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file4-1 継続捜査 [同調(シンクロ)]

F4-1 継続捜査
3日後の夕刻、紀籐署長が刑事課の部屋に入って行った。刑事課は皆出払っているのか、静かだった。
「鳥山君、いるかい?」
鳥山課長は、ひとり、刑事課の部屋の一番奥の机で、捜査資料を食い入るように見ていた。
「あ、署長。・・実は今報告に行こうかと・・。」
「まあ、いいさ。これから出かけるところなんで・・」
「じゃあ、取り急ぎ、報告だけ。」
「ああ、頼む。」
二人は、壁際にあるソファーに腰掛けた。
「あ、それと、引き続き、行方不明事件を追ってるんですが、こっちは、なかなか進展はありません。」
「そうか・・まあ、気長にやっていくしかないだろう。」
「誘拐事件と強盗事件のほうは、現場逮捕ですし、自供も取れましたので、検察へ書類を送ります。事件自体は、住んでのところで殺人事件にはならずに済みましたから、特に問題なく受理されるでしょう。」
「そうか。じゃあ書類を回しておいてくれ。」
「その誘拐事件がらみなんですが・・・武田フーズの社長の周辺捜査で、面白い事が出てきました。」
「なんだい?」
「行方不明になった娘なんですが、随分悪かったようです。武田は、まだ娘が小さい頃離婚してまして、ほとんど男手一つで育てたようなもんなんですが・・どう間違ったか、中学生の頃から悪い連中と付き合い始めて、ほとんど学校に行っていなかったようです。高校も行かず、・・そうそう、補導暦もたくさんあります。万引きや恐喝、暴力事件も起こしてます。売春の斡旋でも一度。それと、捜索願が出る直前には、薬物所持でも補導されていました。その時の記録です。」
そう言って鳥山は紀籐に書類を渡した。
「ほう、名古屋の繁華街で見知らぬ男からもらったと供述してるのか。」
「ええ、おそらく嘘でしょう。所持していたのは、合成麻薬の一種で、まだ、ほとんど流通していないものでしたから。」
「暴力団がらみは?」
「いいえ、その線はほとんど浮かんできません。どこから入手したか結局特定できず、未成年者でもありますから釈放されたんです。・・でその直後に行方不明になってるようなんです。武田もそうとう手を焼いていたようです。・・それと、娘なんですが、どうも武田の本当の子供じゃないようなんです。」
「どういうことだ?」
「武田の女房ってのが、水商売にいたらしく、・・妊娠したので結婚してくれと迫られたようで、ですが、どうも、他の男の子供みたいで・・ええ、武田の実家の周囲で聞いてきた情報ですから確かではないんですが・・」
「それじゃあ、余り、娘に愛情は持てなかったということか。」
「ええ、むしろ、居なくなってせいせいしたというほうが本音かもしれません。ですが、捜索願がちゃんと出されてる。それも、家出というのではなく、拉致されたんじゃないかという訴えになってるんです。」
「何だか、矛盾してるなあ。もう一度、その辺りを調べてみてくれ。それと、娘の周辺にいた人間もな。ひょっとすると、薬物がらみの大きな事件になるかもしれない。慎重に頼むよ。」
「はい、わかりました。」
「強盗事件からは何も?」
「ええ・・動機もありますし・・凶器のナイフもその日の夕方購入していて、衝動的にやったのだという事で進んでいますが・・」
「そうか。・・いや、ちょっと気になることがあって。君も現場を見ているからわかるだろうが・・加藤宅はかなり厳重な警備システムが入っていただろ。そんなに簡単に侵入できるものじゃない。」
「ええ、その点は私も疑問があるんです。ただ、供述では、加藤医師が帰宅した時に待ち伏せしていて、脅して家の中に入ったということでした。これは、被害者の供述とも一致しました。」
「そうか。・・いや、もし、金目当ての犯行なら、もっと楽な方法もあるだろう。わざわざ警備の厳しい家を狙わなくてもいいんじゃないかと。顔も見られてるし、例え、強盗で成功してもすぐに容疑者として指名手配されるだろう。それに、あの凶器では、人を殺すことなど出来ない。・・被害者も医師ならそれくらいわかるはずだ。少し、不自然なところがあるように思うんだが・・。」
「ええ、おっしゃるとおりです。・・ただ、取調べではとにかく衝動的に犯行に至ったのだという供述があるので、その線で裏づけを進めてきました。・・傷害も殺人も起きていませんから、これ以上の時間を掛けてもと現場の刑事たちの意見で・・」
「わかった。その事件は、一応その方向で起訴することにしよう。ただ、犯人と加藤医師とに過去に何か接点はないか、少し調べてみて欲しい。」
「はい、わかりました。」
ちょうどその時、同時に、佐伯と佐藤が外回りから戻ってきた。
「お嬢さんが玄関でお待ちでしたよ。」
佐伯が署長に告げた。
「いけない、少し遅れた。じゃあ、鳥山君頼む。」

鳥山は署長を見送ると、佐伯と佐藤を呼んだ。
「誘拐事件と強盗事件、一応、送検することで了解いただいたが、もう少し、周辺捜査をすすめてくれ。」
「・・もういいんじゃないでしょうか?いずれも、現行犯ですし・・」
佐伯が少し不満顔をしながら答えた。
「まあ、そういうな。佐伯は、強盗事件のほうを担当して欲しい。・・あの犯人と被害者加藤医師の接点がないか調べてくれ。・・あの厳重な警備システムの家で強盗を働くのは、衝動的なものだけじゃないように思うからな。それから、佐藤は、武田フーズのほうだ。娘が行方不明になってる。武田フーズの経営や取引先、娘の行方不明時期の状況・・とにかく何でもいいから、怪しげなことが見つかったら報告してくれ。」
「あ・・あの・・一つ。」
佐藤がおずおずと質問した。
「誘拐事件の裏に何かあるんじゃないかと、課長はお考えなのですか?」
鳥山は少し考えてから、
「・・怨恨と金・・が絡んでの犯行じゃ、あまりに稚拙な感じがするんだ。大胆すぎるというか、武田にしても娘婿の加藤にしても、警察に通報されるなんて思っていなかったような感じだからな。他に脅迫できるようなネタを持ってたんじゃないかとな。署長も同意見だ。」
「わかりました。早速、調べてみます。」
佐藤は随分張り切って返答した。佐伯は、あまり乗り気ではなさそうだった。


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