはもったいない、若いんだからと自分自身のことを考えないととおっしゃって・・それで、医学部へ進学するをことにしたんです。2年ほど前から、特別病棟のドクターとしてあの病院にいるんです。」
「名前を神林と名乗ったのは?」
「・・名前を偽ったのは、本名を言うと、かえって不審に思われるんじゃないかと・・それで、つい、神林先生の名前をお借りしたんです。」
「確かに初対面で、新道・スミスなんて言われると、大丈夫かってなるなあ。」
亜美が更に質問した。
「病院のセキュリティが異常に高いように思ったけど?」
「ええ、私もそう感じています。でも、特別病棟には、かなりハイレベルな医療機器もありますし、・・治療の為に外部との接触をできるだけしないほうがいいんです。」
「でも、なかなか連絡が取れなくては・・私たち、あなたを守るのが仕事なの。」
「そう思って、これを持ってきました。」
レイは、見慣れない携帯電話を差し出した。それは、普及しているものよりも薄く小さく、余計な機能などないものだった。ボタンが一つだけついていた。
「携帯なら持ってるけど・・」
「ええ、でもこれは携帯電話ではありません。・・トランシーバーみたいなものです。私との通話しか出来ないようになっています。どこに居ても連絡が取れるようにと、院長がくださいました。これなら、特別病棟の中に居ても大丈夫ですから・・」
亜美はそれを受け取った。
二人が持っていた疑念はほとんど晴れていた。

「もう一つわからないことがあるんだけど・・」
亜美が思い出したように訪ねる。一樹には見当がつかなかった。
「初めてここに来た時の事なんだけど・・あなた、一樹を名指ししてたでしょ?・・どこで一樹のこと知ったのかしら?一樹は面識はないって言ってたけど・・そうよね、一樹。」
亜美の質問は、刑事としての質問というよりも一人の女性としての感覚で尋ねている様だった。一樹は、その質問に同意したというより、亜美の目つきに同意した。

「ああ、そのことは・・・もう御存知だと思いますが、私のいる特別病棟の隣の部屋に、葉山さんて方が入院されています。その奥様から、矢澤さんのお名前をお聞きしたものですから・・とっさに矢澤さんの名前をだしたんです。・・私も初対面でした。」
「ふーん。それだけ・・なら納得したわ。」

レイはちらっと時計を見て、
「私、そろそろ戻らないと。・・また、連絡差し上げますので」
そう言って立ち上がった。
「病院まで送っていこうか?」
一樹が何気なしにそう言ったが、
「いえ、結構です。駅前で待ち合わせをしていますので、歩いて行きます。では。」
レイはそういうとすっとドアを出て行った。一樹も亜美も、見送るまでもない状況だった。

「なんだか、疑問は晴れたんだけど・・気持ちは晴れないって感じね。」
亜美が、冷めてしまったコーヒーを飲みながら、ため息混じりにそう言った。
「ああ、ただつじつまが合ってるというか・・いや、容疑者の取調べじゃないんだから、良いんだけどな。」
「そうね・・でも、今日のレイちゃん、全く別人みたいだった。物静かというか・・初対面の人みたいだったわ。」
「ああ、病院で見かけた白衣の時もそんな感じだったが、今日はまたどこかのお嬢さんという感じで、清楚でおしとやかという感じだったな・・」
一樹のその言葉に少し亜美はムッとした。そして、朝方の一樹の失礼な態度と発言を思い出して、また機嫌を悪くしていた。

レイは、警察署の玄関を出てきた。署の前には、例のフリーライター“林”が待ち構えていた。
一樹と亜美の会話とレイの存在に何か秘密めいたものを直感して、先ほどからずっと待っていたのだった。署の前を通る国道の信号を渡り、レイは駅前のアーケード街に向かった。20mほど後方を、林は尾行していた。
「何者だろうな?見たことない顔だよな、結構可愛い娘だし、面白そうだ。」
そう呟きながら、レイの動きを追いながら、ジャケットのポケットから小さなデジタルカメラを取り出して、レイを写真に収めていた。

平日の午前中は、アーケード街には人影もまばらで、余り近づくと気付かれるのではと考え、離れ気味に歩いていた。レイは、洋服店や雑貨店等を見ながら、アーケードの端まで来たところで、角にあるタバコ店に入った。
林もゆっくりと店の前まで来ると、タバコ屋の中にはレイの姿が見当たらなかった。・というより、タバコ屋の看板はあるものの、中は空き家で、裏口のドアが開いていて、そこから裏道へ抜けたのは確実だった。
林はあわてて、裏口へ走り抜けた。静かな裏通りの先に、ちょうど、黒塗りの高級車が角を曲がっていくところが見えた。ナンバープレートまでは確認できなかった。
「気付かれたか。・・・それにしても、こんな狭い道であの車が待っていたなんて・・やっぱり何かあるな。」
林はポケットからデジタルカメラを取り出して、画像を確認してみた。しかし、カメラにはレイの顔がまともにわかるようなものはなかった。
「おかしいなあ、ちゃんと撮れてるはずだが・・ブレてるものばっかりだなあ・・ちっ。しかし、収穫だな。警察内部に秘密にしておきたいことがあるようだ。あの高級車も気になるし・・まあ、この町であんな車を持ってる人間なんて、そう多くない。ちょっと調べてみるか。」
そう呟くと、街の中へ消えていった。

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