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file4-2 パーティ会場 [同調(シンクロ)]

F4-2 パーティ会場
亜美と紀籐署長は、魁トレーディングの新社屋落成パーティの会場に居た。
5階建ての新社屋。1階には広いロビーに受付案内、そして、パーティ会場になっている大ホール。2階以上は、オフィスになっているようで、IDゲートで警備されていた。
紀籐と亜美は出かけるのが少し遅れたせいで、すでにセレモニーは始まっていて、一連の挨拶や祝辞等は終わっていた。
「ねえ、パパ。いつも出不精なのに、このパーティって何かあるの?」
「いや・・誘拐事件があったばかりだろ。ちょっと興味があってね。どんな顔ぶれが集まるのか、見ておくだけでも、この街の人のつながりがわかるだろう。お前も少し面識を持っておくのもいいんじゃないか?」
紀籐はそう言いながら、テーブルに並べられた料理をつまみ始めていた。
魁トレーディング会長の周りには、役員何人かが金魚の糞のようについて、参加者へのあいさつ回りに入っていた。
「ほう、市長と・・湯川議員も・・二人とも土建業上がりで・・きっとここの工事も親族がらみだろうな。」
「へえー。あれ、これ美味しいわ。」
亜美はほとんど紀籐の話に興味はもてず、並べられた料理をすべて食べてしまうような勢いでいた。

「これはこれは、紀籐署長。先日はありがとうございました。孫娘もすっかり元気を取り戻しました。」
会長が近づき握手を求めてきた。紀籐は軽くお辞儀をした。
「私どもが警察へ連絡して、ほんの数時間で解決いただけるなんて・・あなたは優秀な部下をお持ちだ。」
ちょうど、そばに市長もいて、
「ええ、わが市の警察は優秀です。市民生活の安全のために、この紀籐君が粉骨砕身で頑張ってくれている賜物ですよ。紀籐君、引き続き頑張ってくれたまえ。」
何だか、わが手柄のような笑顔で市長が答えた。何だか、魁会長の太鼓もちのような様子で、可笑しかった。
「会長・・こちらへ・・」
近くにいた秘書らしき男が会長を誘導した。

「なんだか可笑しいわね。市長より会長のほうが実力があるって感じで」
そばで会話を聞いていた亜美が料理を口にしながら言った。
「お前の見方は正しい。会長が市長の後援会長でもあるのだからな。会長の支援がなければ市長にはなれなかったはずだ。政治家なんてそんなものさ。・・それより、ほら。」
紀籐がそっと指差した先には、加藤医師の姿があった。
見事なドレスで着飾り、髪も結い上げ、持ち前の派手さが一層アップしていて、周囲とは違って見えた。
「へえ、あの人も魁トレーディングと関係があるってこと?」
「ああ・・」
紀籐と亜美はじっとその様子を見ていると、会長が近づいていった。二言三言、言葉を交わしたように見え、会長が周囲の人間を遠ざけ、すっと二人が、パーティ会場から出て行った。

「あれ?二人して消えたわね。・・なんだかただならぬ仲って感じ。」
「ああ・・会長とは10年以上前から。男と女の関係らしい。ただ、会長には当時奥さんもいたんで、まあ、お妾さんということになるから、公の場では見なかったんだが・・数年前に奥さんを亡くしてからは、ほとんど正妻気取りらしい。」
「へえ、知らなかった。・・じゃあ、その二人が、連続して事件の被害者になったってこと?」
「だから、ちょっと気になってね。偶然と考えるよりも何か関連があると考えたほうが面白いだろ。」
「面白がってる場合じゃないわ。不謹慎ね。」
紀籐は、亜美の言葉を聞いていなかった。それよりも出席者を一人一人確認するように見入っていた。
「それにしても、表の世界の人間ばかりだな・・まあ、脛にキズという奴もいるにはいるが・・まあ、まともなほうだ。これだけのパーティに、裏の世界の人間は現れないか・・おい、亜美、そろそろ帰るぞ。」

振り向くと、亜美は数人の若い男・・みなどこかの御曹司なのか・・に囲まれていた。亜美もそこそこ可愛い顔をしている。それに、会場内には年配者が多く、亜美のような若い娘の姿はほとんどなかった。そのために、若い男の的になってしまっていた。

「失礼!」
紀籐はそう言って、男達の中に割って入った。男たちが一斉に紀籐の顔を見た。
「おい、帰るぞ。・・・君たち、この娘に用事があるなら、橋川署へ来なさい。署長の私がお相手するから。」
「パパ、何言ってるのよ!」
その言葉に、男たちは一斉に引いていった。

パーティ会場になっている大ホールを出ると、静かなロビーだった。
「少し、社屋の様子を見てみるか?」
紀籐はそういうと、受付に近づき、警察バッジを見せた。
「橋川署の紀籐です。せっかく来たので、ここの警備システムを見せていただきたいのだが・・」
「申し訳ありません。本日は、パーティだけの使用ですので、2階以上はまだ入れません。・・御案内のパンフレットはございます。ご覧になりますか?」
「そうかい。じゃあいただきましょう。・・それと、このビルは地下はあるのかい?」
「あ、はい。社員用の駐車場がございます。本日は立ち入りは・・」
「いや、いいんだ。そうか、ありがとう。」
紀籐はそういうと魁トレーディングの案内パンフレットを受け取って、玄関へ向かった。

玄関に隣接した来客用駐車場に向かうのかと思うと、立ち止まり、パンフレットを広げた。
「どうしたの?パパ。」
「いや、お前は車で待ってるか?ちょっと見ておきたいんだが・・」
そういうと、来客用駐車場の反対側にある狭い通路を指差した。
「一緒に行くわ。」

二人は、その通路を通って、ビルの裏側へ回った。そこは地下駐車場の出入口になっていた。
中から黒塗りのベンツが数台出て行くところだった。後部座席はスモークが貼られていてわからなかったが、運転手はとても堅気とは思えない風体だった。

「やはりな・・」
「やはりって?」
「裏の世界の人間はやはり裏から出入するんだよ。きっとあの中に、会長と加藤医師もいるはずだ。署に帰って、車両ナンバーの照会をしてくれ。」


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はくちゃん

こんばんは
ご訪問いただきありがとうございます
これからもよろしくお願いします

by はくちゃん (2010-09-21 19:35) 

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